肘外側上顆炎 Lateral Epicondylalgia

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

 

病態

  • 肘関節外側上顆に付着する腱に生じた障害
  • 一般的には、テニス肘と呼ばれている
    ✔2関節筋の腱は繰り返した微小損傷を受けやすい性質がある。テニス肘では短橈側手根伸筋が最も受けやすく、90%のテニス肘はこの筋の腱に起こると報告されている¹³⁾

  • 発生機序
    ✔総指伸筋や短橈側手根伸筋腱の付着部が繰り返した動作などにより負荷がかかり炎症、変性、腱繊維に微細損傷が起こり痛みが引き起こされる⁵⁾
    ✔テニス肘による腱への変性は細胞質、コラーゲン配列、血管分布に現れる¹³⁾
    ・細胞質の変性:過形成や肥厚が見られる。細胞が成熟しなく、代謝活動が向上しI型コラーゲンではなくIII型コラーゲンを産生する
    ・コラーゲン配列:不規則な配列
    ・血管分布:未熟な血管が過剰形成される(血管新生)。これらの血管には血流がほとんどない

  • 分類:
    ✔変性の重症度によって以下のように分類されている¹³⁾
    Grade 1:コラーゲンの配列に変化が表れる。血管分布や細胞質に変化はほとんどない
    Grade 2:コラーゲン配列のさらなる変性、細胞の過形成、血管新生が増加していく
    Grade 3:コラーゲンや細胞外基質が破壊されていき、アポトーシス(能動的な細胞死)が起きる
    Grade 4:構造的に変性が起き、腱は脆弱になっている状態。最終的に腱の断裂が起きる
    図Aは健康的な腱、図Bは変性のGradeによるイメージ
    ✔Gev B et al. (2016)図1より引用¹³⁾

臨床で代表的にみられる症状
・外側上顆の伸筋群腱起始部に最も強い圧痛がある
・何かを握ると痛みが誘発され、前腕に放散痛が生じる場合もある
・総指伸筋や短橈側手根伸筋の収縮時痛
・テニスや肘の屈伸を繰り返す仕事をしている
ミルズテストモーズリーテストの陽性
・肘関節と手関節の可動域は正常

 

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている

  • 一般人の有病率:1.0-3.0% ¹⁰⁾
  • 外側上顆炎よりも7倍発生しやすい ⁰⁾
  • 好発年齢は35-54歳 ⁹⁾
  • 女性の方がやや多いが相反する報告が幾つかあるため、現時点で結論は出せない ⁹⁾
  • テニス肘と呼ばれることが多いが、テニスによって引き起こされる割合は全体の10%以下 ⁶⁾
  • テニス選手の30-50%がテニス肘を発症する ⁹⁾

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている

  • 手関節を酷使するスポーツ(テニスなど)
  • 心理的ストレス:オッズ比4.5(95%CI 2.1₋9.5)³⁾
  • ブルーカラーワーカー(肉体労働):オッズ比3.8(95%CI 1.8₋7.9) ³⁾

    スポールにおけるリスク要因
  • テニスにおいてはプロよりも素人の方がなりやすい。素人は手首が屈曲位の状態でボールを打つことが多く、このうち方は伸展筋の遠心性収縮による負担がさらに増える¹⁴⁾
  • ボールを打った後にグリップを緩めることは力んでグリップを強く握り続けた場合に比べて外側上顆にかかる負荷を30%下げることが報告されている¹⁴⁾
  • 45ポンド、50ポンド、55ポンドテンションの内テンションが低いほうが肘へかかる負担が低いという研究結果が出ている¹⁵⁾

<労働環境に関連する要因>³⁾

  • 1日1時間以上、肘を屈伸する:リスク2.5倍
  • 1日1時間以上、手の力を全力で用いると、リスクは男性6.90倍、女性は9.6倍
  • 1日1時間以上、手の力を全力で用いることを反復すると、リスクは男性14.70倍、女性は29.30倍、
  • 1日4時間以上、手首を曲げたりひねったりする仕事は、リスク4.4倍
  • 繰り返し肘の屈曲、伸展を伴う職業(1日2時間以上)は、男性2.41倍、女性2.65倍のリスク
  • 1分間に2回以上4.5kg以上の重たいものを持ちあげる作業は、リスクは3.06倍
  • 1日1時間以上の重労働は、男性においてリスク12.00倍
  • 振動を伴う工具の使用(1日2時間以上)はリスクが2.3倍

予後の予測

  • 予後の予測は重症度や個人の状況によって異なる
    ✔自然治癒することも可能であり、放っておいても70-80%は1年以内に症状が改善する。しかし、再発の可能性は高く、生活の質にも大きな影響がでるので長期間での経過観察が必要である ⁵⁾
    ✔ほとんどのケースは保存療法で治療され、手術を受けなくても最大95%は回復する ⁶⁾

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

問診

  • 現在の症状
    ・肘外側の痛み
  • 発症のきっかけ
    ・明らかな原因はなく、特発性の場合がほとんどである
    ・テニスや、肘の屈伸を繰り返す仕事をしている
  • 悪化要因
    ・くり返す動きによって生じたり、悪化する
    ・何かを握ると痛みが誘発され前腕に放散痛が生じる場合もある
    ・握手、ひげを剃る時、肘が伸びている状態でカバンを持つと痛みが誘発される
  • 緩解要因
    ・安静
  • うつスクリーニング
    • この1か月間で、落ち込んだり、鬱になったり、望みがなくなったという感情に悩まされることはよくありますか?
    • この1か月間で、自身がしていることに対して関心が減ったり、喜びが減ったことに悩まされることはありますか?

視診・動作分析

  • テニス肘特有のものはないが、明らかな腫れや肌の色が赤色に変色している場合などは他の疾患の可能性が高い

触診

圧痛部位から損傷部位が特定できるため正確な触診が大切である

  • 骨組織:外側上顆
    ※伸筋群腱起始部に圧痛あり
  • 筋組織:手指伸展筋、総指伸筋、短橈側手根伸筋

主な評価項目

  • スペシャルテスト
    ミルズテスト:痛みが誘発されると陽性(感度53%、特異度100%)
    モーズリーテスト:痛みが誘発されると陽性(感度88%、特異度0%)
    ※他にもCozen’sテストやChairテストなどがあるが上記のテストが一番感度と特異度が高い
  • 可動域評価
    ・肘関節ROM:屈曲、伸展
    ・手関節ROM:掌屈、背屈
    ※肘と手関節の可動域は正常であることが多い
  • 筋力評価
    ・総指伸筋や短橈側手根伸筋:抵抗を加えると痛みが誘発される
    ・握力

鑑別診断

  • 頚椎スクリーニング:C6神経根の圧迫は肘と前腕の尺側に痛みを生じさせる
  • 肩関節スクリーニング
  • 肘関節スクリーニング
  • 手根菅症候群ファーレンテスト
  • 肘外側側副靭帯損傷:肘内反ストレステスト
  • 橈骨神経管症候群:テニス肘の5%はこの疾患と合併しており、指の背屈、前腕の回外で痛みが誘発される
  • 肘頭部滑液炎:肘の可動域は正常で痛みもないが、肘屈曲の終点で痛みが誘発される

 

介入プラン

エビデンスに基づいた介入方法

ガイドラインおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

肘外側上顆炎への介入の基本的な流れは急性期→回復期→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく

急性期

  • 急性期における主な目的は症状の緩和である。そのため腱へかかる負担を減らすことが中心となる
  • 安静
    ✔保存療法では症状緩和のために、まず安静、または症状が悪化する動作を避けるよう指導することが一般的に勧められているが、その有用性を支持するエビデンスは不足している⁵⁾
  • コルチゾール注射:
    ・理学療法の領域ではないため担当の医師と連携する
    ✔理学療法を受けた群、自然経過に比べて1₋2ヵ月後ではコルチゾール注射を受けた群で有意な疼痛緩和を認めたが1年後では持続しなかった¹²⁾
    ✔コルチゾールは疼痛の緩和につながるが、タンパク質異化作用、タイプ1コラーゲンの減少、グリコサミノグリカンの生成に繋がるため長期的な回復を遅らせるとされている
  • キネシオテープ
    ・現時点でシステマティックレビューによる報告はないが、ランダム化比較試験を含む研究の数は増えている傾向にあるため、近い将来にシステマティックレビューが発表されることが期待される
    ✔最近のランダム化比較試験では48人の慢性外側上顆炎患者を対象にしキネシオテープとシャムテープ群に分け5日間貼り、3回繰り返した結果
    どちらの群でも痛みが緩和し、機能が向上した。グループ間に有意な差はなく、手首の伸筋筋力や握力に影響はなかった¹⁶⁾
    ・そのため貼り方は特に重要ではなく筋肉に沿って貼ることを意識する。
    ✔キネシオテープが痛みの軽減に繋がるメカニズムは幾つかの説があるがどの説も立証はされていない¹⁶⁾
     ・皮膚の機械的受容器が刺激されて固有感覚が向上する
     ・血流やリンパの流れの促進
    ✔研究で使用されたキネシオテープとシャムテープの貼り方(Nihal T et al. 2020図2、図3より引用)¹⁶⁾
     
  • アイスパック
    ・一時的な疼痛緩和を期待できるため検討する。特に動作や活動後に行う。肌に直接当てるのではなく濡れたタオルを当てて行うことを推奨する。一回10分以内を数回繰り返す。
  • 装具療法
    ・短期間(2週間以内)においての使用を検討するが長期間で症状を軽減するというエビデンスはないため長期での使用はさける。または症状に応じて常時ではなく作業をするとき、スポーツをする時のみに着用するなど使用を制限する
    ・装具のみの介入は機能改善につながらない可能性があるため、使用する際は必ず運動療法も併せて行う。
    ✔装具は短橈側手根伸筋にかかる負担を最大15%減らす効果が期待できる⁶⁾
    7個のランダム化比較試験の研究結果をまとめたシステマティックレビューでは前腕にサポーターを装着した群は痛み無しの握力が有意に向上した(最大握力は向上されなかった)。さらに手関節伸展筋群を収縮した際の有意な疼痛減少が認められた¹¹⁾
    ✔装具のみでは機能に好影響を及ぼさなかった。これは装具が動きを制限するため廃用性筋委縮に繋がるためだとされている ¹⁷⁾
  • 運動療法
    ・ストレッチ:総指伸筋
    ・痛みが強い時は等尺性収縮トレーニングから始め、徐々に求心性収縮運動、遠心性収縮運動へと進行する
    ✔ストレッチと筋力トレーニングの併用は、超音波療法単独に比べて症状の改善に有意な差があると報告されている。しかし、運動療法が症状改善につながるメカニズムには様々な説があり詳しくは解明されていない ⁸⁾
    ✔遠心性収縮運動は最も効果的なトレーニングである。この遠心性収縮運動はコラーゲンの新生に繋がり、炎症の鎮静、新生血管形成の抑制、腱強度の向上につながるとされている ¹⁶⁾
  • 徒手療法
    ・一時的な疼痛緩和効果が期待できるため他の介入方法と同じく検討する
    ・痛みに過敏な時は強くマッサージすると逆効果となるため気を付ける
    ・疼痛管理:手指伸展筋、総指伸筋、短橈側手根伸筋トリガーポイント
    ✔運動療法と併用して行われることが推奨される⁵⁾
    ✔ディープフリクションマッサージは6回の介入以降で機能の改善につながった ¹⁶⁾
  • 患者教育:
    ・痛みが悪化する繰り返した動作や重いものを持ち上げることを極力避ける
    ・できるかぎり仕事でこまめに休憩をとる
    ・工具を使うときは大きめのグリップで自分の手にあったものを使うよう心掛ける
  • 物理療法:
    急性の症状には超音波、及び多血小板血漿(PRP)療法の効果は他の介入方法に比べて低く、慢性の症状に対しては効果が不明である¹⁶⁾
    ✔ショックウェーブ療法とPRP療法は短期における可動域改善において超音波療法よりも効果的であった¹⁶⁾
    ✔機能に関してもショックウェーブ療法は超音波療法よりも効果的であった。この理由は、超音波療法の仕方がショックウェーブ療法よりも信頼性が低いためであると考えられる¹⁶⁾

回復期

  • 運動療法:
    ・この時期では遠心性収縮トレーニングを中心に腱の強度向上が主な目的となる
    ・筋力トレーニング:総指伸筋遠心性筋力トレーニング
  • 装具療法
    ・基本的に長期での使用は避けるが、場合によっては使用場面を限定して使うことを検討する

再発予防

  • 理論的には遠心性筋力トレーニングを行い腱の強度を向上するのが再発の予防へと繋がるはずだが、実際に遠心性筋力トレーニングが怪我の頻度を減らすというデータは見つからなかった

 

参考文献

  1. 【Clinical Trial】Shiri R, Viikari-Juntura E, Varonen H, Heliovaara M. Prevalence and determinants of lateral and medial epicondylitis: a population study. Am J Epidemiol. 2006;164:1065–1074.
  2. 【Review】Shiri R, Viikari-Juntura E. Lateral and medial epicondylitis: Role of occupational factors Best Pract Res Clin Rheumatol. 2011 Feb;25(1):43-57.
  3. 【Clinical Trial】Walker-Bone K, Palmer K, Reading I. Occupation and epicondylitis: a population based study. Rheumatol. 2012;51:305–310.
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