本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 肩鎖関節の靭帯(肩鎖靭帯と烏口鎖骨靭帯)が接触や転倒などにより損傷した障害
✔若年者に多く、肩周囲の怪我のうち9%を占める³⁾
※胸鎖関節損傷は3%ほど³⁾ - 受傷機転:直接的なものと間接的なものの2種類あり
✔直接的:肩内転位で肩の側面から床に転倒した際に受傷する、スポーツに多い³⁾
✔間接的:手を伸ばした状態で床に手をついて転倒した際に受傷する³⁾
臨床で代表的にみられる症状
・内転方向にリーチ動作をすると痛みが出じる
・鎖骨と肩峰の間にずれが確認できる
・肩鎖関節に圧痛が生じる
・肩鎖関節シアテストで痛みが出じる
分類
✔レントゲン所見に基づき分類される ²⁾⁴⁾
- I度(捻挫):レントゲンで関節の損傷なし
- II度(亜脱臼):肩鎖靭帯が断裂しており、鎖骨と肩峰が一部重なる亜脱臼
- III度(完全脱臼):関節の完全脱臼、烏口鎖骨靱帯と肩鎖靭帯が断裂している
- IV度:鎖骨遠位部の後方転位が特徴
- V度:III度の程度の強いもの、肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯がともに断裂しており。肩峰と鎖骨の間が大きい
- VI度:鎖骨遠位部の下方転位が特徴
※補足:IV度-VI度はIII度の異型である
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている
- 43.5%は20代に発生する³⁾
若年アスリートや30歳台にも多い ¹⁾ - 若年アスリートを対象とした調査では、年間発生率は1000人中9.2人(男性:1000人中10人、女性:1000人中4.6人)¹⁾
- 肩鎖関節捻挫のうち、89%は軽症、91%はスポーツ活動中に発生した ¹⁾
- 大学スポーツではラグビー、レスリング、ホッケーで受傷しやすい ¹⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている
- 男性:女性に比べリスク5.0倍 ³⁾
- コンタクトスポーツ ³⁾
予後の予測
予後は重症度によって変わる
✔文献では以下の予後予測が示されている
- 通常 I度とII度は保存療法で、IV-VI度は手術によって治療されることが多い。III度の最適な治療法は完全な合意に至っていないが、ガイドラインでは保存療法が奨められている ¹⁾²⁾
- Ⅰ度は2-4週間ほど、II度は4-8週間、III度は6-8週間がスポーツ復帰の目安できる ²⁾
- 手術適応でない場合、リハビリテーションは6-12週間ほど ³⁾
- 若年アスリートでは、受傷後スポーツ復帰までにかかる日数は平均18.4日(軽度10.4日~重度63.7日)。重度損傷のうち71%は手術を受けた ¹⁾
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・肩鎖関節周囲の局所的な痛み - 発症のきっかけ
・過去や、最近に肩から転倒または衝突した
・伸ばした腕から落ちる転倒の場合もある - 悪化要因
・患側を下向きにして寝ると痛い
・肩屈曲、水平内転 - 緩解要因
・安静 - 社会歴
・コンタクトスポーツをしている
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 肩鎖関節に明らかな変位が見られないか確認する
- 肩鎖関節に腫れがないか確認する
触診
肩鎖関節損傷では局所的圧痛が鑑別に重要になるため正確な触診が必要である
- 圧痛テスト:肩鎖関節
- 骨組織:肩峰突起、鎖骨
- 筋組織:大胸筋、小胸筋、三角筋、回旋筋腱板
- 軟部組織:肩鎖靭帯、後方肩関節包
主な評価項目
- 可動性評価
・肩関節ROM:屈曲、外旋、外転
・肩鎖関節の副運動:上下動作
- スペシャルテスト
・肩鎖関節シアテスト(感度41%、特異度不明)
鑑別診断
- 頚椎スクリーニング
- 胸椎スクリーニング
- 他の肩関節疾患:肩関節脱臼など
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
ガイドラインおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
腱板損傷への介入の基本的な流れは重症度によって異なる
本疾患ページでは介入の流れを重症度にそって解説していく
捻挫(Ⅰ度)
- 装具療法
✔3-7日間のスリング装着²⁾⁵⁾
✔痛みが治まると同時にスリングの装着を中止する⁵⁾ - 冷却療法
・アイシングは肌に直接触れるのではなく濡れたタオルの上から行う。1回10分を繰り返す。
✔アイシングが疼痛緩和に使われる²⁾ - 運動療法
・痛みが悪化しない程度で始める
・腕立て伏せは肩鎖関節に過度な負担をかける可能性があるため避ける
✔ROMエクササイズ、等尺性筋力トレーニング²⁾
✔痛みが悪化しない程度での三角筋、僧帽筋などの筋力トレーニング²⁾ - 患者教育
・痛みが悪化する動作は避ける横向きに寝たり、肩関節水平屈曲を伴う動作
・スポーツや重いものを持ち上げることも避けてもらう
✔スポーツ復帰への目安は1₋2週間²⁾ - 徒手療法
・エビデンスはないが一時的な疼痛緩和を目的として行う。評価に基づいて異常な筋スパズムが確認できる部位にアプローチする
・疼痛管理:大胸筋、小胸筋、三角筋、回旋筋腱板トリガーポイント
・肩関節外旋・外転可動域向上:三角筋、回旋筋腱板トリガーポイント、後方関節包モビライゼーション - テーピング
・詳しく調べた研究はないが臨床的に使用されることが多い
亜脱臼(Ⅱ度)
- 0-2週間:
✔スリングを3-10日装着、ROMエクササイズ、等尺性筋力トレーニング、冷却療法²⁾ - 3-4週間:
✔65-75%の可動域回復を目指す。三角筋、僧帽筋の筋力トレーニング(MMT評価4/5を目指す)²⁾ - 4-6週間:
✔100%正常な可動域回復を目指す。筋力は健側に比べて70₋75%を目指す。さらなる筋力、筋持久力トレーニング²⁾ - 4-8週間:
✔スポーツ特異的トレーニング²⁾ - 徒手療法
・エビデンスはないが一時的な疼痛緩和を目的として行う。評価に基づいて異常な筋スパズムが確認できる部位にアプローチする
・疼痛管理:大胸筋、小胸筋、三角筋、回旋筋腱板トリガーポイント
・肩関節外旋・外転可動域向上:三角筋、回旋筋腱板トリガーポイント、後方関節包モビライゼーション - テーピング
・詳しく調べた研究はないが臨床的に使用されることが多い - 患者教育
・痛みが引いてきた後でも肩鎖関節に負担がかかるベンチプレス、ショルダープレス、ディップなどの運動は避ける
脱臼(Ⅲ度)
- 手術vs保存療法
✔III度の明確な治療方針については相反したエビデンスがあり完全な合意に至っていない⁵⁾
✔通常オーバーヘッドアスリートや若年者は手術が選択肢に入る⁵⁾
✔専門家の意見にとどまるが以下が手術の基準指標となりえる⁵⁾
・重度の変形が見られる
・痛みが保存療法を3₋4ヵ月続けた後でも続いている
・仕事やスポーツで肩を使う機会が多い - 0-2週間:
✔スリングを7₋14日装着、除痛のため冷却療法や電気療法、ROMエクササイズ、等尺性筋力トレーニング²⁾ - 3-4週間:
✔正常な可動域回復を目指す。三角筋、僧帽筋の筋力トレーニング、肩甲骨の安定性向上(CKCトレーニングも含む)、肩甲骨・肩関節の固有感覚の向上トレーニング²⁾ - 4-6週間:
✔100%正常な可動域回復を目指す。三角筋、僧帽筋、回旋筋腱板の筋力、筋持久力トレーニング、肩甲骨の安定性向上トレーニング²⁾ - 6-8週間:
✔スポーツ特異的トレーニング²⁾ - 6₋12週間:
✔再発予防のためOKCトレーニング²⁾
参考文献
- 【Clinical Trial】Pallis M, Cameron KL, Svoboda SJ, Owens BD. Epidemiology of acromioclavicular joint injury in young athletes. Am J Sports Med. 2012;40(9):2072-2077.
- Aug 1;42(8):681-96. Acromioclavicular Joint Separations Grades I-III: A Review of the Literature and Development of Best Practice Guidelines. Sports Med. 2012
- 2010 Apr;44(5):361-9. Biomechanics and Treatment of Acromioclavicular and Sternoclavicular Joint Injuries. Br J Sports Med
- Acromioclavicular joint injuries and reconstructions: a review of expected imaging findings and potential complications. Emergency Radiology.2012 Oct;19(5):399-413.