母指尺側側副靭帯捻挫 Thumb UCL Sprain

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

 

病態

  • 母指CM関節に対する外反の力に抵抗する靭帯を損傷する障害
    ✔母指の尺側側副靭帯(UCL)の損傷が最も多い ¹⁾

  • 受傷機転:
    ✔母指CM関節に過外転、過伸展の力が加わり損傷する。転倒した際に伸ばした手で地面を着いた時や転倒したさいに何かに掴まろうとした際に損傷することが多い ³⁾
    ✔スキーでの外傷に多いため、スキーヤー母指とも呼ばれる³⁾
    ✔過外転によって母指内転筋腱膜が遠位に引っ張られ、UCLの断端が正常な位置に戻れなくなった状態をステナー病変と呼ぶ ¹⁾²⁾
        (ステナー病変の図)Mahajan M et al.(2013)図2より引用²⁾

臨床で代表的にみられる症状
・何かを握る、また、母指と人差し指でつまむことが難しい
・指や手を使うと母指の付け根が痛む
・外反ストレステストでの痛みの誘発および尺側側副靭帯の弛緩
・尺側側副靭帯の圧痛
・MP関節の近位に断裂した靭帯が“ダマ”となって触診の際に触って確認できる(ステナー病変)

 

分類

✔以下のGradeに分けられる ⁵⁾

  • Grade 1:関節の弛緩を伴わない部分断裂
  • Grade 2:関節の弛緩が確認できるが、エンドフィールの反発は硬い
  • Grade 3:完全断裂、関節の弛緩が確認でき、エンドフィールの反発は柔らかい

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている

  • 母指の靭帯損傷のうち、86%は尺側側副靭帯の損傷 ²⁾
  • 発生率は100000人中50人(0.5%)¹⁾
  • スキーでの有病率は7-32%と高い²⁾
  • ラグビー、ハンドボール、バスケットバール、バレーボールでの受傷も多い³⁾

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する

✔スキーなどのウィンタースポーツでは15歳以下ではリスクが1.9倍 ³⁾⁶⁾
✔転倒 ³⁾

予後の予測

  • 予後は重症度によって異なる
    ✔一般的にGrade 1と2は保存療法である。Grade 3もステナー病変が見られない場合、時には保存療法で治療される¹⁾
  • 不安定性がある完全断裂やステナー病変が確認できる場合は、手術適応を考慮する
    ✔手術は受傷後2週間以内に行われることが好ましい ²⁾
    ✔受傷後に受診が遅れるほど予後は悪い²⁾

 

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

問診

  • 現在の症状
    ・母指の付け根の痛み、腫れ、変形
  • 発症のきっかけ
    ・母指が外方向に強制的に引っ張られた疑いがある
    ・スキーやバレーボールといったスポーツをしていた
  • 悪化要因
    ・指や手を使うと母指の付け根が痛む
    ・何かを握る、また、母指と人差し指でつまむことが難しい
  • 緩解要因
    ・安静

視診・動作分析

  • 母指の付け根に腫れ、または血腫が確認できる
    ✔第一MP関節に腫れがある場合はステナー病変が疑われるが感度や特異度は不明²⁾
  • 母指と人差し指でつまむ際にMP関節に関節弛緩がみれる
  • 明らかな変形がある場合、骨折や脱臼を疑う

触診

  • 軟部組織:尺側側副靭帯に圧痛あり
  • 骨組織:手根中手骨
  • 筋組織:短母指外転筋、母指内転筋、母指対立筋、短母指屈筋

主な評価項目

  • スペシャルテスト
    母指外反ストレステスト:感度、特異度は不明
    ※腫れや痛みのある急性期ではまずは固定し、約1週間後に再評価をすることが推奨されている²⁾
  • 可動性評価
    ・母指ROM:屈曲・伸展、内転・外転
    ・MP関節ROM:屈曲・伸展、内転・外転
  • 筋力評価
    ・親指と人差し指でつまむ強さ

鑑別診断

  • 頚椎スクリーニング
  • 肘関節スクリーニング
  • 手関節スクリーニング

 

介入プラン

エビデンスに基づいた介入方法

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

内側上顆炎への介入の基本的な流れは急性期→亜急性期→回復期→スポーツ復帰である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく

急性期

  • 急性期の主な目的はGradeの鑑別、保存療法への適応判断、患部の固定となる
  • 装具療法
    ・MP関節の軽度の屈曲、そして、多少の尺側偏位の位置で固定する。IP関節は動いていても良い
    ✔母指を固定するための装具が最短10日、一般的には4₋6週間着用される ²⁾
  • 運動療法
    ・固定している間は手首、他の指の可動域運動を行う

亜急性期

  • 装具療法:
    ・状態によって装着を続ける
  • 運動療法:
    ・固定期間を終えると同時に可動域を改善するための運動や握力増強のための運動を始める
    ・握力増強:グーパー運動、ハンドグリップ
    ・母指外転筋増強:ゴムバンドによる抵抗を加える
    ・固定している間は手首、他の指の可動域運動も行う
    ✔固定後は母指の可動域の正常化、その後は握力増強トレーニングが行われる ¹⁾³⁾
  • 徒手療法:
    ・固定後に異常な筋スパズムが確認できる場合は徒手療法にて一時的な疼痛緩和、可動域向上を目的に検討する
    ・疼痛管理:短母指外転筋、母指内転筋、母指対立筋、短母指屈筋トリガーポイント
    ・母指屈曲改善:母指屈曲筋トリガーポイント
    ・母指伸展改善:母指伸展筋トリガーポイント
    ・母指外転改善:短母指外転筋トリガーポイント
    ・母指内転改善:母指内転筋、母指対立筋トリガーポイント
    ・MP関節可動域改善:MP関節モビライゼーション

回復期

  • 運動療法:
    ・亜急性期に引き続き母指の可動域正常化、握力増強やMP関節の安定性を向上するトレーニングを行う
  • 徒手療法:
    亜急性期と同様に引き続き行う

スポーツ復帰

  • 明確な指標はないが通常痛みが消失、可動域の回復、MP関節の不安定性がない場合にスポーツへ復帰する
    ✔スポーツ復帰までは通常3ヵ月かかる²⁾

手術療法vs保存療法

  • 完全な合意には至っていないが以下を考慮する
    ✔完全断裂でない場合は保存療法が選択される²⁾
    ✔評価において不安定性がある、骨片断裂やステナー病変が見られる場合は手術療法が選択される²⁾
    ✔手術療法による回復率は90₋96%である²⁾

手術後のリハビリ

  • 基本的な介入の流れは保存療法と変わらず、固定後に可動域の回復、握力向上のための筋力トレーニングが行われる

参考文献

  1. 【Rview】Avery III, D.M., Caggiano, N.M., and Matullo, K.S. Ulnar Collateral Ligament Injuries of the Thumb: A Comprehensive Review. Orthopedic Clinics of North America 2015 46, 281–292.
  2. 【Review】Mahajan M, RhemrevS. Rupture of the ulnar collateral ligament of the thumb – a review. International Journal of Emergency Medicine 2013 6:31
  3. 【Review】Simerjit Singh MadanDinker R PaiAvneet KaurRuchita Dixit Injury to Ulnar Collateral Ligament of Thumb. Orthopaedic Surgery,2014 Feb;6(1):1-7. 
  4. 【Clinical Trial】M Langran and S, Selvaraj. Snow sports injuries in Scotland: a case-control study. Br J Sports Med. 2002, 36(2), 135–140. 
  5. 【Review】Daniel M Avery 3rdElizabeth R InkellisMichelle G Carlson Thumb collateral ligament injuries in the athlete. Current reviews in Masculoskeletal Medicine. 2017 Mar;10(1):28-37.
  6. 【Clinical Trial】M LangranS Selvaraj Snow sports injuries in Scotland: a case-control study. British Journal of Sports Medicine. 2002 Apr;36(2):135-40.

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