本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
病態
- 最も一般的な頭痛
✔国債頭痛分類(ICHD-Ⅲ)では一次性頭痛に分類される ¹⁾
✔緊張型頭痛が社会の生産性に与えるコストは、片頭痛の3倍だと言われている ³⁾ - 発生機序:
✔緊張型頭痛の正確なメカニズムはまだ明らかになっていない ¹⁾ - 分類:
✔主に以下の2つのタイプに分かれる ⁵⁾- 頻発反復性緊張型:30分から1週間ほどの頭痛が、月に14日以下の頻度で、3ヵ月以上続く
- 慢性緊張型:数時間~数日間、または絶え間なく持続する頭痛が月に15日以上の頻度で3ヵ月以上続く
代表的にみられる症状
・不連続で拡散する頭痛が軟部組織の不快感や緊張と共に起きる
・午前中は症状が軽く、時間とともに症状が悪化する
・頭痛の前兆はない
・頭蓋周辺の圧痛の増強
・上位頚椎を触診しても頭痛が誘発されない
・緊張型頭痛には他の頭痛の種類と比べて以下の特徴がある
・30分から7日ほど続く
・両側性
・締め付けられるような痛み痛みの強さ軽症から中等度
・歩行や階段昇降など日常的な動作で悪化しない
・悪心や吐き気はない
※慢性緊張型では軽度の悪心がみられることもある
・光過敏や音過敏はあってもどちらか一方のみ
※上記の症状が当てはまらない場合は、片頭痛など他の頭痛の種類の可能性がある
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献で報告されている有病率は以下である
- 一般人における生涯有病率は30~78% ¹⁾²⁾
そのうち多くが月1回程度の一過性のもの
2-3%の人が月15日以上続く慢性型頭痛を持つ ²⁾ - 好発年齢は30-39歳 ²⁾
- やや女性に多い ²⁾
リスク要因
- 現時点での詳しいリスク要因は不明である
予後の予測
✔緊張性頭痛の長期的な予後は良好だと考えられている。疫学調査において対象者の45%が12年後において症状の緩和もしくは消失が報告されている ²⁾
✔睡眠障害、慢性の緊張型頭痛、片頭痛との合併は予後の不良因子となる ⁴⁾
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・連続性のない拡散する頭痛が軟部組織の不快感や緊張と共に起きる
(ストレスや筋肉の過緊張による頭痛は片頭痛でもみられるため、注意する) - 発症のきっかけ
・頭痛の前兆はない - 悪化要因
・同じ姿勢を維持したり、首を動かしたり、周りの組織に負担をかけると生じる頭痛
・午前中は症状が軽く、時間とともに症状が悪化する - 緩解要因
・個人によって異なる
・安静の場合もあれば、マッサージやストレッチなど動くことで緩和することもある - 服薬状況を確認する
・月に15日以上NSAIDsなど鎮痛薬を服用している場合は薬物乱用頭痛に注意する
・3ヵ月以上服用している場合も注意する - 睡眠状況を確認する
・睡眠の質は身体の状態や頭痛の頻度と相関している場合がある
視診・動作分析
- 立位、座位の姿勢:頭の位置、首の反り、肩の位置、肩甲骨の位置
- 呼吸パターン:
- 職場環境:デスクや椅子の高さ、パソコンの位置など
詳しくは人体工学に基づくデスク環境設定を参照
触診
- 骨組織:頚椎関節(前後の副運動)、頚椎C1-3(可動性)
- 筋組織:
前頭筋、側頭筋、咬筋、翼突筋、胸鎖乳突筋、板状筋、僧帽筋上部
肩甲挙筋、大胸筋、小胸筋、頸部伸筋、後頭下筋群
主な評価項目
- 可動性評価
・頸椎ROM:屈曲・伸展、側屈、回旋
・胸椎ROM:屈曲・伸展、回旋
・大胸筋、小胸筋の伸長テスト
- 筋力評価
・頭頚部屈曲テスト
・頚部深部屈筋群の持久力テスト
鑑別診断
- 頚部痛のレッドフラッグスクリーニング
- 片頭痛:片側性、拍動性、中等度~重度、日常的な動作で悪化する¹⁾
- 頚原性頭痛:頚部屈曲回旋テスト
- 薬物乱用頭痛
- 二次性頭痛のスクリーニング
例:くも膜下出血で引き起こされる場合これまで経験したことのない頭痛、突然襲ってきた雷のような頭痛を訴える傾向がある - 顎関節症:顎関節に痛みを訴える時に確認する
介入プラン
介入プランの考え方
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
片頭痛への介入の基本的な流れは症状緩和・機能回復→セルフケアである
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
症状緩和・機能回復
- EMGバイオフィードバック:
・施設によってバイオフィードバックユニットがある場合は使用を検討する
・エビデンスレベルは高いが使用できる施設が限られていることから通常は他の介入方法を優先する
✔筋緊張のコントロール性を向上させることで疼痛緩和に効果が期待できる(Level A) ²⁾ - 徒手療法+運動療法:
・運動療法は簡単にできるストレッチやモビリティエクササイズから始め運動をする習慣をつけてもらう
・徒手療法は評価にもとづいて異常な筋スパズムが確認できる筋へアプローチする
・胸椎伸展向上:胸椎伸展ストレッチポール
・柔軟性向上:僧帽筋ストレッチ
・疼痛管理:側頭筋、肩甲挙筋、大胸筋、小胸筋、上部僧帽筋、頸部伸展筋、後頭下筋群トリガーポイント
✔頚部ストレッチ、姿勢向上エクササイズ、筋膜リリースなどと一緒に行った場合に頭痛の強度、頻度、期間を減らす効果が期待できる (Level C) 脊柱に対する徒手療法は効果が見られなかった²⁾ - 認知行動療法(Level C) ²⁾
・理学療法の領域ではないため臨床心理士と連携する - 鍼灸(Level C) ²⁾
・理学療法の領域ではないため鍼灸師と連携する - ホットパック
・筋肉の緊張を緩めて疼痛緩和効果が期待できるため使用する。一回10分以内を目安に数回行う - 患者教育
・デスクワーク中の不良姿勢を見直す。できるだけひとつの姿勢を長く保たない。理想は毎30分に軽いストレッチなどで休憩する
✔頭痛日記を書くことで、頭痛の頻度を経過観察でき、悪化の原因を見つけられる²⁾
✔心身のストレス、不適切な食事、カフェインの過剰摂取、脱水、睡眠障害、運動不足、心理的な問題や月経不順などが頭痛の原因になりうることを伝える²⁾
セルフケア
- 再発予防について詳しく調べた研究はなく、慢性化しやすいため、出来るだけ自分でコントロール出来るように運動習慣の習得や健康的な生活習慣を身に付ける事に努める
- 頭痛日記で頭痛の前兆や傾向が発見できれば悪化要因を取り除く
参考文献
- 【Statement】Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS) The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition. (2018). Cephalalgia, 38(1), 1–211.
- 【Guideline】Bendtsen, L., Evers, S., Linde, M., Mitsikostas, D. D., Sandrini, G., & Schoenen, J. (2010). EFNS guideline on the treatment of tension-type headache – Report of an EFNS task force. European Journal of Neurology, 17(11), 1318–1325.
- 【Systematic Review】Abu-Arafeh I, Razak S, Sivaraman B, Graham C. Prevalence of headache and migraine in children and adolescents: a systematic review of population-based studies.Dev Med Child Neurol2010;52:1088–97.Jensen R, Stovner LJ. Epidemiology and comorbidity of headache.Lancet Neurol2008;7:354–61.
- 【Clinical Trial】Lyngberg AC, Rasmussen BK, Jorgensen T, Jensen R. Prognosis of migraine and tension-type headache: a population-based follow-up study.Neurology2005;65:580–5.
- 【Review】Rebecca Burch Migraine and Tension-Type Headache: Diagnosis and Treatment. Medical Clinics of North America. 2019 Mar;103(2):215-233.
- 【Guideline】日本神経学会/日本頭痛学会. 慢性頭痛の診療ガイドライン2013. 医学書院