本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき浮腫に対する理学療法評価、介入の現時点でのエビデンスについてまとめたものである
基礎情報
病態
✔浮腫とは、組織間隙の水分の過剰な増加によって、組織間隙に水分が貯留した状態を示す¹⁾
体内の水分は、細胞内と細胞外の二つに分けられる. 2/3は細胞内、1/3は細胞外に存在しており、細胞外体液のうち、25%は血管内血漿、75%は組織間隙に存在している。これらの区分は、静水圧と膠質浸透圧により維持されており、血管透過性やリンパシステムも重要な役割を果たしている。これらの区分がバランスを崩した際に、組織間隙に浮腫が生じる
✔文献3では、
・組織間隙のものを水腫(間質性水腫)
・体腔内のものを腔水症
・皮下組織のものを浮腫
(全身水腫)
と呼び分けている³⁾
発生機序
主な発生機序は以下である²⁾
1. 血管内または血漿膠質浸透圧の低下
2. 膠質浸透圧の上昇
それぞれ原因となる発生機序を以下に記載する²⁾
血管内静水圧の上昇
1. 局所の静脈圧の上昇
1. 深部静脈血栓
2. コンパートメント症候群
3. 慢性静脈不全
2. 全身性の静脈圧の上昇
1. 心不全
2. 心膜炎
3. 肺高血圧症
4. 肝不全、肝硬変
3. 血漿量の増加
1. 妊娠
2. 月経前浮腫
3. じんふぜん
4. 心不全
5. 薬の副作用
膠質浸透圧の上昇
1. タンパク質の低下
1. ネフローゼ症候群
2. 妊娠高血圧腎症
2. タンパク質合成の低下
1. 栄養不足
2. 肝疾患、肝硬変
3. ビタミン欠乏症
3. 血管透過性の増加
1. 火傷
2. 虫刺され
3. 蜂窩織炎
4. アレルギー反応
4. リンパ管の閉塞
1. フィラリア症
2. 悪性リンパ腫
3. リンパ節郭清の術後
5. その他
1. 甲状腺機能低下症の粘液浮腫
2. 脂肪浮腫
リスク要因
50歳以上の患者において最も一般的な原因は静脈不全である²⁾
浮腫の原因として、
– 心不全
– 腎不全
– 肝機能障害
– 外傷
はどの年齢においても見られる²⁾
睡眠障害も浮腫の原因となる¹⁾²⁾
✔️文献3では、以下のように全身性浮腫、局所性浮腫に分類し、それぞれの原因疾患を記載している
評価方法
問診
問診にて浮腫の原因を評価することが何よりもまず大切である
– 浮腫が始まったのはいつか?
– 72時間以内の急性浮腫は深部静脈血栓、蜂窩織炎などの可能性あり
– 72時間以上の慢性浮腫は、うっ血性心不全や腎不全、肝疾患といった全身障害の可能性あり
– リンパ浮腫はリンパ郭清術後や外傷後に生じる
– 体位により浮腫は変化するか
– 静脈不全による浮腫は挙上により改善する
– 肝疾患やネフローゼ症候群などを原因とする膠質浸透圧の上昇による浮腫は挙上により変化しない
– 片側性か両側性か
– 片側性は深部静脈血栓や、静脈不全、腫瘍による静脈やリンパ管の閉塞の可能性あり
– 両側性は、静脈不全や慢性の心疾患や肺高血圧症、腎疾患、肝疾患および重度の栄養失調の可能性あり
– 薬は服用しているか. 浮腫はその薬服用後に生じているか
– 基礎疾患はないか(心疾患、腎疾患、肝疾患、甲状腺機能障害など)
– 睡眠障害はないか. 該当患者は日中に疲労感やあくびをしたり、肥満である
理学療法評価
圧痛テスト
深部静脈血栓症や複合性局所疼痛症候群があれば圧痛あり.
リンパ性浮腫は一般的に圧痛なし
皮膚の評価(温度、肌質、色)
– 急性の深部静脈血栓症や蜂窩織炎であれば皮膚温が上昇する
– 慢性静脈不全であれば、硬くて赤みがった皮膚となる
– 甲状腺機能低下症に伴う浮腫は軟部組織様の浮腫となる
圧痕テスト (Pitting test)
– 下肢の評価では、足関節内踝、脛骨の骨部、背足部を少なくとも2秒間押圧する. 押圧によりへこんだ部位が何秒間で回復したかを記載する¹⁾
– Grade 0は、むくみなし
– Grade 1は、2mmほどへこむもののすぐに回復する
– Grade 2は、4mmほどへこみ、回復までに15秒ほどかかる
– Grade 3は、6mmほどへこみ、回復までに30秒ほどかかる
– Grade 4は、8mmほどへこみ、回復までに30秒以上かかる
✔️リンパ性浮腫、脂肪浮腫では圧痕は見られない¹⁾
✔️圧痕テストは検者間信頼性が低かった⁴⁾
フィギュアエイト周径
(フィギュアエイト周径のリンク貼ってもらえる?)
主に足関節に用いられるが、手関節に用いることも可能
✔️先行研究⁴⁾にて、検者間信頼性が高い浮腫の評価方法は、水置換法とフィギュアエイト周径と報告されている. Physio Oneでは、利便性の観点からフィギュアエイト周径を推奨する
介入プラン
浮腫に対する介入は、その原因となっている病態によって異なる¹⁾.
参考として、医学的な介入方法を以下に紹介する²⁾
– うっ血性心不全、肝疾患、腎疾患に対しては利尿剤
– 深部静脈血栓に対しては抗凝固剤
– 薬物が原因であれば、可能な限り、その原因となる薬物の服用を避ける
理学療法により介入できる浮腫は以下である
慢性静脈不全にともなう浮腫
下肢挙上やコンプレッションソックスが効果的である²⁾
※ 圧迫療法は末梢動脈疾患には禁忌である
リンパ浮腫
リンパマッサージ、バンテージ、コンプレッションソックス、空気圧迫法などが有効である²⁾
筋骨格系疾患にともなう浮腫
– システマティックレビューにて、リンパドレナージは浮腫や痛みを改善するだけでなく、可動域やQOLも改善すると報告されている⁵⁾
– 別のシステマティックレビューにて、整形疾患術後にともなう浮腫に対しても複合的うっ血緩和療法やリンパドレナージを理学療法に取り入れることが推奨されている. ⁶⁾
– 足関節骨折や橈骨骨折後といった急性期には、リンパに対するトリートメントやバンテージの使用が推奨されている⁶⁾
– 他のコンプレッション用品と比べ、多層性の長さのあるコンプレッションソックスのみ浮腫の軽減に有効であった⁶⁾
その他
– 手の浮腫に対する徒手療法は低〜中等度のエビデンスにより支持されている⁷⁾
– 乳がんに対するリンパドレナージのエビデンスは不明⁸⁾
患者教育
浮腫を改善させるために、運動や食事など健康的な生活を送ることが推奨されている. また基礎疾患の発見や長期的な合併症を防ぐために、定期的な健康診断も推奨されている²⁾
Running Clinicによる浮腫の分類と対策
Running Clinicというカナダ理学療法士協会公認の教育団体では浮腫を以下の3つに分類しており
1. 関節包内に起きる浮腫(関節内に起きる滑膜炎)
2. 関節外に起きる浮腫(リンパ液)
3. 関節外に起きる浮腫(出血)
1に対しては、圧迫(+抗炎症薬の使用も検討する)
2に対しては、挙上+コンプレッションソックス
3に対しては、有酸素運動
が推奨されている
参考文献
- 【Guideline】Trayes KP, Studdiford JS, Pickle S, Tully AS. Edema: diagnosis and management. American family physician. 2013 Jul 15;88(2):102-10.
- 【Guideline】Goyal A, Cusick AS, Bansal P. Peripheral Edema. InStatPearls [Internet] 2020 Feb 17. StatPearls.
- 【Review】小野部純. 浮腫の基礎. 理学療法の歩み 2010; 21(1): 32-40. https://www.jstage.jst.go.jp/article/mpta/21/1/21_1_32/_article/-char/ja/
- 【Observation Study】Brodovicz KG, McNaughton K, Uemura N, Meininger G, Girman CJ, Yale SH. Reliability and feasibility of methods to quantitatively assess peripheral edema. Clinical medicine & research. 2009 Jun 1;7(1-2):21-31.
- 【Systematic Review】Anne-Marie Provencher, Élizabeth Giguère-Lemieux, Émilie Croteau, Stephanie-May Ruchat, Laurie-Ann Corbin-Berrigan The use of manual lymphatic drainage on clinical presentation of musculoskeletal injuries: A systematic review. Complementary Therapies in Clinical Practice. 2021 Nov;45:101469.
- 【Systematic Review】
- 【Systematic Review】
- 【Systematic Review】 2013 Jan 24;11:15.
- PEACE & LOVE: Management of soft-tissue injuries. Running Clinic.