頚椎神経根症 Cervical Radiculopathy

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

 

病態

  • 頸椎の神経根がなんらかの原因で圧迫され、上肢に痛み、感覚異常、痺れが生じる疾患
    ✔圧迫される原因は頚椎ヘルニア、頚部脊椎症、骨棘など ¹⁾
    ✔組織的な圧迫だけではなく、変性により炎症誘発物質が発生し感作や痛みを引き起こすこともある ¹⁾

臨床で代表的にみられる症状
・突き抜けるような電撃痛
・上肢、特に肘から下のしびれや放散痛
・頚椎の椎間孔を狭めると動作をすると痛みが悪化
(患側側屈+患側回旋+伸展)
・デルマトーム、マイオトームにて、圧迫されている神経根と対応する部位に、感覚異常、筋力低下、腱反射低下がみられる

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が報告されている

  • 年間発生率:10万人中83.2人(男性は10万人中107.3人、女性は10万人中63.5 人)²⁾
  • 好発年齢は、50代と60代 ²⁾
  • 60%以上の症例は、C6とC7の神経根症状 ²⁾

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている

  • 喫煙 ¹⁾⁵⁾
  • 腰椎神経根症の既往 ¹⁾⁵⁾
  • 日常生活で繰り返し重いものを持ち運ぶなど力仕事をすることが多い ¹⁾
  • 振動する機器の使用¹⁾
  • 飛込競技、ゴルフ¹⁾

予後の予測

ほとんどのケースで予後は良好である
✔文献では以下の予後予測が報告されている

  • 急性頚椎神経根症の85%以上は、特異的な介入なしで8−12週以内に改善する¹⁰⁾  
  • ほとんどの患者において4-6ヶ月で大きな改善がみられる¹⁾  
  • 圧迫の原因が明確で、介入の即時効果がみられる場合は回復が早い傾向にある。その一方、症状の期間が長いと予後が悪くなる¹⁾  
  • 頚髄症や骨折や靭帯損傷により頚椎不安定性がある場合、6ヶ月経っても症状が改善しない場合に手術適応が考慮される¹⁾  

神経組織の回復過程は、下記の表を参照

 

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

問診

  • 現在の症状
    ・突き抜けるような電撃痛や上肢の痺れを訴える
    ・肘から下で発症しやすい
    ・痛みがなく、感覚麻痺や痺れ単独の場合もある
    ・片側のみの発症が多い
  • 発症のきっかけ
    ・明らかなきっかけはなく徐々に痛くなる
  • 悪化要因
    ・首の動作や手を伸ばす動作
  • 緩解要因
    ・安静

視診・動作分析

  • 姿勢:不良姿勢は神経への負担増加につながる可能性がある
    ・頚椎過伸展および過回旋
    ・胸椎後弯
    ・肩甲骨下制

触診

  • 骨組織:頚椎(横方向への滑り)、椎間関節(上下の副運動)
  • 筋組織:斜角筋、頚部深屈筋、肩甲挙筋、僧帽筋上部

主な評価項目

  • 可動性評価
    ・頚椎ROM:屈曲・伸展、回旋、側屈
    ・手関節ROM:伸展・屈曲
  • 神経学テスト
    ・デルマトーム:C5-8
    ・マイオトーム:C5 (肘屈曲)、C6 (手背屈)、C7 (肘伸展)、C8 (手指屈曲)
    ・腱反射:C5-6 (上腕二頭筋)、C7 (上腕三頭筋)
    ※圧迫されている神経根のエリアに感覚異常、筋力低下、腱反射の低下がみられる

  • 神経力学テスト
    ULTT 1:正中神経のストレステスト
    ULTT 2a:正中神経のストレステスト
    ULTT 2b:橈骨神経のストレステスト
    ULTT 3:尺骨神経のストレステスト
    ULTT4つ行うと感度97%、特異度69%²⁾。個別では、感度はULTT1が83%、特異度はULTT3が88%と最も高い²⁾

鑑別診断

 

介入プラン

エビデンスに基づいた介入方法

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

頚椎神経根症への介入の基本的な流れは症状緩和・機能回復→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく

症状緩和・機能回復

  • 牽引
    ✔神経孔が広がり、神経の圧迫を抑えられる効果が期待できる。急性期の痛みが収まった後に一番効果的である。自宅で牽引できる器具もあるがその効果に十分なエビデンスは現時点ではない ³⁾
  • ストレッチ
    ・一時的な疼痛緩和効果のために行う、強度が強いと逆に悪化する場合もあるため痛気持ちいい程度で止める
    ・疼痛管理:斜角筋ストレッチ、神経モビライゼーション
    ✔介入初期に除痛効果のために軽いストレッチは電気治療、冷却・温熱治療と並行して行われることが多い¹⁾⁷⁾
  • 筋力トレーニング
    ・頸部の筋力低下は頚部への負荷の増加や痛みの閾値を下げる可能性があるため筋力トレーニングによって改善を目指す。理論的には機能の改善が見込めるがトレーニングの効果を詳しく調べた研究は見当たらない
    ・筋力トレーニング:頚部深屈筋の筋力向上トレーニング
    ✔痛みが改善していくと同時に頚部周辺の筋力トレーニングを徐々に始めることが推奨される¹⁾⁷⁾
  • 頚椎マニピュレーション
    ・エビデンスに対してリスクが高いため基本的に徒手牽引など他の徒手療法を優先的に行う
    ✔短期間での効果はある程度のエビデンスがあるが、長期間での効果はあまり期待できない。また、稀ではあるが痛みが悪化したり、脊髄症などのリスクもある¹⁾⁷⁾
  • 徒手療法:
    ・確立したエビデンスはないが一時的な疼痛緩和を期待できるため検討する
    ・疼痛管理:斜角筋、頚部深屈筋、肩甲挙筋、僧帽筋上部トリガーポイント
    ・頸椎関節可動域向上:片側頸椎PAモビライゼーション
  • ホットパック
    ・筋スパズムを緩和でき一時的な疼痛緩和が期待できる。一回10₋20分を数回行う
  • 患者教育
    ・評価に不良姿勢が見られる場合は、姿勢改善へのアドバイス、一つ
    ・神経への負荷を減らすために、寝る時に脇の間にクッションか枕で腕をサポートする

再発予防

  • 再発予防方法について詳しく調べたエビデンスは現時点ではないため、運動療法やセルフケアで頸部の筋力保持、可動性の保持を目指す

臨床例

参考文献

  1. 【Review】Sravisht Iyer and Han Jo Kim Cervical radiculopathy. Curr Rev Musculoskelet Med. 2016 Sep; 9(3): 272–280. doi: 10.1007/s12178-016-9349-4
  2. 【Systematic Review】Erik J ThoomesSarita van GeestDanielle A van der WindtDeborah FallaArianne P VerhagenBart W KoesMarloes Thoomes-de GraafBarbara KuijperWendy G M Scholten-PeetersCarmen L Vleggeert-Lankamp. Value of Physical Tests in Diagnosing Cervical Radiculopathy: A Systematic Review. The Spine Journal. 2018 Jan;18(1):179-189.
  3. 【Clinical Trial】Joghataei MT, Arab AM, Khaksar H. The Effect of Cervical Traction Combined With Conventional Therapy on Grip Strength on Patients with Cervical Radiculopathy. Clinical Rehabilitation. 2004 18: 879-887.
  4. 【Clinical Trial】Shah KC, Rajshekhar V. Reliability of diagnosis of soft cervical disc prolapse using Spurling’s test. British Journal of Neurosurgery. October 2004; 18(5).
  5. 【Review】Deanna Lynn Corey, Douglas Comeau. Cervical Radiculopathy. Medical Clinics of North America Journal 98 (2014) 791–799
  6. 【Guideline】Fehlings, M. G., Tetreault, L. A., Riew, K. D., Middleton, J. W., Aarabi, B., Arnold, P. M., … Wang, J. C. (2017). A Clinical Practice Guideline for the Management of Patients With Degenerative Cervical Myelopathy: Recommendations for Patients With Mild, Moderate, and Severe Disease and Nonmyelopathic Patients With Evidence of Cord Compression. Global Spine Journal, 7(3_suppl), 70S–83S.
  7. 【Guideline】Bono, C. M., Ghiselli, G., Gilbert, T. J., Kreiner, D. S., Reitman, C., Summers, J. T., … Lamer, T. (2011). An evidence-based clinical guideline for the diagnosis and treatment of cervical radiculopathy from degenerative disorders. The Spine Journal, 11(1), 64–72.
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  9. 【Guideline】Kjaer, P., Kongsted, A., Hartvigsen, J., Isenberg-Jørgensen, A., Schiøttz-Christensen, B., Søborg, B., … Povlsen, T. M. (2017). National clinical guidelines for non-surgical treatment of patients with recent onset neck pain or cervical radiculopathy. European Spine Journal, 26(9), 2242–2257.
  10. 【Review】Warren Magnus; Omar Viswanath; Vibhu Krishnan Viswanathan; Fassil B. Mesfin. Cervical Radiculopathy. Stat Pearls, 2020
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  12. 【RCT】Ragonese J (2009) A randomized trial comparing manual phys- ical therapy to therapeutic exercises, to a combination of thera- pies, for the treatment of cervical radiculopathy. Orthop Phys Ther Pract 21:71–76

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