本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 脊柱管あるいは椎間孔が狭窄し、神経を絞扼する障害。また、狭小化により血流の流れに障害がみられることもある
✔好発部位はL4-5である(最大91%のケースでL4-5で神経が圧迫されている²⁾ - 病態生理
✔現時点では疾患の定義は完全な合意に至っておらず、その定義については様々な意見がある。このため、腰部脊柱管狭窄症は複数の症候の組み合わせにより診断される症候群とするのが妥当であるとされている ⁷⁾
✔狭小化の病態生理は椎間板の変性、椎間関節や黄色靭帯の肥大などが最も一般的な考え方である ⁸⁾⁾
臨床で代表的にみられる症状
・殿部や下肢の痛み、痺れ、疲労感あり
・腰椎伸展で痛みが生じる
・長時間立ったり歩くと痛みが生じるが、座位や前屈で症状が緩和する(間欠性跛行)
・開脚歩行がみられる
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が報告されている
- アメリカでは腰痛専門医にかかる患者の13-14% ¹⁾
- アメリカのかかりつけ医にかかる腰痛持ちの患者の3-4% ¹⁾
- 日本で平均66.3歳の1009人を対象に調査を行ったところ、症状が見れる脊柱管狭窄症の有病率は9.3% ³⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が報告されている
- 年齢¹⁰⁾
- 肥満体型¹⁰⁾
- 喫煙¹⁰⁾
- 先天性の狭窄¹⁰⁾
- 腰部に繰り返したストレスがかかる職種¹⁰⁾
予後の予測
- 詳しい予後は重症度や個人の状況によってことなる
✔診療ガイドラインによると軽度、または、中等度の患者の自然治癒の予後は33%から50%で良好であるとしている。軽症から中等度の患者の症状が急激に悪くなることは極めて稀である ⁴⁾⁷⁾
✔狭窄症患者34例を平均11.1年追跡した調査では保存療法で30%が改善、30%が変化なし、30%が悪化した¹¹⁾ - 神経組織の回復過程は、下記の表を参照
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・殿部や下肢の痛み、痺れ、疲労感を訴える
・腰痛は伴う場合や伴わない場合がある - 発症のきっかけ
・徐々に発症する
・交通事故などの外傷で発症することもある - 悪化要因
・腰椎伸展で痛みが生じる - 緩解要因
・安静
・前かがみの姿勢 - 長時間立ったり歩くと痛みが生じるが、座位や前屈で症状が緩和する(間欠性跛行)
※姿勢には関係なく、歩いた時に立ち止まるだけで症状軽減する場合は血管性間欠跛行と鑑別する必要がある
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 立位・座位姿勢:前かがみになっているか確認する
- 歩行分析:脚を開いて、前かがみになって歩く傾向があるか確認(開脚歩行)
触診
- 筋組織:脊柱起立筋群、多裂筋、腰方形筋、大殿筋、中殿筋
- 神経組織:坐骨神経
主な評価項目
- スペシャルテスト
・ケンプテスト:椎間関節へのストレステスト(感度35-46%、特異度47%)
※脊柱管狭窄症の診断精度としては低い - 可動性評価
・腰椎自動可動域
✔屈曲:痛みの軽減を確認(前屈の動作は脊柱管を12%拡大する)¹⁰⁾
✔伸展:痛みの増加を確認(伸展の動作は脊柱管を15%狭小する)¹⁰⁾
・腰椎ROM:屈曲、伸展、回旋
- 筋力評価
・体幹の筋力・持久力評価
- 神経学テスト
・デルマトーム :L4-S2
・マイオトーム:L4 (前脛骨筋)、L5 (長趾伸筋)、S1 (下腿三頭筋)
・腱反射:S1 (アキレス腱)
鑑別診断
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
ガイドラインおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
- 現時点で理学療法単独での介入の明確な効果を支持するエビデンスは不十分である。そのため、評価の際は理学療法の介入で患者が少しでも回復できそうかを見極めなければならない(Grade I) ⁴⁾⁸⁾
- 理学療法は対症療法的な位置づけになる
腰部脊柱管狭窄症への介入の基本的な流れは症状緩和→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
疼痛緩和
- 運動療法
・現時点で一番強いエビデンスがあるため積極的に行っていくべきである
・急性の場合は痛みが悪化しない程度で行う。例:散歩やステップ動作
・原則として体幹やインナーマッスルの筋活動を向上させるエクササイズから始める。例:デッドバグ、骨盤転がしなど
・徐々に重り、機能的動作の追加やエクササイズの難易度をあげていく。例:スクワット、ランジなど
・体幹の安定性向上:バードドッグ、バッグブリッジなどの体幹トレーニング
・柔軟性向上:大殿筋、梨状筋ストレッチ
✔運動療法はコントロール群に比べて短期での機能の向上、腰痛、下肢の痛みの減少に繋がったが機能向上への効果は小さかった¹⁴⁾ - 物理療法
・基本的に物理療法は使用しないが、効果には個人差があるため患者の意向にあわせて検討する
✔エビデンスレベルは低いが運動療法にTENS、ホットパック、超音波療法を行っても運動療法のみに比べて痛み、機能、歩行能力に変化はなかった¹⁴⁾ - 装具療法
・レビューにてエビデンスがあるとされているが、元の文献の信憑性が不透明なことや数が非常に少ないことから患者の意向やテーピングでスクリーニングして検討する
✔腰部と仙腸関節を覆うサポーター装着は装着なしに比べ歩行期間の増加、痛みの減少に繋がったと報告されている¹⁴⁾ - 徒手療法
・徒手療法が症状の改善に繋がったというエビデンスがないため優先すべきではないが効果には個人差があるため患者の状態や意向によって検討する
・徒手療法のみでの介入は推奨しない
・疼痛管理:脊柱起立筋群、多裂筋、腰方形筋、大殿筋、中殿筋トリガーポイントへのアプローチ
再発予防
- 腰痛は様々な因子によって引きおこるため、問診においてどのような要因が痛みに繋がったかを推測し評価にもとづいて指導する
手術の適応基準
✔文献では以下の手術適応基準が報告されている
- 保存療法によって回復しなかった症例や症状が重症で硬膜の圧迫が見られる場合は一般的に手術が選択される¹⁰⁾
- ランダム化比較試験を対象としたシステマティックレビューでは保存療法を優先し手術の時期を遅らせても問題はないと報告されている。3₋6ヵ月保存療法を継続しても改善が見られない時は手術の方が優れている¹²⁾
- コクランレビューでは保存療法と手術療法どちらの方が有効かは結論付けられないとされている。しかし、手術に伴う副作用や合併症は10₋24%のケースで報告されているが、保存療法では副作用や合併症の報告はゼロである。手術による合併症や副作用は不安定腰椎に対する再手術(17%)、循環器障害や脳卒中(3.1%)、術後一か月以内に死亡(0.4%)が含まれる¹³⁾
- 下肢への痛みが腰の痛みより強い場合は手術によって改善する可能性が高い傾向にある¹⁰⁾
- 以下は手術療法による予後不良因子である¹⁰⁾
・抑うつ状態
・肥満体型
・喫煙
参考文献
- 【Review】Jon Lurie and Christy Tomkins-Lane Management of lumbar spinal stenosis. British Medical Journal.2016; 352: h6234. Published online 2016 Jan 4.
- 【Review】Gregory D. Schroeder, Mark F. Kurd, Alexander R. Vaccaro, Lumbar Spinal Stenosis: How Is It Classified? Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons: December 2016 – Volume 24 – Issue 12 – p 843-852
- Prevalence of symptomatic lumbar spinal stenosis and its association with physical performance in a population-based cohort in Japan: the Wakayama Spine Study. Osteoarthritis and Cartilage. 2012 Oct;20(10):1103-8.
- 2013 Jul;13(7):734-43. An Evidence-Based Clinical Guideline for the Diagnosis and Treatment of Degenerative Lumbar Spinal Stenosis (Update). Spine Journal.
- 【Clinical Trial】Kanno, H., Ozawa, H., Koizumi, Y., Morozumi, N., Aizawa, T., Kusakabe, T., Ishii, Y., et al. (2012). Dynamic change of dural sac cross-sectional area in axial loaded magnetic resonance imaging correlates with the severity of clinical symptoms in patients with lumbar spinal canal stenosis. Spine, 37(3), 207–213. doi:10.1097/BRS.0b013e3182134e73
- 【Review】Smart, K. M., Blake, C., Staines, A., Thacker, M., & Doody, C. (2012). Mechanisms-based classifications of musculoskeletal pain: part 2 of 3: symptoms and signs of peripheral neuropathic pain in patients with low back (± leg) pain. Manual therapy, 17(4), 345–351. doi:10.1016/j.math.2012.03.00
- 【Review】腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン 2011
- 2010 Apr;24(2):253-65.
- Anatomic changes of the spinal canal and intervertebral foramen associated with flexion-extension movement. Spine.1996 Nov 1;21(21):2412-20.
- 【Cohort Study】The natural clinical course of lumbar spinal stenosis: a longitudinal cohort study over a minimum of 10 years. Journal of Orthopaedic Science.2013 Sep;18(5):693-8.
- 【Systematic Review】