本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 胸椎の後弯の角度が極端に大きくなったり、腰椎の前弯が失われて胸椎が過度に後弯になっている状態
✔通常、胸椎の後弯は20-40° ¹⁾
✔脊柱後弯症は胸椎の後湾が40°以上のことを指す ²⁾ - 分類
✔主に以下のカテゴリーに分けられる¹⁾²⁾
・疾患によるもの(例:ショイエルマン病)
・加齢によるもの
・不良姿勢によるもの
臨床で代表的にみられる症状
・背筋を伸ばすことができない
・胸椎の伸展時や回旋時に痛みが出やすい
・胸椎の最終可動域に達した時に痛みが発することが多い
・はっきりとした角度は未定だが、若者の場合は胸椎の後弯が40°以上
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている
- 60歳以上、加齢による後弯症の有病率は20-40%²⁾
- 胸椎後弯症を患う双子は2.8%(女性:2.1%、男性:3.6%)³⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている
- 遺伝¹⁾
- 椎間板変性¹⁾
- 脊椎伸筋の筋力・持久力低下¹⁾
- 脊椎の可動性の低下¹⁾
予後の予測
- 正確な予後は重症度や原因によって異なる
- 通常、姿勢を直すためには長期間で経過を観察する必要がある
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・背筋を伸ばすことができない
・腰の痛みを訴える場合がある
・無症状の場合もある - 発症のきっかけ
・最近で転倒、落下などがなかったか確認
・加齢と共に進行している - 悪化要因
・胸椎の伸展時や回旋したときに痛みが出やすい
・特にない場合もある - 緩解要因
・安静
・特にない場合もある - 家族歴
・ショイエルマン病は遺伝的に発症することもある
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 立位・座位姿勢
・自律的に後湾を矯正することが出来るか確認 - 呼吸パターン
・特に胸郭の動きを確認する
・胸椎の後弯は、肺のスペースを狭くするため
触診
損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である
- 骨組織:胸椎椎体・椎間関節(前後の副運動)
- 筋組織:脊柱起立筋群、大胸筋、小胸筋、上部僧帽筋、肩甲挙筋、多裂筋
主な評価項目
- 可動域評価
・胸椎ROM:屈曲・伸展、回旋
※伸展、回旋の最終可動域で痛みが生じることが多い
- 筋力評価
・脊柱起立筋群の筋力・持久力
評価項目
- 頚椎スクリーニング
- 肩関節スクリーニング
- 腰部スクリーニング
- 脊椎圧迫骨折:画像診断、パーカッションサイン(外傷の経歴がある時に確認する)
- 骨粗鬆症:高齢者では合併していることが多いため疑いが強い場合は適切な医療機関へと紹介する
✔WHOの骨密度による診断カテゴリー⁴⁾
正常 骨密度値が若年成人の平均値の‐1SD(標準偏差)以上。(Tスコア≧‐1) 低骨量状態(骨減少) 骨密度値がTスコアで‐1より小さく‐2.5より大きい。(‐1>Tスコア>‐2.5) 骨粗鬆症 骨密度値がTスコアで‐2.5以下。(Tスコア≦‐2.5) 重症骨粗鬆症 骨密度値が骨粗鬆症レベルで、1個以上の脆弱性骨折を有する
脆弱性骨折がある例は骨密度が若年成人平均値(Young Adult Mean:YAM)の80%未満
脆弱性骨折がない例は骨密度が若年成人平均値(Young Adult Mean:YAM)の70%未満
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
基本的に胸椎後湾症への介入は患者の症状によるため、評価と患者のゴールに基づいて介入プランを立てる
見た目的な問題を解決したい場合は胸椎後湾が先天性・構造的な問題か後天性・機能的な問題かを鑑別しなければならない
一般的に先天性や構造的な問題である場合は矯正の可能性は考えにくい。その場合は悪化防止や機能改善が中心となる
後天性や機能的な問題である場合は介入によって改善の可能性があるため以下の介入方法を検討する
- 運動療法
・普段から活動的でない患者の場合は運動療法によって改善が期待できる
・胸椎伸展可動域改善:ストレッチポール胸椎伸展エクササイズ
・脊柱起立筋群トレーニング:バックエクステンション
✔後湾症の改善が期待できる。脊柱起立筋群を鍛えるトレーニングを1年間行ったところ、重度の後弯でも改善したという報告がある。さらに、圧迫骨折の発生率も下がった¹⁾ - 徒手療法
・痛みを訴えている場合は一時的な疼痛緩和や可動性を出しエクササイズをよりしやすい状態を作るために行う。徒手療法のみで改善は期待できないため運動療法と併行して行うことが基本となる
・疼痛管理:脊柱起立筋群、上部僧帽筋トリガーポイント
・胸椎伸展可動域改善:胸椎PAモビライゼーション
✔いくつかの症例で改善の報告があるが、臨床試験できちんとした検討はなされていない²⁾ - 装具療法
・装着した際の快適さの問題があり、装具の効果は永久的に持続しないため、あくまで補助として使用を検討する
✔62人の骨粗鬆症と後弯症の女性高齢者を対象に1日2時間装具を着用して6ヵ月後で脊柱後弯角度が以前と比べて11%改善し、さらに、脊柱起立筋群の筋力も向上したという報告がある。しかし骨密度に変化はなかったため、運動療法と並行して行うのが好ましい²⁾
✔装具の例
Katzman et al. 2010. 図5より引用²⁾ - 患者教育
・不良姿勢をとる傾向がある場合は普段の姿勢を見直す
・運動量が低い方には運動する習慣をつける
参考文献
- 2017 Aug;29(4):567-577. Age-related Hyperkyphosis: Update of Its Potential Causes and Clinical Impacts-Narrative Review. Aging Clinical and Experimental Research.
- 2010 Jun;40(6):352-60 Age-related Hyperkyphosis: Its Causes, Consequences, and Management. Journal of Orthopaedic and Sports Physcial Therapy.
- 【Clinical Trial】Damborg, F., Engell, V., Andersen, M., Kyvik, K. O. & Thomsen, K. Prevalence, Concordance, and Heritability of Scheuermann Kyphosis Based on a Study of Twins. The Journal of Bone & Joint Surgery 88, 2133–2136 (2006).
- 【Guldeline】骨粗鬆の予防と治療ガイドライン(2015年版)