本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 自発的に、もしくは軽く頚部を捻ったことにより頚部痛を生じる疾患
✔一側性に急性の頚部痛や筋スパズムを生じ、頭頚部のねじれや可動域制限が特徴である ¹⁾
✔起床時に生じることが多く、一般的に寝違えと呼ばれる(局所性ジストニアと呼ばれることもある)²⁾
✔画像診断では組織的な変化は確認されない²⁾
✔主に頚部椎間関節、頸部周辺の筋、椎間板が原因になりえる²⁾
臨床で代表的にみられる症状
・起床時に痛くなる
・頚部周囲筋の伸張性低下
・頚部可動域の制限
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔思春期の若者~中年世代に多い²⁾
リスク要因
- 詳しいリスク要因は現時点で不明
予後の予測
- 予後は良好であり、数日で自然に治ることが多い
✔しかし約50%の患者において、痛みが慢性化したり、1年以内に再発することが多い。長期で経過を観察する必要がある³⁾
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・頚部への痛み
・頭痛を訴える場合もある - 発症のきっかけ
・起床時に痛くなった
・不良姿勢の持続などにより、急性の頚部痛や硬さが生じる - 悪化要因
・頚部の動作 - 緩解要因
・安静 - 既往歴
・頚部痛の既住歴がある(再発リスクが高い) - 鑑別診断のため神経系の症状がないか確認する
視診・動作分析
- 立位・座位姿勢:頭の位置、肩の位置、首の反り、骨盤の傾き
- 人間工学に基づいた座位の姿勢の評価:パソコンのスクリーンの高さ、座席の高さ、キーボード、マウスの位置など
触診
- 骨組織:頸椎椎間関節(前後の副運動)
- 筋組織:肩甲挙筋、頚部筋、上部僧帽筋、胸鎖乳突筋、斜角筋
主な評価項目
- 可動性評価
・頸椎ROM:屈曲・伸展、回旋、側屈
・胸椎ROM:屈曲・伸展、回旋 - 筋力評価
・頭頚部屈曲テスト
・頚部深部屈筋群の持久力テスト
・肩甲骨の固定性:僧帽筋中部・下部のMMT
鑑別診断
- 頚椎症性神経根症:スパーリングテスト、頚椎引き離しテスト
- 上位頚椎の靭帯評価:翼状靭帯テスト、シャープパーサーテスト
- 椎骨動脈テスト
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
ガイドラインおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
寝違えへの介入の基本的な流れは症状緩和・機能回復→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
症状緩和・機能回復
- 徒手療法:
・一時的な疼痛緩和のために行う。痛みが酷い時は胸椎の関節モビライゼーションなど頚部周囲をターゲットにする
・疼痛管理:肩甲挙筋、頚部筋、上部僧帽筋、胸鎖乳突筋、斜角筋トリガーポイント
・頚椎可動域改善:片側頸椎PAモビライゼーションなど
✔急性期では徒手療法は除痛効果を期待できる。しかし効果は一時的なものであり機能の改善につながるかは不明 (Grade B)³⁾ - 運動療法:
・急性期(0₋48時間)では痛みが悪化しない程度に行う
・胸椎や胸郭へのストレッチやモビリティエクササイズは積極的に行う
✔急性期では可動域向上のためのストレッチ、肩甲骨周辺の筋力トレーニングが推奨される (Grade B)³⁾ - 鍼治療:
・理学療法の領域ではないため鍼灸師と連携する
✔慢性期では、上記の介入方法と並行して行なうことが推奨されている (Grade B)³⁾ - 装具療法:
・他の介入方法を優先して行う
✔頚部に装着する装具は推奨されていない³⁾ - その他:
寝違えに対しては、鎮痛剤や筋弛緩剤が一般的に処方される。ストレッチや脊柱モビライゼーションは、疼痛がなく動かせる場合に可動域を向上させる ²⁾³⁾
再発予防
- 再発予防について詳しく調べた研究はない。理論的には胸椎、頸椎の可動性向上/維持や枕の高さを調整することなどが中心となる
参考文献
- 【Guideline】Childs, J. D. et al. Neck pain: Clinical practice guidelines linked to the International Classification of Functioning, Disability, and Health from the Orthopedic Section of the American Physical Therapy Association. J Orthop Sports Phys Ther 38, A1–A34 (2008).
- 2017 Jul;47(7):A1-A83 Neck Pain: Revision 2017. Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy.
- 【Review】Steven P Cohen Epidemiology, Diagnosis, and Treatment of Neck Pain. Mayo Clinic proceedings. 2015 Feb;90(2):284-99.