仙腸関節障害 Sacroiliac Joint Disorder

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

病態

  • 仙骨と腸骨の間にある関節が不用意な動作や、繰り返しにかかる負荷により関節に不適合が生じる障害

  • 病態生理
    ✔仙腸関節は、通常約2°の微小な動きしか伴わない ⁸⁾
    ✔仙腸関節は、大殿筋や梨状筋、大腿二頭筋は、仙腸関節を支える靭帯と機能的に連結している⁴⁾
    ✔仙腸関節周辺の侵害受容器は関節包、靭帯、軟骨下骨と多岐に位置しており、受傷機転も外傷、オーバーユースや明らかな原因が不明の場合もあり、痛みの発生機序は様々である ¹⁾⁴⁾

臨床で代表的にみられる症状
・片側性の仙腸関節、殿部、鼠径部の痛み
・寛骨の可動性低下
・骨盤帯のランドマークの非対称性
・仙腸関節靭帯を触診すると、症状が誘発される
・4つの誘発テストの内3つで、症状が誘発される

 

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ

  • ヘルニアや椎間板症などのない腰痛患者の10-25%⁶⁾
  • スポーツ障害を持つ若者、妊婦、高齢者に多い²⁾

リスク要因 

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている

  • 側弯症⁴⁾
  • 脚長差⁴⁾
  • 妊娠(妊娠時や月経時は仙腸関節を支える靭帯が上手く機能しないことが多いため)⁴⁾
  • 過去に腰椎固定術を受けたことがある⁴⁾

予後の予測

  • 詳しい予後は重症度によって異なる
  • 慢性化しやすい疾患でもあるので、その人の状態にあわせて予後を予測することが大切

 

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

問診

  • 現在の症状
    ・片側性の仙腸関節、殿部、鼠径部の痛み
  • 発症のきっかけ
    ・お尻から転倒して発症することが多い
    ・明らかなきっかけはなく、気が付いたら痛み上がる例も多い
    ・段差を踏み外したり、まっすぐ伸びている脚に突然体重をかけてしまった
    ・妊娠中または子どもを抱っこすることが多い
  • 悪化要因
    ・硬い椅子に座ると痛い
  • 緩解要因
    ・歩いたり、横になると痛みが楽になるか
  • 既往歴
    ・腰痛と合併しやすい

視診・動作分析

現在の症状や機能レベルの把握に役立つ

  • 立位・座位姿勢:脊柱の側弯、骨盤の対称性

触診

  • 骨組織:骨盤帯のランドマーク、仙腸関節の可動性(前後の副運動)
  • 筋組織:大殿筋、中殿筋、梨状筋、腰方形筋
  • 軟部組織:後仙腸靭帯

主な評価項目

  • スペシャルテスト ⁷⁾
    ・下記4つ中3つ以上陽性であれば感度83-91%、特異度76-85%
     ・仙腸関節離開テスト
     ・仙著関節圧迫テスト
     ・仙骨スラストテスト
     ・大腿骨スラストテスト
    Active SLRテスト:仙腸関節を圧迫して脚を挙上した時に痛みが減少するかを確認する
     骨盤荷重伝達障害を調べるために用いる
     ✔骨盤伝達障害とは、骨盤が安定していなく下肢と体幹の間で上手く力が伝達されない状態のことを指す、これは仙腸関節障
     を引き起こす要因の一つとして考えられている¹¹⁾
  • 可動性評価
    ・腰椎ROM:屈曲、伸展、回旋

鑑別診断

  • 腰椎スクリーニング
    ・痛みの場所に腰による痛みは仙腸関節よりも上位の部位に痛みがあることが多い
  • 股関節スクリーニング

 

介入プラン

エビデンスに基づいた介入方法

ガイドラインおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

仙腸関節障害への介入の基本的な流れは疼痛緩和→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく

疼痛緩和

  • 運動療法
    仙腸関節周辺の筋(特に殿筋群、体幹、インナーマッスル)が中心となる、これらの筋肉は腹圧をあげ体幹を安定させる役割を持つほかにも骨盤の安定にも関わる。介入初期はそれぞれの筋活動の向上が目的となるため殿筋群においてはクラムシェル、ブリッジなどを用い、徐々に難易度を上げ機能的動作を加えていく
    ✔仙腸関節周辺の筋力・持久力向上トレーニング、体幹トレーニングは機能向上のために用いられる。特にActive SLRテストで痛みが減少した場合に効果的である。運動療法のプログラムのプロトコルは現時点では確立していないため個人の評価に合わせてすることが推奨される⁸⁾
  • 装具療法
    痛みの一時的な緩和を目的に使用する。臀部をベルトのように貼るテーピングで疼痛の緩和が確認できる場合は装具において疼痛が緩和する可能性が高い
    ✔仙腸関節ベルトは介入初期、または、仙腸関節に過度な可動性がある場合に効果的である。妊娠中の場合に続けて使用しても効果的である。しかし、その効果は個人によって異なる⁸⁾
  • 徒手療法
    ・一時的な疼痛緩和を目的に検討する。評価に基づいて異常な筋スパズムが見られる部位にアプローチする。可動性がありすぎる場合は徒手療法によって症状が悪化する可能性もあるため注意し、運動療法を優先する
    ・疼痛管理:大殿筋、中殿筋、梨状筋、腰方形筋トリガーポイント
    ・仙腸関節可動性向上:仙腸関節PAモビライゼーション
    ✔様々なテクニックがあるが、仙腸関節障害にどれだけの効果があるかは不明である¹⁾⁶⁾

再発予防

  • 現時点で再発予防方法について詳しく調べた研究は見当たらない。仙腸関節障害は腰痛と同様に多様な要因によって引き起こされるため患者個人それぞれの個別の要因を問診、評価で見つけ出すことが重要になる

臨床例

参考文献

  1. 【Review】David C Ou-YangPhilip J YorkChristopher J KleckVikas V Patel Diagnosis and Management of Sacroiliac Joint Dysfunction. The Journal of Bone and Joint Surgery. American Volume. 2017 Dec 6;99(23):2027-2036.
  2. 【Review】Raj MA, Varacallo M. Sacroiliac (SI) Joint Pain.InStatPearls [Internet] 2019 May 12. StatPearls
  3. 【Guideline】Delitto, A., George, S. Z., Van Dillen, L. R., Whitman, J. M., Sowa, G., Shekelle, P., Denninger, T. R., et al. (2012). Low back pain. The Journal of orthopaedic and sports physical therapy, 42(4), A1–57.
  4. 【Review】Guilherme Barros, Lynn McGrath and Mikhail Gelfenbeyn. Sacroiliac Joint Dysfunction in Patients With Low Back Pain. Federal Practitioner. 2019 Aug; 36(8): 370–375.
  5. 【Review】Cohen SP. Sacroiliac Joint Pain: A Comprehensive Review of Anatomy, Diagnosis, and Treatment. Anesth Analg (2005) 101:1440 –53.
  6. 【Systematic Review】Simopoulos TT, Manchikanti L, Gupta S, Aydin SM, Kim CH, Solanki D, Nampiaparampil DE, Singh V, Staats PS, Hirsch JA. Systematic Review of the Diagnostic Accuracy and Therapeutic Effectiveness of Sacroiliac Joint Interventions. Pain Physician. 2015 Sep-Oct;18(5):E713-56
  7. 【Review】Jean Charles Le HuecAndreas TsouprasAmelie LeglisePaul HeraudetGabriel CelarierBengt Sturresson The Sacro-Iliac Joint: A Potentially Painful Enigma. Update on the Diagnosis and Treatment of Pain From Micro-Trauma. Orthopaedics and traumatology, surgery, and research. 2019 Feb;105(1S):S31-S42. 
  8. 【Review】Rebecca PeeblesChristopher E Jonas Sacroiliac Joint Dysfunction in the Athlete: Diagnosis and Management. Current Sports Medicine Sports. Sep/Oct 2017;16(5):336-342.
  9. 【Clinical Trial】Pool-Goudzwaard, A., Gnat, R., & Spoor, K. (2012). Deformation of the innominate bone and mobility of the pubic symphysis during asymmetric moment application to the pelvis. Manual therapy, 17(1), 66–70.
  10. 【Clinical Trial】Depledge, J. McNair, PJ. Keal-Smith, K. Williams, M. Management of Symphysis Pubis Dysfunction During Pregnancy Using Exercise and Pelvic Support Belts. Phys Ther (2005) 85 (12): 1290.
  11. 【Review】Melanie D Bussey. Mechanics of pelvic girdle stability and self-bracing in SIJ-related pelvic girdle pain: a review. Physical Therapy Reviews. 2015. Vol 20(3). pp. 168-177.

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