本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
Trobisch et al. 2010. 図4より引用³⁾
病態
✔脊椎が側弯し、ねじれも加わっている状態。側弯の角度が最低でもCobb角(コブ角)が10°以上であることが側弯症の定義とされている¹⁾⁵⁾
- 病態生理
・大別すると、筋バランスの崩れや不良姿勢によって引き起こされるもの、骨の組織的変化によって引き起こされるものがある
✔側弯の正確な病因は現時点で不明であり、遺伝、結合組織の異常、脊柱の発達異常など様々な因子が関わっているとされている³⁾⁵⁾⁶⁾ - 分類
✔原因による分類¹⁾
1. 原因が特定できない特発性側弯症(80%を占める)¹⁾
2. 先天的な椎骨の異常による先天性側弯症
3. 神経障害で脊柱を支える筋が麻痺して起こる神経原性側弯症
→特発性側弯症は年齢によってさらに細かく分けられる ¹⁾³⁾⁶⁾
・乳幼児期側弯症(0-2歳)
・学童期側湾症(3-9歳)
・思春期側弯症(10-17歳)
・成人側弯症(18歳以上)
※上記のうち、6-24ヶ月、5-8歳、11-14歳で進行しやすい¹⁾
✔重症度による分類¹⁾
・Cobb角によって分類
・軽度:20°未満
・中等度:21-35°
・中等度〜重度:36-40°
・重度:41-50°
・重度〜かなり重度:51-55°
・かなり重度:56°以上
臨床で代表的にみられる症状
・脊椎の伸展が難しい
・姿勢を保つのが辛い、また、だんだん痛みが生じる
腰痛の発生リスクは一般人の20倍¹⁾
・明らかな側弯が目視できる
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている
- 一般人の有病率:約2-3% ¹⁾⁴⁾
- そのうち保存療法が必要となるのは10%、手術適応は0.1-0.3%¹⁾
- 男女比¹⁾
Cobb角10-20°では1.3 : 1.0
Cobb角20-30°では5.5 : 1.0
Cobb角30°以上では7.0 : 1.0
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている
- 女性(重症度も女性の方が高い)¹⁾⁴⁾
- 遺伝(特発性側弯症の30%で家族内発症あり)⁸⁾⁾
※様々な因子が重なって発症するため、はっきりとしたリスク要因は現時点で不明³⁾⁵⁾
思春期特発性側弯症の進行リスク要因 ⁵⁾
・年齢が若いほど進行のリスクは高い
・側弯の角度が大きいほど進行のリスクは高い
・カーブが2個以上の場合は進行しやすい
・女性の方が進行しやすい
予後の予測
- 予後は変性の重症度、患者の年齢、骨の成長ステージ、また、原因によって異なる
✔特発性乳幼児期側弯症の80%は自然に回復する(助椎角が20度以下の場合は予後は良好)³⁾
✔Cobb角30−50°では成人になってから生活に支障が出るリスクが高い¹⁾
✔シュロス法を実施した場合、効果がみられるまでに最低1か月は継続が必要⁹⁾
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・姿勢を保つのが辛い、また、だんだん痛みが生じる
・脊椎のS字カーブ
・無症状の場合もある - 発症のきっかけ
・徐々に生じる脊椎のカーブ - 悪化要因
・脊椎の伸展が難しい - 緩解要因
・特になし - 家族歴
・突発性の90%は11歳から18歳の間に発症する
・他の家族に側弯症を持っている人がいる
・幼少期に発達運動障害があったか確認する
※特発性側弯症ではない可能性もあるため - 他の疾患と合併してないか確かめるため、持続する夜間痛や、神経症状の有無を確認する
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 立位・座位姿勢:対称性、肩の位置、湾曲の程度、骨盤の高さ、側弯のカーブの程度
- 歩行:足の長さの違い、代償動作の確認
触診
損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である
- 骨組織:脊椎(前後の副運動の可動性を評価)
- 筋組織:ハムストリングス、大胸筋、小胸筋、腹斜筋、脊柱起立筋群、腰方形筋
主な評価項目
- スペシャルテスト
・側弯前屈テスト(アダムステスト):胸椎の回旋の程度を確認する
骨組織自体に問題がない場合、前屈時に回旋は消える
Trobisch et al. 2010. 図2より引用³⁾
- 可動性評価
・胸椎ROM:屈曲、伸展、回旋
・ハムストリングス伸張性テスト - 神経力学テスト
・SLRテスト
鑑別診断
- 特発性側弯症以外の原因で起きる側弯症:脳生麻痺、神経線維腫症など
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
✔ガイドラインによると側湾症治療の主な目的は以下の4つとなる¹⁾
1.思春期に側弯症の進行を止める
2.呼吸機能障害を予防する
3.脊椎の痛みを予防すること
4.見た目を改善させること
- 運動療法:
・シュロス法は独自の評価法と治療法があるため国際的なコースに通い認定シュロスセラピストとなる必要がある、そのため本稿ではシュロス法の詳細については言及しない
柔軟性向上:ストレッチポール胸椎伸展、体幹の側面ストレッチ
脊柱安定性向上:バードドッグなどの体幹トレーニング
✔運動療法の効果は世界的には完全な合意に達してない。これは、ヨーロッパでは側弯症特有のトレーニングプログラムがあるが、これは大学や大学院ではなく、側弯症の専門クリニックでしか学ぶことができないためだと考えられている ⁷⁾
✔メタアナリシスにて、シュロス法は側弯症に対して有効だと示された(エフェクトサイズ 0.724)⁹⁾。シュロス法は、Cobb角30°以上よりも、Cobb角10-30°の側弯患者に対して有効であり、効果を感じられるまでに最低1か月は継続が必要と言われている⁹⁾ - 装具療法:
✔骨成熟するまで側弯の進行を抑制するために用いられる。ミルウォーキー型が最も一般的に使われている ⁸⁾
補足:理学療法の介入は側弯症によって引き起こされる、筋バランスの低下などのための対症療法的な位置づけにある ³⁾⁷⁾ - 徒手療法
・対症療法の位置づけとなるため評価に基づいて異常な筋スパズムが確認できる箇所にアプローチする
疼痛管理:ハムストリングス、大胸筋、小胸筋、脊柱起立筋群、腰方形筋トリガーポイント
胸椎可動性向上:胸椎PAモビライゼーション
手術への適応基準
✔文献によると一般的にCobb角45₋50°以上は手術の適応となる¹⁰⁾
参考文献
- 【Guideline】Negrini, S., Donzelli, S., Aulisa, A. G., Czaprowski, D., Schreiber, S., de Mauroy, J. C., … Zaina, F. (2018). 2016 SOSORT guidelines: orthopaedic and rehabilitation treatment of idiopathic scoliosis during growth. Scoliosis and Spinal Disorders, 13(1).
- 2013 Feb;7(1):3-9. Epidemiology of Adolescent Idiopathic Scoliosis. Journal of Children’s Orthopaedics. Journal of Children’s Orthopaedics.
- 2013 Apr 30;346:f2508. Adolescent Idiopathic Scoliosis. BMJ.
- 2014;27(2):111-5. Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation. Scoliosis: Review of Types of Curves, Etiological Theories and Conservative Treatment.
- Physiotherapeutic Scoliosis-Specific Exercises for Adolescents With Idiopathic Scoliosis. European Journal of physical and rehabilitation medicine. 2014 Feb;50(1):111-21.
- 2011 Jan;27(1):26-42. Effectiveness and Outcomes of Brace Treatment: A Systematic Review. Physiotherapy theory and practice.
- Eur J Phys Rehabil Med. 2018 Jun;54(3):440-449. Effects of the Schroth exercise on idiopathic scoliosis: a meta-analysis.