本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
✔ばね指(弾発指)は手指の靭帯性腱鞘や指屈筋腱に炎症が発したり、それに伴い肥厚が生じる疾患¹⁾
✔その結果、指の付け根に痛み、屈曲や伸展時に引っ掛かり感を訴える²⁾
✔利き手の母指と環指で最も一般的に発症する²⁾⁴⁾
✔指屈筋腱の牽引力はMP関節のA1 pulley(中手骨頭付近の靭帯性腱鞘)で一番強いため最も痛めやすいが、A2 Pulley(基節骨付け根の靭帯性腱鞘)やA3 Pulley(PIP関節付近の靭帯性腱鞘)で発症することもある¹⁾²⁾図引用元¹¹⁾
- 病態生理
✔様々な説があるが、繰り返し手指を酷使したりすることにより靭帯性腱鞘と指屈筋腱に摩擦がおき炎症や肥厚が発すると考えられている³⁾
✔他の要因には加齢に伴う変性や遺伝的要素などが考えられている⁴⁾
✔死体解剖の研究によると、指の屈曲時に指屈筋腱は靭帯性腱鞘を通るときに肥大する。そのため、腱が肥厚していくとさらに通りが悪くなり指を屈曲したり伸展することが困難になっていく²⁾
臨床で代表的にみられる症状
・指の付け根の痛み
・指の屈曲、または伸展時に引っ掛かり感を訴える
・指が屈曲位や伸展位で指が引っ掛かかったままになるロッキングが確認できる
分類
✔国際的に決められた分類はないが、文献で使われている分類を以下に示す²⁾⁴⁾
Grade 1 | ・痛みと引っ掛かり感を訴えているが、評価で引っ掛かり感を確認できない ・A1 Pulleyに圧痛がある |
Grade 2 | ・評価で引っ掛かり感を確認できる ・自動で指を伸展できる |
Grade 3 | ・評価で引っ掛かり感を確認できる ・他動で動かさないと伸展できない、または、自動で屈曲できない |
Grade 4 | ・評価で引っ掛かり感を確認できる ・PIP関節にて屈曲拘縮がみられる ・他動や自動でも伸展、屈曲ができない |
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている
- 一般人においての生涯有病率:2-3%²⁾³⁾
- 糖尿病患者の生涯有病率:10%²⁾
- 男女比は1:3-6で女性に起こりやすい²⁾⁴⁾
- 好発年齢は40-60歳²⁾⁴⁾
- 両手に発症するケースは全体の10-16%⁴⁾
- 1-4歳の幼児にも発症することがあるが非常に稀である(有病率は0.05-0.3%)⁴⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている
- 糖尿病⁴⁾
- 手指を繰り返し酷使する職種⁴⁾
例:看護師、デスクワーカー、音楽家、工場で働く肉体労働者など - 関節リウマチ、甲状腺機能低下症、ドケルバン病、手根管症候群、デュピュイトラン拘縮などと併発することが多い⁴⁾
- 75人(女性51人、男性24人)のバネ指患者を対象にした研究では対象者の80%がメタボリックシンドロームの診断基準を満たした¹²⁾
予後の予測
正確な予後は患者の状態や重症度によって変わる
✔文献では以下の予後予測が示されている
- 治療は保存療法と手術療法があり、どちらも予後は良好と考えられている⁴⁾
- 装具療法による症状の改善率は、システマティックレビューによると47-93%
そのうち、高い改善率を報告している文献が多数であった³⁾ - 長期的な予後も良好で、1年後において87%は再発がなかったと報告されている³⁾
- 手術療法も術式によるが腱鞘切開の成功率はほぼ100%であり、保存療法が成功しなかった場合に奨められる⁴⁾
評価
問診
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
- 現在の症状
・MP関節付近の痛み
・指を屈曲、または伸展した時の引っ掛かり感
・朝にMP関節が腫れる - 発症のきっかけ
・徐々に、指の屈曲や伸展が難しくなっていく
・手指を酷使する職業や作業をしていた - 悪化要因
・日常生活での制限(鍵を回す、小さいものをつまむ、ボタンをしめるなど) - 緩解要因
・安静 - 既往歴
・糖尿病などの既往歴がある
視診・動作分析
- 親指、手指に屈曲拘縮があるか視認
触診
- 骨組織:中手骨頭、MP関節副運動(前後)、IP関節副運動(前後)
- 筋組織:浅指屈筋、長母指屈筋、短母指屈筋
- A1 Pulleyの圧痛
- 指屈筋腱肥厚の触知、そして指屈曲、伸展時に引っ掛かり感があるか確認する
主な評価項目
- スペシャルテスト:なし
- 可動性評価 (自動、他動)
・MP関節、PIP関節、DIP関節ROM:屈曲・伸展 - 筋力評価
・握力:握力が低下していないか確認。重症の場合に握力の低下が見られることが多い⁴⁾
・指屈筋:疼痛誘発テストとしてA1 Pulley付近で痛みの有無を確認
鑑別診断
- 中手骨頭骨折:
・急性の怪我が疑われる場合に確認 - デュピュイトラン拘縮:
✔指屈曲位での拘縮、ほとんどのケースでは手掌腱膜の肥厚部位に圧痛はない、皮膚がひきつれて指を伸展するのが難しい⁶⁾ - 感染性の腱鞘滑膜炎:
✔指の腫れや熱感、Kanavel徴候(安静時の指の屈曲、指の腫れ、屈曲筋腱鞘に沿った痛み、指の他動伸展時に伴う痛み)⁵⁾
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
ガイドラインおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
バネ指への介入の基本的な流れは症状緩和・機能回復→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
症状緩和・機能回復
- 患者教育
・炎症が起きている場合は安静、または手を酷使する頻度を減らし手指にかかる負担を減らす
・装具を常に装着する意義、大切さを説明する
✔疼痛緩和を目的に冷却療法やNSAIDも使用される⁴⁾ - アイスパック
・介入初期にて特に炎症が起きている場合は一時的な疼痛緩和を目的に使用する
・患部への直接当てるのではなく濡れたタオルを挟む。一回10分以内を目安に数回行う
✔介入初期に疼痛緩和を目的として冷却療法が使われる⁴⁾ - 装具療法
✔装具で固定する事により靭帯性腱鞘と指屈筋腱の摩擦を減らし、炎症を抑えることが目的¹⁾
✔システマティックレビューでは全てのGradeに対して装具療法が推奨されている³⁾
✔装具による固定角度は屈曲0-15° ³⁾
✔装具にはMP関節、PIP関節、DIP関節の屈曲を制限するものがあるが、装具の心地よさ、患者の職種などにより総合的に判断することが推奨されている³⁾
✔二つ以上の関節を制限する装具は推奨されていない³⁾
✔MP関節とDIP関節の装具を比べたランダム化比較試験では、MP関節装具の症状改善率が77%で、DIP関節では47%であった³⁾⁷⁾
✔装具の着用期間は3-12週間とばらつきがあり、平均は6週間であった。その期間、運動療法や手を洗うとき以外の時間は常に着用する必要がある。装具着用により関節の硬さを訴えた患者はいなかったが、これは運動療法と併せてやっていたからだと考えられる。夜間のみ着用した研究では症状の改善率は55%と常に装具を着用した場合よりも低かったため、装具は常時着用することが推奨されている³⁾⁸⁾ - コルチゾール注射
・理学療法の領域ではないため担当の医師と連携する
✔コルチゾール注射は効果的な治療の選択肢の一つとされている¹⁾²⁾⁴⁾
✔症状の改善率は67-93%⁴⁾
✔一回のコルチゾール注射の効果は最大10年持続すると報告されている²⁾
✔通常4-6ヵ月の間を空け3回目まで行われる²⁾
✔3回目以降で症状の改善がない場合は、手術が検討される²⁾
✔コルチゾール注射による副作用は稀だが、腱の断裂、感染、脂肪壊死症などがあげられる²⁾
✔コルチゾール注射の成功率は2型糖尿病との合併によって66%までさがる。さらに、メタボリックシンドロームの診断を受けている場合の成功率は50%と報告されている¹²⁾ - 運動療法
・介入初期から行っていくが、炎症が起きている場合など他の介入方法が優先される
・他動でのMP関節伸展ストレッチ
・浅指屈筋ストレッチ
・腱グライディングエクササイズ
✔ストレッチや腱グライディングエクササイズなどが装具療法と一緒に行われることがあるが、現時点でその有用性を調べた研究はない²⁾³⁾
✔文献で装具療法と一緒に行われた運動療法を以下に示す
✔腱グライディングエクササイズ1日に5回×3セット³⁾⁹⁾
✔自動での指の屈伸運動を、起きている間、2時間ごとに繰り返す³⁾¹⁰⁾ - 徒手療法
・エビデンスはないが一時的な疼痛緩和を目的に場合によっては行う。特に炎症が著明ではない場合、症状が軽症の場合
・疼痛管理:浅指屈筋、長母指屈筋、短母指屈筋トリガーポイント
・可動性向上:MP関節、IP関節モビライゼーション
再発予防
- 現時点で再発予防について詳しく調べた研究が見当たらない為、評価に基づいて手指の酷使に繋がる要因を予防することが中心となる
- また、明確なエビデンスはないがメタボリックシンドロームや糖尿病、甲状腺機能低下症とも関連が見られるため低程度の慢性炎症がリスクに関わっている可能性もあるため。生活習慣の見直しなどを教育する必要があると考えられる
参考文献
- In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2020 Jan.
- Night Splinting for Idiopathic Trigger Digits. Hand (N Y). 2018 Sep;13(5):558-562.
- Effectiveness of splinting for the treatment of trigger finger. Journal of Hand Therapy. Oct-Dec 2008;21(4):336-43.
- 【Clinical Trial】Evans RB, Hunter JM, Burkhalter WE. Conservative management of the trigger finger: a new approach. J Hand Ther. 1988;1:59e67
- 【Review】
- 【Observational Study】Junot H S N, Anderson Hertz A F L, Gustavo Vasconcelos G R, Debora C Esquerdo C da Silveira, Paulo Nelson B, Saulo F Almeida. Epidemiology of Trigger Finger: Metabolic Syndrome as a New Perspective of Associated Disease. Hand (N Y). 2021 Jul;16(4):542-545.