手根管症候群 Carpal Tunnel Syndrome

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

 

病態

  • 正中神経が手関節の手根幹を通る位置で圧迫されて、しびれや痛みを起こす障害
  • 最も一般的な神経障害である
    ✔最大73%のケースで両方の手で発症する ³⁾
    ✔ほとんどの症例は原因不明の特発性。その他の関連している要因は手の酷使、妊娠、外傷、糖尿病、甲状腺機能低下症を含む³⁾

臨床で代表的にみられる症状
・断続的なしびれやチクチク感が第1-3指に生じる
・症状進行により感覚麻痺、母指対立筋や母指外転筋の筋力低下、母指球萎縮がみられる
・正中神経のティネル徴候の陽性
ファーレンテストの陽性

 

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている

  • 一般人の有病率:1₋5%³⁾
  • 年間発生率:1000人中0.8-14.8人
  • 65-74歳の高齢者に最も多い ²⁾
  • 女性の有病率は男性に比べて3₋4倍 ²⁾
  • 製造工場職で働く人たちの有病率:5₋21%

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている

  • 1型、2型糖尿病:オッズ比 1.97 ²⁾
  • 女性:特にホルモン補充療法をしている者、避妊薬を服用している者⁶⁾
  • 高BMI⁶⁾
  • 高齢⁶⁾
  • 手首を酷使する、繰り返し手首を屈曲する作業を伴う職業⁶⁾
  • 喫煙²⁾
  • 甲状腺機能低下症 ²⁾
  • 妊娠 ²⁾
  • 閉経 ²⁾
  • 手根管症候群はデスクワーカーに多いイメージがあるが、現時点ではパソコン作業は大きなリスク要因ではないと報告されている ²⁾

予後の予測

  • 予後の予測は個人の状況や重症度によって異なる
  • 現時点では、予後良好例、不良例の分類は不明である
    ✔手術療法と保存療法どちらも臨床的に改善効果を示している²⁾
  • 神経組織の回復過程は、下記の表を参照

 

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

問診

  • 現在の症状
    ・断続的なしびれやチクチク感が第1~3指に生じる
    ・上記は手全体でも起こりえる
    ・手や手関節に痛みを感じる
  • 発症のきっかけ
    ・はっきりとしたきっかけはなく徐々に痛みが生じる
  • 悪化要因
    ・夜間に症状が悪化し、眠りが妨げられることがある
    ・手関節を屈伸させると痛い
    ・小さいものをつかんだり握ることが難しい
  • 緩解要因
    ・安静
    ・症状が悪化している場合は痛みが持続する場合が多い
  • 社会歴
    ・デスクワーク、肉体労働者など手を酷使する仕事をしていることが多い

視診・動作分析

  • 立位また座位での姿勢:不良姿勢。胸椎後弯で、頸椎伸展制限
  • 母指球の萎縮
    ※かなり疾患が進行している場合に見られる

触診

  • 骨組織:手根骨の可動性
  • 筋組織:母指対立筋、母指外転筋、円回内筋、浅指屈筋

主な評価項目

  • スペシャルテスト
    ファーレンテスト感度34-85%、特異度38-100%¹⁾²⁾
    手根管ティネル徴候:感度25-100%、特異度55-100%¹⁾²⁾
    ・正中神経圧迫テスト:30秒以内に症状が誘発されると陽性:感度・特異度不明
    ファーレンテストとティネル徴候の二つを調べることを推奨する
  • 可動性評価
    ・手関節:掌屈、背屈
  • 筋力評価 ※症状進行により筋力低下が起こりやすい
    ・母指対立筋、母指外転筋MMT
    ・握力
  • 神経学テスト
    ・デルマトーム:正中神経支配部位の感覚麻痺
  • 神経力学テスト
    ULTT 1:正中神経のストレステスト

鑑別診断

  • 頚椎スクリーニング:頸椎の動きで症状が誘発される、また、主な訴えが首の痛みで上肢に関連痛や関連しているデルマトームで感覚異常や、筋伸長反射の低下がみられる場合に考慮する
  • 肩関節スクリーニング
  • 肘関節スクリーニング
  • 手関節・手部スクリーニング:痛みが主な訴えで神経性の症状が無い場合に確認する
  • 胸郭出口症候群:シリアックリリーステスト
  • 血流障害:アレンテスト

 

介入プラン

エビデンスに基づいた介入方法

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

三角繊維軟骨損傷への介入の基本的な流れは症状緩和・機能回復→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく

症状緩和・機能回復

  • 患者教育
    ・病態への理解、活動や動作制限の意義について説明する
    ・デスク環境も考慮する。詳しくは人間工学に基づくデスク環境設定
    ✔痛みが悪化する動作、活動制限についての指導、人間工学に基づくキーボードの購入を検討する。人間工学に基づくキーボードやマウスが科学的に症状の緩和につながるかは不明である²⁾
  • コルチゾール注射
    ・理学療法の領域ではないため担当の医師と連携する
    ✔プラセボ群に比べて1年後で症状の緩和効果が報告されているが対象とされた111人の内75%は1年以内に手術を受けたため症状の緩和効果はあるが疾患の進行を予防する効果は小さい²⁾
    ✔軽症から中等症の場合は痛みの緩和に有効であると報告されている³⁾
    ✔糖尿病との合併、症状が慢性化している場合、高齢者は予後不良因子と考えられている³⁾
    ✔4週間で効果が表れない場合は他の治療選択肢を検討する³⁾
  • 装具療法:
    ・他の介入方法と併行して行うことを検討する
    ・装具は中間位(手首伸展0°で使用することが推奨される)
    ✔装具は手首にかかる機械的なストレスを減らす効果が期待されるが、他の介入方法と比べて効果的であると確立したエビデンスはない²⁾
    ✔176人を対象にしたランダム化比較試験では37%で症状の緩和に繋がった³⁾
    ✔4週間で効果が表れない場合は他の治療選択肢を検討する³⁾
  • 神経モビライゼーション
    ✔神経モビライゼーション単独、または、装具療法と並行して行っても痛みや機能の改善への有用性はエビデンスが不十分である²⁾
  • 腱グライドエクササイズ
    ✔神経モビライゼーションと比べて短期間でより効果的かもしれないが弱いエビデンスである²⁾
  • 徒手療法(モビライゼーション)
    ✔徒手療法の痛みの改善や握力への有用性には相反するエビデンスが存在するため、明らかな効果は不明である。手根骨モビライゼーションは短期間での効果が期待できるかもしれない¹⁾²⁾
  • 徒手療法
    ・一時的な疼痛緩和、可動域の改善を目的に行う
    ・疼痛管理:手根骨モビライゼーション、浅指屈筋トリガーポイント
    ・手関節掌屈改善:尺骨手根間モビライゼーション、浅指屈筋トリガーポイント
    ・手関節背屈改善:尺骨手根間モビライゼーション、総指伸筋トリガーポイント✔トリガーポイントや筋膜モビライゼーションが短期間での効果には中等度のエビデンスがある。長期間で効果が持続するかは不明である⁴⁾
  • 超音波療法
    ・保存療法の一部として検討しても良いが、他の介入方法と併行して行う
    ✔短期間での有用性はプラセボと比べて相反するエビデンスが存在する。中期においてはプラセボに比べて症状の改善に対する有用性が中等度のエビデンスである。しかし、最適な周波数、照射面積は明らかにされていない²⁾⁴⁾

再発予防

  • 最適な再発予防について詳しく調べた研究は見当たらない、そのため評価に基づいて手根管の負担を減らすことが主な予防方法となる

手術療法

✔軽症ー中等症は保存療法がまず選択される⁶⁾
✔幾つもの質の高い研究で手術療法が保存療法よりも効果的であると報告されている⁶⁾
✔手根管減圧術の予後は比較的良い。70₋90%が手術の結果に満足している³⁾
✔手術による合併症も少なくほとんどが1%以下である(神経損傷や血管損傷)。ただ、有痛性瘢痕やPillar pain(手掌の痛み)は7₋18%と報告されていて、術後最大2年持続する場合もある³⁾
✔以下は手術の予後不良因子とされている³⁾
 ・糖尿病
 ・不健康
 ・胸郭出口症候群との合併
 ・ダブルクラッシュ症候群との合併(2か所で神経圧迫が起こっている)
 ・喫煙やアルコール依存症
 ・術前の神経伝導速度検査で異常なし
 ・術前の短母指外転筋萎縮


臨床例

参考文献

  1. 【Guideline】Huisstede, B. M., Fridén, J., Coert, J. H., & Hoogvliet, P. (2014). Carpal Tunnel Syndrome: Hand Surgeons, Hand Therapists, and Physical Medicine and Rehabilitation Physicians Agree on a Multidisciplinary Treatment Guideline—Results From the European HANDGUIDE Study. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 95(12), 2253–2263.
  2. 【Review】Luca PaduaDaniele CoraciCarmen ErraCostanza PazzagliaIlaria PaolassoClaudia LoretiPietro CaliandroLisa D Hobson-Webb Carpal Tunnel Syndrome: Clinical Features, Diagnosis, and Management. Lancet, Neurology. 2016 Nov;15(12):1273-1284. 
  3. 【Review】Scott D MiddletonRaymond E Anakwe Carpal Tunnel Syndrome. BMJ. 2014 Nov 6;349:g6437. 
  4. 【Systematic Review】Bionka M HuisstedePeter HoogvlietThierry P FrankeManon S RandsdorpBart W Koes Carpal Tunnel Syndrome: Effectiveness of Physical Therapy and Electrophysical Modalities. An Updated Systematic Review of Randomized Controlled Trials. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2018 Aug;99(8):1623-1634.e23. 
  5. 【Systematic Review】Koulidis, K., Veremis, Y., Anderson, C., & Heneghan, N. R. (2019). Diagnostic accuracy of upper limb neurodynamic tests for the assessment of peripheral neuropathic pain: A systematic review. Musculoskeletal Science and Practice. 
  6. 【Review】Carpal Tunnel Syndrome: Making Evidence-Based Treatment Decisions. Orthopaedic Clinic of North America.2018 Apr;49(2):223-229.
     

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