本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 頚部周辺の明らかな原因が不明な痛みの総称
✔骨折や悪性腫瘍などを深刻例をルールアウトした後に、頚部痛の原因がメカニカルなものか神経性のものかに分類する¹⁾
✔多くの場合、頚部周囲の筋や頚椎の椎間関節、椎間板の障害といったメカニカルなものが原因となる ¹⁾²⁾
✔しかし、頚椎の退行変性や頚椎の可動性低下が痛みと一致するとは限らない。実際に、頚部痛のない14-18%の人にも画像所見の異常がみられた¹⁾ので、理学療法評価で機能障害を見つけることが大切となる
臨床で代表的にみられる症状
・頚部周辺の筋にコリまたは硬さを感じる
・立位や座位の姿勢を保つとコリが悪化する
・頚部の可動域制限や違和感
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献で報告されている有病率は以下である
- 年間発生率は16.2% ³⁾
- 22-70%の人が、生涯の内に頚部痛を経験する ¹⁾
- 加齢により有病率は増加し、50代の女性が一番多い ¹⁾
- 頚部痛患者の30%が慢性化する。ある報告では、頚部痛患者のうち37%の人が1年以上頚部痛を患っていた ¹⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている
- 年齢が40歳以上¹⁾
- 頚部痛の既往歴が長い¹⁾
- 腰痛を持っている:オッズ比1.6 ¹⁾
- 日常的に自転車に乗る:オッズ比2.4 ¹⁾
- 抑うつとした気分:リスク2倍以上³⁾
<仕事環境に関するリスク要因>⁴⁾
- 仕事に対する低い満足度:リスク1.28倍(95%CI 1.07-1.55)
- キーボードが体に近い:リスク1.46倍(95%CI 1.07-1.99)
- 仕事のバリエーションが低い:リスク1.27倍(95%CI 1.08-1.50)
- 筋緊張を自覚している:リスク2.75倍(95%CI 1.14-4.72)
- 持続的に不良姿勢で仕事を行うこと
予後の予測
✔文献で報告されている予後予測は以下である
- 頚部痛患者の30%が慢性化する¹⁾
- 首、肩症状でかかりつけ医を受診した443名の患者のうち、32%が1年間で症状が治った。症状の改善が見られなかった患者の特徴は、首肩に既往歴あり、心配性な性格、健康意識が低い、QOLが低いことが挙げられる¹⁾
- 別の研究では、年齢が40歳以上、腰痛や頭痛持ちの方の予後が悪かった³⁾
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・首周辺の筋にコリや硬さを感じる
・1つの姿勢を長期間保てない
・頭が重く感じ、支えるのが辛い
・肩や肩甲骨にも放散痛が走る片側性の痛み - 発症のきっかけ
・徐々に痛みが増してくる
・はっきりとした原因は覚えていないことが多い - 悪化要因
・長時間の不良姿勢
・精神的ストレス
・疲労 - 緩解要因
・自分での肩もみや首を鳴らす癖がある
・ストレッチやマッサージ - うつスクリーニング
・この1か月間で、落ち込んだり、鬱になったり、望みがなくなったという感情に悩まされることはよくありますか?
・この1か月間で、自身がしていることに対して関心が減ったり、喜びが減ったことに悩まされることはありますか?
視診・動作分析
- 立位および座位:頭の位置、肩の位置、首の反り、骨盤の傾き
- 仕事環境:パソコンのスクリーンの高さ、座席の高さ、キーボード、マウスの位置など
詳しくは人体工学に基づくデスク環境設定 - 呼吸パターン:特に慢性の場合は、呼吸補助筋を主に使う
触診
- 骨組織:椎間関節(前後の副運動)
- 筋組織:大胸筋、小胸筋、上腕二頭筋、肩甲挙筋、頚部伸展筋、上部僧帽筋
- 軟部組織:項靭帯
主な評価項目
- 可動性評価
・頚椎ROM:屈曲・伸展、回旋、側屈
※可動域の制限、違和感、最終可動域での痛みを確認する
・胸椎ROM:屈曲・伸展、回旋 - 筋力評価
・頭頚部屈曲テスト
・頚部深部屈筋群の持久力テスト - 上肢神経学テスト:腱反射、デルマトーム、ミオトーム
- 上肢神経力学テスト:ULTT1、ULTT2a、ULTT2b、ULTT3
鑑別診断
- 頚部痛のレッドフラッグ
- 頚椎症性神経根症:スパーリングテスト、頚椎引き離しテスト
- 上位頚椎の靭帯評価:翼状靭帯テスト、シャープパーサーテスト
- 椎骨動脈テスト
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
頚部痛への介入の基本的な流れは症状緩和・機能回復→セルフケアである
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
症状緩和・機能回復
- 徒手療法:
・一時的な疼痛緩和のために行うが単独での介入ではく他の介入方法と併行しておこなう
・疼痛管理:大胸筋、小胸筋、上腕二頭筋、肩甲挙筋、頚部伸展筋、上部僧帽筋トリガーポイント
・頚部可動域改善:片側頸椎PAモビライゼーションなど
✔急性期から慢性期において徒手療法はある程度の除痛効果を期待できるが、効果は一時的である (Grade B)¹⁾ - 運動療法:
・まずは等張性収縮運動から始め、徐々に等張性収縮運動へと進行する。不良姿勢が見られる場合は姿勢を正しやすくするためのモビリティエクササイズや肩甲骨周囲の筋力向上を目指す
・頚部可動域改善:斜角筋、胸鎖乳突筋ストレッチ
・肩甲骨の安定性向上:肩甲骨プッシュアップなど
・頚部の安定性向上:深層頚部屈筋訓練
✔急性期では可動域を向上するためのストレッチ、肩甲骨周辺の筋力トレーニングが推奨される。亜急性期の場合、頚部、肩甲骨周辺の筋持久力を向上する運動を行うべきである。慢性期の場合、頚部のストレッチ、頚部の固有感覚、筋力、筋持久力向上のためのエクササイズ、また、有酸素運動を組みあわせることが推奨されている (Grade B)¹⁾ - 鍼治療:
・理学療法の領域ではないため鍼灸師と連携する
✔慢性の場合、上記介入方法と併用して行うことが推奨されている (Grade B)¹⁾ - ホットパック:
・異常な筋スパズムを緩めて筋緊張を解くことに有効な可能性がある。一回10分を目安に数回行う - 患者教育:
・こまめに姿勢を変えるか、軽いストレッチなどを行う(30分毎を推奨)
・デスクや椅子の高さ、パソコンやキーボードの位置など、仕事環境を見直す
セルフケア
- 再発予防について詳しく調べた研究はなく、個人の状況により(職業など)完治が難しい場合もあるため、出来るだけ自分でコントロール出来るように運動習慣の習得や健康的な生活習慣を身に付ける事に努める
参考文献
- 【Guideline】Childs, J. D. et al. Neck pain: Clinical practice guidelines linked to the International Classification of Functioning, Disability, and Health from the Orthopedic Section of the American Physical Therapy Association. J Orthop Sports Phys Ther 38, A1–A34 (2008).
- 【Review】Steven P Cohen Epidemiology, Diagnosis, and Treatment of Neck Pain. Mayo Clinic proceedings. 2015 Feb;90(2):284-99.
- Identifying Risk Factors for First-Episode Neck Pain: A Systematic Review. Musculoslelet Sci Pract 2018 Feb;33:77-83.
- Int Arch Occup Environ Health Physical Risk Factors for Developing Non-Specific Neck Pain in Office Workers: A Systematic Review and Meta-Analysis. 2017. Jul;90(5):373-410.P
- 【Guideline】Blanpied, P. R., Gross, A. R., Elliott, J. M., Devaney, L. L., Clewley, D., Walton, D. M., … Robertson, E. K. (2017). Neck Pain: Revision 2017. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 47(7), A1–A83.