本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 手関節の変性によって起こる痛み
✔外傷によって二次的に引き起こされることが多い。舟状月状骨靱帯損傷や骨折後の偽関節、橈骨遠位端骨折後など⁴⁾
✔キーンベック病やマーデルング病の疾患によって引き起こされることもある ⁴⁾ - 病態生理
・主に骨折、靭帯損傷、血流障害によってOAへと進行する
✔手関節は24の靭帯によって安定性が保たれているため靭帯損傷後にOAへと進行しやすい。特に舟状月状骨靱帯、TFCC(タイプ1とタイプ2)、月状三角骨靭帯の損傷⁷⁾
✔舟状月状骨靱帯の損傷はScapho-Lunate Advanced Collapse(SLAC)に徐々に進行する⁷⁾
✔Scapho-Lunate Advanced Collapseとは舟状骨偽関節や舟状骨月状骨間解離などにより生じた、舟状骨の回転性亜脱臼を原因とする変形性手関節症の一型である⁸⁾SLACによる橈骨手根関節と手根骨間関節のOAの図
Andersson et al. (2021)図4より引用⁷⁾
✔骨折:特に手根骨骨折、舟状骨偽関節、橈骨遠位端骨折⁷⁾
✔舟状骨の特発性壊死Preiser病は血流供給を阻害し舟状骨が潰れるためOAに進行する⁷⁾
✔キーンベック病は手の月状骨に生じ、血液供給が阻害されて骨が壊死を起こし潰れるためOAに進行する⁷⁾
臨床で代表的にみられる症状
・手関節の可動域の制限
・橈骨手根関節、手根間関節、下橈尺骨関節の圧痛
分類
✔以下のステージに分類される²⁾
- ステージ1:橈骨舟状骨関節の一部に変性あり
- ステージ2:同関節の全体に変性あり
- ステージ3:同関節の全体と有頭骨-月状骨の接合部位に変性あり
- ステージ4:同関節の全体と手根骨内に変性あり+遠位橈尺関節に変性がみられることもある
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている
- 労働者において、年間有病率は1.58%、生涯での有病率は3.58% ¹⁾
- 女性:男性比=1.88:1 ¹⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている
- 舟状骨骨折後の偽関節(5年₋10年の間には変性が進む)⁴⁾
- 40歳以上:40歳未満に比べオッズ比5.47 ¹⁾
- 女性:男性に比べてオッズ比2.36¹⁾
- 喫煙:オッズ比1.40 ¹⁾
- BMI 25以上:オッズ比1.52 ¹⁾
予後の予測
- 変形した関節が元に戻ることはないので、個人の状況にあわせて予後を予測する。長期間での経過を観察することは必須である
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・手関節の痛み、可動域制限 - 発症のきっかけ
・徐々に痛くなる - 悪化要因
・徐々に痛くなる - 緩解要因
・安静
・慢性化している場合は常に痛みが持続している - 既往歴
・外傷の経歴がある、特に舟状骨骨折
・不動、もしくはもともと手関節に硬さがあっ
視診・動作分析
- 腫れている
- 橈骨の偏位、手根骨の回外:飛び出してるように見える
触診
- 骨組織:手根骨、橈骨手根間関節、尺骨手根間関節、手根間関節、中手手根間関節
※それぞれの圧痛や可動性も確認する - 筋組織:手関節屈筋群・伸筋群、回外筋、回内方形筋、円回内筋
主な評価項目
- 可動性評価
・手関節:掌屈(手指屈曲、伸展)、背屈(手指屈曲、伸展)、尺屈、撓屈の制限
- 筋力評価
・回外筋、回内筋群、手関節屈筋群・伸筋群
鑑別診断
- 頚椎スクリーニング
- 肩関節スクリーニング
- 肘関節スクリーニング
- 近位橈尺関節:圧痛や動作時痛を確認する
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
ガイドラインおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
- 現時点で効果的な介入方法について詳しく述べた研究はなく、変形性手関節症自体への研究の数も少ない。そのため評価に基づいて介入プランを考える
✔変形が進行していない場合は保存療法で効果が期待できる。主な目的は痛みと機能の改善 ²⁾
変形性手関節症への介入の基本的な流れは症状緩和・機能向上である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
症状緩和・機能向上
- 装具療法
✔装具による固定が保存療法にて行われる²⁾ - コルチゾール注射
・理学療法の領域ではないため担当の医師と連携する
✔保存療法はコルチゾール注射も含まれる ²⁾ - 徒手療法
・異常な筋スパズムや関節の可動性制限が確認できる場合は一時的な疼痛緩和効果を期待できるため検討する
・手関節掌屈改善:手関節屈曲筋群トリガーポイント
・手関節背屈改善:手関節伸筋群トリガーポイント
・手関節尺屈改善:尺骨手根間関節モビライゼーション
・手関節撓屈改善:橈骨手根間関節モビライゼーション - 運動療法
・ストレッチは可動域の改善効果が期待できる
・また手根骨の不安定性がOAの進行を助長するため論理的に手関節の安定性を高めるエクササイズをする
・手首屈曲筋群、手首伸筋群ストレッチ
・手首の等尺性収縮運動からはじめ方形回内筋、尺側手根伸筋を中心にトレーニングを行う - アイスパック・ホットパック
・一時的な疼痛緩和効果が期待できるため検討する。患部に直接当てるのではんく濡れたタオルなどを挟む。一回10分以内を目安に数回行う - 患者教育
・可動域の制限の進行を抑えるために、こまめにストレッチする習慣をつける
参考文献
- 【Review】Dillon C, Petersen M, Tanaka S. Self-reported hand and wrist arthritis and occupation: Data from the U.S. National Health Interview Survey-Occupational Health Supplement. Am J Ind Med. 2002;42(4):318-327
- 2014 Mar;133(3):605-15. Osteoarthritis of the Wrist. Plastic and reconstructive surgery.
- May-Jun 2007;32(5):725-46. Osteoarthritis of the Wrist. The Journal of Hand Surgery.
- 2015 Feb;101(1 Suppl):S1-9. Wrist Osteoarthritis. Orthopaedics and traumatology, surgery and research.
- 【Clinical Trial】Egol KA, Karia R, Zingman A, Lee S, Paksima N. Hand stiffness following distal radius fractures: who gets it and is it a functional problem?. Bull Hosp Jt Disease. 2014;72(4):288-93.
- 【Guideline】Kolasinski, Sharon L.; Neogi, Tuhina; Hochberg, Marc C.; Oatis, Carol; Guyatt, Gordon; Block, Joel; Callahan, Leigh; Copenhaver, Cindy; Dodge, Carole; Felson, David; Gellar, Kathleen; Harvey, William F.; Hawker, Gillian; Herzig, Edward; Kwoh, C. Kent; Nelson, Amanda E.; Samuels, Jonathan; Scanzello, Carla; White, Daniel; Wise, Barton; Altman, Roy D.; DiRenzo, Dana; Fontanarosa, Joann; Giradi, Gina; Ishimori, Mariko; Misra, Devyani; Shah, Amit Aakash; Shmagel, Anna K.; Thoma, Louise M.; Turgunbaev, Marat; Turner, Amy S.; Reston, James (2020). 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee. Arthritis Care & Research, (), acr.24131–.
- 安 部 幸 雄 .土 井 一 輝.酒 井 和 裕 .小 田 竜 徳.椎 木 栄 一 .河 合 伸 也. 桑 田 憲 幸. SLAC wristの治療経験. 整形外科と災 害 外 科45:(2)577~580,1996.