本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 原因が特定できない肩の痛みと可動域制限を主な症状とする疾患
- 分類
✔以下の二つの分類に分けられる ⁶⁾- 一次性凍結肩:特に原因が特定できないもの
- 二次性凍結肩:以下のように原疾患や合併によって起こるもの
・内因性病変(回旋腱板損傷、石灰性腱炎など)
・外因性病変(上腕骨骨折、頚椎症性神経根症など)
・全身性疾患(糖尿病、甲状腺疾患など)
- 病態生理:
・正確な病態生理は現時点では明らかにされていないが幾つかの説がある
✔一つの見解は遺伝による影響であり、繊維症も深く関わっている。通常、退行変性などにより肩関節構成体が損傷した際は、修復によって正常な状態になる。しかし、凍結肩では修復の過程で線維芽細胞が筋繊維芽細胞に変異し、異常に修復が増加するため拘縮につながると考えられている ¹⁾
※筋繊維芽細胞は平滑筋的な収縮特性を獲得しているため、傷口を狭めるように働く
✔細胞外基質(マトリックス)の周期回転のバランス異常⁷⁾
・繊維芽細胞の役割のひとつとして細胞外基質の元となるコラーゲンの生成がある。この細胞外基質の周期は繊維芽細胞とMatrix Metallo Proteinases (MMPs)とTissue Inhibitor of Metallo Proteinases (TIMPs)という酵素によって管理されている。MMPsは余分なコラーゲンを溶かすのを促進してTIMPsはMMPsの働きを制限する役割を担っている。凍結肩ではこのMMPs/TIMPs比が低くなることが報告されている。この比率が低くなると線維化が進行し凍結肩に繋がると考えられている
✔線維芽細胞の収縮⁷⁾
・繰り返した機械的(メカニカル)ストレスは繊維芽細胞が筋繊維芽細胞に変わることを促進すると推測されている。筋繊維芽細胞は平滑筋のような働きがあり収縮能力に長けている。このプロセスが進行することにより拘縮に繋がるとされている
✔低程度の慢性炎症⁷⁾
・凍結肩では慢性炎症と関連しているICAM-1(細胞接着分子)レベルが関節包で高くなる。さらにリポ蛋白(a)のレベルも高くなっている。このリポタンクは炎症性疾患で高値傾向であり凍結肩の独立した危険因子でもある。これらの炎症に関わる化学分子は繊維芽細胞を筋繊維芽細胞へと変性を引き起こすトリガーとなると考えられてるが、そのプロセスは全て明らかにされていない
臨床で代表的にみられる症状
・90.6%において、可動域制限の前に痛みが生じる
・肩の外側や全体に痛みがあり、可動域制限がある
・痛みがどんどん増加する
・自動・他動可動域が徐々に低下する
・上に手を伸ばす、背中に手を回す、特定の寝ている姿勢で痛みが悪化する
ステージ分類
✔文献に基づく分類を以下に示す²⁾
- ステージ1:発症期
・発症後0-3か月
・顕著な夜間痛および睡眠障害
・自動でも他動でも痛い
・可動域制限はあまりない
・回旋筋腱板を痛めていないにも関わらず、外旋可動域が制限されやすい - ステージ2:凍結進行期
・発症後3-9か月
・自動、他動の慢性痛
・顕著な屈曲、外転、内旋、外旋の可動域制限 - ステージ3:凍結期
・発症後9-15か月
・最終可動域にてわずかな痛み
・顕著な抵抗制限のある可動域制限 - ステージ4:解凍期
・発症後15-24か月
・わずかな痛み
・可動域が徐々に改善する
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている
- 一次性凍結肩:一般人の有病率は2.0-5.3% ⁴⁾
- 二次性凍結肩:糖尿病や甲状腺の病気かある場合の有病率は4.3-38% ⁴⁾
- 多くて40-50%の人が両側に発生すると報告されている ⁵⁾
- 凍結肩の70%は女性 ⁵⁾
- 1型または2型糖尿病患者における有病率はそれぞれ10.3%と22.4% ⁵⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている
- 年齢40-60歳:この年代が全体の84.4%を占める⁴⁾
- 女性⁴⁾
- 1型または2型の糖尿病⁴⁾
- 甲状腺機能亢進症:リスク1.22倍 ⁵⁾
- 反対側の関節周囲炎または凍結肩既往⁵⁾
予後の予測
- 上記のステージによって予後は異なる
✔重症度に関わらず一般的に2年以内に自然治癒すると考えられている⁸⁾
✔以下は保存療法の予後不良因子である⁸⁾
・糖尿病との合併
・男性
・両肩に凍結肩を発症している
・初診での症状の期間(9.5ヵ月以上)
✔215人合計234例の凍結肩患者を平均41.8ヵ月後で追跡調査した研究では症状の有無に関わらず72.3%が自分の肩に満足していると答えた。そして39.7%は肩の可動域の低下があると答えた。ある文献では7年後で50%が症状を持っていたという報告もある⁸⁾
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・肩の痛み
・眠れないほどの夜間痛
・1ヵ月以上、肩の痛みと肩の可動域制限が続いている - 発症のきっかけ
・明らかなきっかけはなく、痛みが徐々に悪化する - 悪化要因
・肩の動作
・リーチ動作や背中に手を回す動作(結帯動作)が難しい - 緩解要因
・安静
・炎症がひどい時は安静にしていても痛む
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 立位・座位姿勢:不良姿勢、胸椎後弯
- 肩甲骨の異常運動
・肩挙上時に肩甲骨が挙上する
・結帯時に肩甲骨が挙上する
触診
- 骨組織:上腕骨頭(前後運動)、鎖骨(後方回転)、肩甲骨(上方回旋)
- 筋組織:大胸筋、小胸筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋
主な評価項目
- 可動性評価
・肩関節ROM:屈曲・伸展、外転・内転、1st 外旋・内旋、2nd 外旋・内旋、3rd 内旋
※自動では、屈曲、外旋、外転の順で制限がみられる
※他動では、外旋(特に2nd)で最も制限がみられる
※痛みが強い場合の評価方法:振り子運動
・胸椎ROM:屈曲、伸展、回旋
・肩甲骨の可動性:上方回旋・下方回旋、前傾・後傾
- 筋力評価
・回旋筋腱板:棘上筋(外転)、棘下筋(1st外旋)、小円筋(3rd外旋)、肩甲下筋(内旋)
鑑別評価
- 頚椎スクリーニング
- 胸椎スクリーニング
- 腱板損傷:ドロップアームテスト、ペインフルアーク
- 肩峰下インピンジメント:ホーキンステスト、ニアテスト
- その他の肩関節疾患:石灰化腱炎、肩関節滑液包炎
- 上肢神経評価:ULTT 1
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
ガイドラインおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
凍結肩への介入の基本的な流れは疼痛緩和・機能向上→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
疼痛緩和・機能向上
- コルチゾール注射:
・理学療法の領域ではないため担当の医師と連携する
✔コルチゾール注射、ストレッチ、肩関節の可動性を向上させる運動療法を一緒に行ったところ、ストレッチ、肩関節の可動性を向上させる運動療法のみより短期間(4₋6週間)で症状の改善に効果的であった (Grade A)⁴⁾
✔コルチゾール注射は凍結肩になってから1年以内の場合は推奨される。理学療法はコルチゾール注射が打てない時に積極的に行うことが推奨される¹¹⁾ - ストレッチ:
・過度なストレッチは逆効果になってしまうため痛みを悪化させない程度に行う
✔痛みを悪化させないレベルでストレッチを行うことが推奨される (Grade B)⁴⁾ - 患者教育:
✔疾患の自然経過についての説明、肩の痛みが悪化しないための生活指導、適切なストレッチの仕方を指導することが推奨される (Grade B)⁴⁾ - 物理療法:
✔ストレッチや運動療法と並行して、超音波療法、電気療法などを行っても良い (Grade C)⁴⁾ - 徒手療法:
・一時的な疼痛緩和や可動域の向上、特に異常な筋スパズムが可動域制限因子となっている場合は積極的に行う
・疼痛管理:大胸筋、小胸筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋トリガーポイント
・肩甲骨可動性向上:肩甲骨モビライゼーション
・肩関節外旋可動域向上:上腕骨頭モビライゼーション、後方関節包ストレッチ
✔可動域の向上、除痛のために、徒手療法を用いても良い (Grade C)⁴⁾
✔メイトランドやマリガンコンセプトによる肩甲骨のモビライゼーションは有用であるという報告もあるが確立したエビデンスはない¹⁰⁾ - 運動療法
・コッドマン体操や自動介助運動などを痛みがある初期は行う
・痛みが最小限の場合は肩への過度なストレスを避けるため肩甲骨周囲の筋力トレーニングを行う
再発予防
- 現時点で疼痛肩発症の原理が詳しく解明されていないため再発をエビデンスに基づいて予防することは困難である
- 考えられる点としては発症において過度な機械的ストレス、慢性炎症が関連している説があるため、生活習慣の見直し、運動習慣の習得などは予防に繋がるかもしれない。生活習慣病である糖尿病もリスク要因であるため、睡眠不足、ストレス、喫煙などの生活習慣は見直す余地がある
手術の適応基準
✔文献では以下が手術の適応基準とされている⁹⁾
・保存療法開始後で3₋6ヵ月以上経過して症状の軽減が認められないもの、または悪化している者
・年齢が若い者
・初診時の症状が重症
・糖尿病との合併
・両肩に併発している
・症状が慢性化している
✔これらの基準について詳しく述べた研究はなく担当の整形外科医の経験によっても基準は変わってく⁹⁾
参考文献
- 【Clinical Trial】Andersen CH, Zebis MK, Saervoll C, et al. Scapular muscle activity from selected strengthening exercises performed at low and high intensities. J Strength Conditioning Research. 2012;26(9):2408-16.
- 2019 Jun 15;27(12):e544-e554.
- 【Clinical Trial】Witt DW, Talbott NR. In-vivo measurements of force and humeral movement during inferior glenohumeral mobilizations. Manual Therapy. 2015;Aug 14. pii: S1356-689X(15)00151-4.
- 【Guideline】Kelley, MJ, Shaffer, MA, Kuhn, JE, Michener, LA, Seitz, AL, Uhl, TL, Godges, JJ McClure, PW. Shoulder pain and mobility deficits: adhesive capsulitis. J Orthop Sports Phys There 2013. 43(5), A1–31.
- 【Review】Hai V Le et al., Adhesive Capsulitis of the Shoulder: Review of Pathophysiology and Current Clinical Treatments. Shoulder Elbow. 2017 Apr;9(2):75-84.
- 【Systematic Review】
- 【Systematic Review】