本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 頭痛発作を繰り返す疾患
- 国際頭痛分類(ICHD-Ⅲ)では、一次性頭痛に分類される
・その他の疾患から二次的に生じた場合は、二次性頭痛として診断される¹⁾
・以前から存在する片頭痛が、原因疾患により慢性化または有意に悪化した場合、一次性および二次性頭痛の両方として診断される¹⁾ - 分類:
✔主に2つのタイプに分類される¹⁾
・前兆のない片頭痛:頭痛発作を繰り返し、発作は4−72時間持続する。片側性、拍動性で中等度〜重度の強さであり、日常動作で頭痛が憎悪する。随伴症状あり
・前兆のある片頭痛:主として頭痛に先行、または随伴する一過性の局在神経症状によって特徴づけられる - 発生機序:
✔中枢神経系の変化(脳幹核の活性化や、皮質の過剰興奮または抑制)や三叉神経の関与(頭蓋静脈や硬膜に痛みを伴う炎症を生じさせる神経ペプチドの興奮)が考えられている²⁾
前兆のある片頭痛の診断基準¹
A. B-Dを満たす発作が5回以上ある
B. 頭痛発作の持続時間は、4−72時間
C. 以下のうち少なくとも2つを満たす
①片側性
②拍動性
③中等度〜重度の頭痛
④日常動作により頭痛が悪化する
または日常動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1つを満たす
①悪心または嘔吐
②光過敏および音過敏
E. 他に最適な頭痛分類の診断がない
前兆のない片頭痛の診断基準¹⁾
A. B-Cを満たす発作が2回以上ある
B. 以下の完全可逆性前兆症状が1つ以上ある
①視覚症状:90%以上にあり、閃輝暗点
②感覚症状:2番目に多い、チクチク感
③言語症状:失語性が多い
④運動症状
⑤脳幹症状
⑥網膜症状
C. 以下のうち少なくとも3つを満たす
①少なくとも1つの前兆症状は5分以上かけて徐々に進展する
②2つ以上の前兆が引き続き生じる
③それぞれの前兆症状は5−60分持続する
④少なくとも1つの前兆症状は片側性である
⑤少なくとも1つの前兆症状は陽性症状である
⑥前兆に伴い、あるいは前兆出現後60分以内に頭痛が生じる
D. 他に最適な頭痛分類の診断がない
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献で報告されている有病率は以下である
- 有病率が世界的に3番目に高い疾患
- 有病率は11.7%⁴⁾(女性15-18%、男性4-8%³⁾)
- 30歳代に最も多く、40歳代以降減少していく³⁾
- 男性12−17歳では4.9%、30歳代では9.0%、60歳以降では2.1%³⁾
- 女性の有病率は、18歳未満では7.3%、30歳代では38.1%、60歳以上では6.4%³⁾
- 7歳の子どもの有病率:1.4%
- 片頭痛患者のうち、31.3%は月に3回以上発作がある⁴⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている
- ライフスタイルの乱れ:不規則な食事や睡眠、ストレスの多い生活、カフェインの過剰摂取、運動不足²⁾
- 肥満:高頻度の片頭痛となるリスク2.9倍³⁾
- 過剰な求心性の刺激²⁾
- ホルモンバランスの乱れ²⁾
- 遺伝²⁾
片頭痛が慢性化するリスク
- 肥満:BMI30以上で慢性化リスク5倍、BMI25-29でリスク3倍³⁾
- 早期の薬の過剰摂取:リスク1.44-1.74倍³⁾
- カフェインの過剰摂取:リスク1.50倍³⁾
- 日中のいびき:リスク2.02倍³⁾
- 心配性:リスク2.2倍³⁾
頭痛全般に対するリスク
- 頭痛の既往:リスク4.15倍³⁾
- 他の部位の痛み:リスク1.43倍³⁾
- 睡眠障害:リスク1.67倍³⁾
- カフェイン摂取:リスク1.99倍³⁾
予後の予測
- 詳しい予後は重症度によって変わる
✔片頭痛患者の84%が1年経過しても片頭痛を持ち、3%は慢性片頭痛となる。その一方、10%は完全寛解、3%は一部寛解する³⁾
✔長期の予後として、片頭痛のあった64名のうち、12年後に42%は完全または一部回復したものの、38%は片頭痛を持ったままであった³⁾。片頭痛の頻度が高いこと、初発年齢が若いことは、予後が悪かった³⁾
✔7歳で片頭痛を持っていた小学生のうち、7年後に22%は完全寛解、37%は一部寛解、残り41%は片頭痛を持ったままであった³⁾。別の報告では、小学生の時に頭痛のあった73名のうち、40年後でも37%は片頭痛を持っていた³⁾
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・片側性で、拍動性の頭痛が生じる
※必ずしも片側性とは限らない
・頭痛発作は4−72時間続く
・悪心や吐き気、または光過敏・音過敏を伴う
・視覚や感覚に前兆症状を伴うものもある
・顎関節症や頸部痛など片頭痛と合併していることもあるため確認する - 発症のきっかけ
・突如生じる雷に打たれたかのような片頭痛
痛みの強さは中等度〜重度 - 悪化要因
・個人によって異なる。例:長時間のパソコン利用、首や肩こりなど - 緩解要因
・薬の服用
・安静
・また酷いケースでは何をしても頭痛が緩和されない場合もある
視診・動作分析
- 立位、座位の姿勢:頭の位置、首の反り、肩の位置、肩甲骨の位置
- 呼吸パターン:胸式呼吸
- 職場環境:デスクや椅子の高さ、パソコンの位置など
触診
- 骨組織:頚椎、胸椎
- 筋組織:頭蓋周辺の筋(前頭筋、側頭筋、咬筋、翼突筋、胸鎖乳突筋、板状筋、頸部伸筋、後頭下筋群)、脊柱起立筋
主な評価項目
- 可動性評価
・頸椎ROM:屈曲・伸展、側屈、回旋
・胸椎ROM:屈曲・伸展、回旋
・大胸筋、小胸筋の伸長テスト
- 筋力評価
・頭頚部屈曲テスト
・頚部深部屈筋群の持久力テスト
鑑別診断
- 頚部痛のレッドフラッグスクリーニング
- 緊張型頭痛
- 頚原性頭痛:頚部屈曲回旋テスト
- 他の二次性頭痛のスクリーニング
例:くも膜下出血で引き起こされる場合これまで経験したことのない頭痛、突然襲ってきた雷のような頭痛を訴える傾向がある - 顎関節症:顎関節に痛みを訴える時に確認する
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
- 片頭痛への対処は薬物療法、生活指導なども含めた包括的なアプローチが必要である²⁾。理学療法の効果を示したエビデンスは少ない
片頭痛への介入の基本的な流れは症状緩和・機能回復→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
症状緩和・機能回復
- 理学療法:
・運動する習慣をつけることなど、健康的な生活様式を目指すことが優先課題となる
✔有酸素運動を組み合わせた理学療法、およびバイオフィードバックやリラックス療法を組み合わせた理学療法が最も効果的であった⁵⁾ - 徒手療法:
・一時的な疼痛緩和効果のために行う。確立したエビデンスはなく、効果には個人差があるため評価で異常な筋スパズムが確認できる時に検討する
・疼痛管理:頭蓋周辺の筋(前頭筋、側頭筋、咬筋、翼突筋、胸鎖乳突筋、板状筋、頸部伸筋、後頭下筋群)、脊柱起立筋へのトリガーポイント、頸椎、胸椎モビライゼーション
✔ガイドラインには記載されていない²⁾が、頚椎への徒手療法は片頭痛に短期的な効果が見られたという報告や⁵⁾、脊椎への徒手療法が薬を用いた予防的な療法と同様の効果を示した報告もある⁶⁾。しかし、マニピュレーションは椎骨動脈を損傷するリスクもあるため注意が必要である⁵⁾ - 運動療法:
・習慣的に運動する習慣をつけてもらうことが最優先となる。まずはストレッチなど簡単な運動から始める
・胸椎伸展向上:ストレッチポールを使った胸椎伸展運動
・柔軟性向上:胸鎖乳突筋ストレッチ
✔週3回、10週間のランニングプログラムは、片頭痛の頻度および疼痛レベルの低下、ストレス軽減に有効であった⁷⁾ - 冷却療法:
・一時的な疼痛緩和効果のために使用する。肌へ直接当てるのではなく濡れたタオルを挟むようにする
✔頚部をアイスパックで30分冷やすと、疼痛レベルが31.8%±15.2%低下した⁸⁾ - 心理療法:
・理学療法の領域ではないため臨床心理士と連携する
✔リラックス療法や、バイオフィードバック療法、認知行動療法などで、ストレスへの対処法を身につけることが推奨される²⁾ - 患者教育:
・健康的な生活習慣の取得、また悪化要因の発見と解決方法を指導する
✔頭痛日記を書くことで、頭痛の頻度や強度を経過観察し、悪化の原因を見つける²⁾
✔ライフスタイルを見直す:規則的に食事を取る、睡眠を十分に取る、睡眠環境を整える、カフェイン摂取を避ける、ストレスへの対処法を身につける、リラックスするテクニックを覚える²⁾³⁾
再発予防
- 再発予防は引き続き頭痛に繋がるきっかけを予防し、健康的な生活習慣を継続してもらうことが中心となる
- 鍼灸:
・理学療法の領域ではないため鍼灸師と連携する
✔片頭痛への予防的治療方法として推奨される²⁾。1回30分、週1、2回を2ヶ月以上継続する必要あり²⁾
参考文献
- 【Statement】Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS) The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition. (2018). Cephalalgia, 38(1), 1–211.
- 【Guideline】Headache Working Group. Guideline for primary care management of headache in adults (2nd ed). 2016
- 【Review】Bigal, M. E., & Lipton, R. B. (2008). The prognosis of migraine. Current Opinion in Neurology, 21(3), 301–308.
- 【Clinical Trial】Lipton, R. B., Bigal, M. E., Diamond, M., Freitag, F., Reed, M. L., & Stewart, W. F. (2007). Migraine prevalence, disease burden, and the need for preventive therapy. Neurology, 68(5), 343–349.
- 【Review】Biondi DM. Physical treatments for headache: a structured review. Headache: The Journal of Head and Face Pain. 2005 Jun;45(6):738-46.
- 【Systematic Review】Chaibi A, Tuchin PJ, Russell MB. Manual therapies for migraine: a systematic review. The journal of headache and pain. 2011 Apr 1;12(2):127-33.
- 【Clinical Trial】Darabaneanu S, Overath CH, Rubin D, Lüthje S, Sye W, Niederberger U, Gerber WD, Weisser B. Aerobic exercise as a therapy option for migraine: a pilot study. International journal of sports medicine. 2011 Jun;32(06):455-60.
- 【Clinical Trial】Sprouse-Blum AS, Gabriel AK, Brown JP, Yee MH. Randomized controlled trial: targeted neck cooling in the treatment of the migraine patient. Hawai’i Journal of Medicine & Public Health. 2013 Jul;72(7): 237–241.