三角繊維軟骨損傷 Triangular Fibrocartilage Complex Tear

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

 

病態

  • 手関節の尺側に位置する三角線維軟骨複合体の損傷
    ✔三角線維軟骨複合体は、ドアノブを回すなど、手関節の回旋に伴う可動性、安定性、力の伝達および力の吸収において大切な役割を果たしている ²⁾⁵⁾
    ✔外傷により発症するもの、変性により発症するものの2つに大別される ¹⁾
    ✔外傷の場合、転倒時に伸ばした手を床につくことで受傷することが多い ¹⁾
    ✔仕事やスポーツで手関節を酷使することで受傷することもある ¹⁾

臨床で代表的にみられる症状
・手関節を回旋させた際に痛みや引っ掛かり感が伴う
・椅子から立ち上がるなど手で体重を支える動作が難しい、またはできない
・手関節尺骨側の痛み。回外、回内の動作で痛みが誘発されたり、痛みを伴う引っ掛かり感がある
ピアノキーサインで陽性

 

分類

✔以下のタイプに分類される ²⁾

  • 外傷型(タイプ1)
    ・タイプ1A:三角線維軟骨の中央部の穿孔
    ・タイプ1B:尺骨付着部の剥離
    ・タイプ1C:遠位側付着部の剥離
    ・タイプ1D:橈骨付着部の剥離
  • 変性型(タイプ2)
    ・タイプ2A:三角線維軟骨断裂、変性
    ・タイプ2B:三角線維軟骨断裂に、月状骨や尺骨の軟骨軟化巣を伴うもの。
    ・タイプ2C:三角線維軟骨穿孔に、月状骨や尺骨の軟骨軟化巣を伴うもの
    ・タイプ2D:三角線維軟骨穿孔に、月状骨や尺骨の軟骨軟化巣、月状三角骨靭帯穿孔を伴うもの
    ・タイプ2E:三角線維軟骨穿孔に、月状骨や尺骨の軟骨軟化巣、月状三角骨靭帯穿孔、尺骨手根関節症を伴うもの

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている

  • 橈骨遠位端骨折118人中46人は三角線維軟骨損傷を伴っていた ⁴⁾
  • 三角線維軟骨の変性は30歳以降に多く、加齢により進行する ³⁾
  • 有病率は有症状群では30歳未満で27%、70歳以上では70%
    その一方、無症状群でも30歳未満で15%、70歳以上では49%にみられ
    た ³⁾

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する

✔文献では以下のリスク要因が示されている

  • 年齢:30歳未満に比べ70歳以上はオッズ比2.7(95%CI 1.9₋3.8)であった ³⁾
  • 急性の場合は遠位橈尺関節の弛緩、遠位橈骨骨折が関連している可能性が高い ¹⁾
  • 慢性の場合は尺骨茎状突起衝突症候群と関連している可能性が高い ¹⁾

予後の予測

  • 回復の期間は重症度や個人の状況によって異なる
    ✔遠位橈尺関節の弛緩を伴わない三角線維軟骨損傷での保存療法で完全な回復をする確率は6ヵ月後で30%、1年後で50% ⁵⁾

 

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

問診

  • 現在の症状
    ・一番痛い部位を指で指すことができる
  • 発症のきっかけ
    ・外傷型の場合は、原因がはっきりしている(例:手関節が回内・過伸展の状態で、転んで手をついた)
    ・変性型の場合は、はっきりとした原因はなく徐々に発症する
    ・前腕や手関節の手掌側に引っ張られるストレスがあった
  • 悪化要因
    ・物を握る、または重いものを持ち上げる際に痛みが生じる
    ・手関節回旋時に痛みや引っ掛かり感が伴う
  • 緩解要因
    ・安静
  • 既往歴
    ・仕事やスポーツで、手関節を酷使している
    ・遠位橈骨を骨折したことがある

視診・動作分析

  • 椅子から立ち上がるなど、手で体重を支える動作が困難

触診

  • 骨組織:遠位橈尺関節(前後の可動性)
    ※弛緩がある可能性あり
  • 筋組織:回外筋、上腕二頭筋、円回内筋、方形回内筋、尺側手根伸筋

主な評価項目

  • 可動性評価
    ・手関節ROM:掌屈(手指屈曲、伸展)、背屈(手指屈曲、伸展)、尺屈、橈屈
  • 筋力評価
    ・握力:筋力低下、痛みの誘発を確認する
  • 神経力学テスト
    ULTT 3:尺骨神経のストレステスト

鑑別診断

  • 頚椎スクリーニング
  • 肩関節スクリーニング
  • 肘関節スクリーニング
  • キーンベック病:画像診断によって鑑別する
  • 尺側手根伸筋腱炎:動作時痛および尺側手根伸筋の圧痛
  • 舟状骨の骨折:スナッフボックスの圧痛

 

介入プラン

エビデンスに基づいた介入方法

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

✔一般的に外傷によって受傷し、2週間以上経っている場合は、保存療法が治療の第一選択肢になる ⁶⁾

三角繊維軟骨損傷への介入の基本的な流れは症状緩和・機能回復→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく

症状緩和・機能回復

  • 装具療法:
    ・テーピングや手関節を固定させる装具の装着を検討する。特に日常的に重いものを持ち上げることが多いことや肉体労働を強いる職種の場合は使用を優先的に検討する
    ✔装具によって4-6週間固定するのが一般的 ⁶⁾
  • 患者教育:
    ・介入初期は患部へのストレスを減らすために安静や活動を制限する
    ・日常生活で手関節を使う頻度を減らすよう指導する
  • アイスパック:
    ・一時的な疼痛緩和を目的に使用する。患部へ直接当てるのではなく濡れたタオルなどを挟む。一回10分以内を目安に数回行う
  • 徒手療法:
    ・エビデンスはないが一時的な疼痛緩和や可動域改善効果が期待できるため検討する(特に可動域制限が評価で見られる時)
    ・疼痛管理:回外筋、上腕二頭筋、円回内筋、方形回内筋、尺側手根伸筋トリガーポイント、手関節牽引
    ・掌屈改善:手関節牽引モビライゼーション
    ・背屈改善:手関節牽引モビライゼーション
    ・尺屈改善:手根骨モビライゼーション
    ・撓屈改善:手根骨モビライゼーション
    ・手関節回内改善:円回内筋、方形回内筋トリガーポイント
    ・手関節回外改善:回外筋、上腕二頭筋トリガーポイント
  • 運動療法:
    ・ストレッチは可動域改善や疼痛緩和効果が期待できる。また、手関節にかかる負担を減らすために安定性を向上させるエクササイズをする
    ・ストレッチ:手関節屈筋群、手関節伸筋群ストレッチ
    ・手関節安定性の向上:手関節を中間位(ニュートラル)に保ったまま等尺性収縮運動を行うことからはじめ、徐々に等張性収縮運動、荷重位でのトレーニング(ウォールプッシュアップなど)へと進行する
    ✔方形回内筋と尺側手根伸筋は収縮時に遠位橈尺関節と手関節の安定性に関与している筋のためこれらの筋を中心にトレーニングを行う⁸⁾
    ✔23歳女性を対象にした症例報告にとどまるが手関節への等尺性収縮運動、安定性向上を目的としたリハビリプログラムで症状の改善が報告されている⁸⁾

再発予防

  • 現時点で再発予防について詳しく調べた研究は見当たらないため手関節、遠位橈尺関節への負担を引き続き減らしていくことが中心となる

 

介入例

参考文献

  1. 【Review】Jason H KoThomas A Wiedrich Triangular Fibrocartilage Complex Injuries in the Elite Athlete. Hand Clinics. 2012 Aug;28(3):307-21, viii.
  2. 【Review】Matthew R SkalskiEric A WhiteDakshesh B PatelAaron J ScheinHector RiveraMeloGeorge R Matcuk Jr The Traumatized TFCC: An Illustrated Review of the Anatomy and Injury Patterns of the Triangular Fibrocartilage Complex. Current Problems in Diagnostic Radiology. Jan-Feb 2016;45(1):39-50.
  3. 【Systematic Review】Jimmy J ChanTeun TeunisDavid Ring Prevalence of Triangular Fibrocartilage Complex Abnormalities Regardless of Symptoms Rise With Age: Systematic Review and Pooled Analysis. Clinical Orthopaedics and Related Research. 2014 Dec;472(12):3987-94.
  4. 【Clinical Trial】Richards RS, Bennett JD, Roth JH, Milne K. Arthroscopic diagnosis of intra-articular soft tissue injuries associated with distal radial fractures. J Hand Surg Am. 1997;22(5):772-776.
  5. 【Clinical Trial】Joon Kyu Lee, Jae-Yeon Hwang, Suk Yoon Lee, and Bong Cheol Kwon What is the Natural History of the Triangular Fibrocartilage Complex Tear Without Distal Radioulnar Joint Instability? Clinical Orthopaedics and Related Research. 2019 Feb; 477(2): 442–449.
  6. Akio Minami TRIANGULAR FIBROCARTILAGE COMPLEX TEARS. Hand Surgery. (2015) 20(1): pp. 1-9
  7. 【Clinical Trial】Egol KA, Karia R, Zingman A, Lee S, Paksima N. Hand stiffness following distal radius fractures: who gets it and is it a functional problem?. Bull Hosp Jt Disease. 2014;72(4):288-93.
  8. 【Case Report】Zhiqing Chen. A novel staged wrist sensorimotor rehabilitation program for a patient with triangular fibrocartilage complex injury: A case report. Journal of Hand Therapy.Oct-Dec 2019;32(4):525-534.

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