本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 脊椎の退行変性や外傷により、椎体が圧迫されて骨折した疾患
✔脊椎圧迫骨折患者の2/3は、症状がないとも報告されている³⁾ - 原因としては、非外傷性のもでは加齢や骨粗鬆症、悪性腫瘍が原因となる
✔重度の骨粗鬆症患者の場合、軽いものを持ち上げる、大きな咳やくしゃみ、寝返りといった動作で、脊柱起立筋の筋活動が生じただけでも受傷しうる。これらの約30%は、ベッド上で生じていると考えられる¹⁾
✔中等度の骨粗鬆症患者の場合、椅子から落ちる、転ぶ、重たいものを持ち上げる時に受傷する¹⁾
✔外傷では、高所からの落下や交通事故によって、屈曲方向に大きな力が加わった時に生じる¹⁾
✔55歳以下で圧迫骨折を持つ場合、悪性腫瘍を疑う¹⁾
タイプ別分類:
✔形態による分類¹⁾
- Wedge fracture (楔状型)
- Burst/Crush fracture (圧壊型)
- Biconcave fracture(両凹型)
重症度分類:
✔Genant Grades⁴⁾
- Grade 0:椎体の高さの減少が15%以内
- Grade 1:椎体の高さの減少が15-25%
- Grade 2:椎体の高さの減少が26-40%
- Grade 3:椎体の高さの減少が40%以上
臨床で代表的にみられる症状
・骨粗鬆症がある
・脊柱に対して屈曲、圧迫方向のストレスが加わった既往あり
・背中中心線にある腰背部痛(特にTh8-L4の範囲)
・パーカッションサイン、スパインサインで陽性
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が示されている
- Th8-L4、特にTh12-L2における圧迫骨折が最も多い¹⁾³⁾
- 閉経後の高齢女性55-65歳の有病率:25%¹⁾²⁾
- 80歳における有病率:女性40%¹⁾²⁾
- 発生率:1000人中女性10.7人、男性5.7人¹⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が示されている
- 骨粗鬆症:骨塩密度が2SD以上低下でリスク2倍¹⁾
- 圧迫骨折の既往:1つでリスク5倍、2つ以上でリスク12倍¹⁾
- 加齢¹⁾
- 女性¹⁾³⁾
- 閉経¹⁾、1年以上の月経不全¹⁾、エストロゲン不足¹⁾
- 悪い生活習慣:飲酒¹⁾³⁾、喫煙¹⁾
- 体重減少¹⁾³⁾
- うつ³⁾
- 栄養不足:カルシウム不足¹⁾、ビタミンD不足³⁾
- ステロイド剤の経口投与¹⁾³⁾
※肥満は骨粗鬆症の予防因子となる¹⁾
予後の予測
正確な予後は個人の状態によって異なる
✔文献では以下の予後予測が報告されている
- 50%以上の患者が保存療法にて、3ヶ月以内に十分な疼痛緩和を得られる³⁾
- 3週間の保存療法で得られた疼痛緩和の効果が、95%の確率で3ヶ月間持続する、という報告もあり³⁾
- その一方、40%の患者が1年間経っても十分な疼痛緩和が得られていない²⁾
- 受傷後1-2年間は、QOLが低下するという報告もあり³⁾
- 合併症
- 複数箇所での腰椎圧迫骨折は、胸椎後弯を増加させる¹⁾
- 心肺機能の低下、静脈血栓症、自己肯定感の低下などを引き起こす²⁾
- 圧迫骨折を持つ患者は死亡リスクが15%増加する¹⁾
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・背中の中心線に痛みあり
・痛みのせいで、あまり腰を動かせない - 発症のきっかけ
・突然腰痛が生じる場合もあれば、徐々に痛みが生じる場合もある
・転んだ、重たいものを持ち上げた。または高所から落ちた、交通事故にあったというエピソードあり - 悪化要因
・くしゃみや咳、体動時に痛みあり
・立ったり歩いたりすると痛みが強くなる。その一方、仰向けで寝ると痛みが和らぐ - 緩解要因
・安静 - 既往歴
・骨粗鬆症の既往あり
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 臥位:枕が低いと仰向けになれない
- 立位・座位姿勢:胸椎後弯、腰椎前弯
- 身長が低下している(3㎝以上)
触診
損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である
- 骨組織:胸腰椎、特にTh12-L2
※圧迫骨折部位には圧痛あり¹⁾ - 筋組織:脊柱起立筋群(過剰収縮が見られる)
主な評価項目
- スペシャルテスト
- パーカッションサイン:手のひらを患者の脊椎に当て、拳で脊椎を一つ一つ叩いていく。鋭い、骨に響く痛みがあれば陽性(感度87.5%、特異度90%)⁵⁾
- スパインサイン:鋭い痛みのため、ベッドに背臥位になれなければ陽性(感度81.3%、特異度93.3%)⁵⁾
- 可動性評価
・胸椎ROM:屈曲、伸展、側屈、回旋
・腰椎ROM:屈曲、伸展、側屈、回旋
※まずは自動ROMを確認する
- 筋力評価
・体幹MMT:伸展
・股関節MMT:大殿筋、中殿筋
- 神経学テスト
※制限が生じることは滅多にない。異常が見られる場合、手術適応となる可能性が高い¹⁾
鑑別診断
- 腰椎疾患:
・既往歴、年齢、受傷機序によって判断する - 悪性腫瘍:
✔年齢が55歳以下¹⁾ - 骨粗鬆症:高齢者では合併していることが多いため疑いが強い場合は適切な医療機関へと紹介する
✔WHOの骨密度による診断カテゴリー⁷⁾
正常 骨密度値が若年成人の平均値の‐1SD(標準偏差)以上。(Tスコア≧‐1) 低骨量状態(骨減少) 骨密度値がTスコアで‐1より小さく‐2.5より大きい。(‐1>Tスコア>‐2.5) 骨粗鬆症 骨密度値がTスコアで‐2.5以下。(Tスコア≦‐2.5) 重症骨粗鬆症 骨密度値が骨粗鬆症レベルで、1個以上の脆弱性骨折を有する
・脆弱性骨折とはわずかな外力で発生する骨折で一般的には立位の高さからの転倒、またはそれ以下の外力のことを指す
脆弱性骨折がある例は骨密度が若年成人平均値(Young Adult Mean:YAM)の80%未満
脆弱性骨折がない例は骨密度が若年成人平均値(Young Adult Mean:YAM)の70%未満
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
骨折のため基本的な方針は固定させ安静にすることである
圧迫骨折への介入の基本的な流れは患部の固定・疼痛緩和→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
患部の固定・疼痛緩和
- 装具療法:
・コルセットで固定されることもあるが、必ず必須というわけではない
✔痛みが減少するまでの間、初期に数ヶ月装着する効果は認められているが、エビデンスレベルは低い¹⁾³⁾ - 安静:
・出来る限り長期の安静は避け、痛みが悪化しない程度での運動を促す
✔痛みが強い場合は、初期の数日間のみ推奨される¹⁾³⁾。しかし、臥床により骨密度は毎週0.25-1.00%減少するため、疼痛自制内であれば早期離床が推奨される³⁾ - 運動療法:
・脊椎を安定させるため、そして骨密度を向上させるために早期から運動療法は取り入れていく
・介入初期は痛みを悪化させない程度で行っていく。患者が高齢の場合は簡易なバランストレーニングから始め転倒への予防も考慮する
・体幹トレーニングも椎体の安定性を向上させるために行う
✔荷重をかける運動が推奨される¹⁾
✔詳しいエクササイズプログラムは下記を参照 - 薬物療法:
・理学療法の領域ではないため担当の医師や薬剤師と連携する
✔閉経後の女性に対して、アレンドロン酸投与は圧迫骨折のリスクを50%抑える¹⁾
✔ラロキシフェン、副甲状腺ホルモン、カルシトニンの投与も骨粗鬆症に効果が認められている¹⁾ - 患者教育:
・骨の健康に悪い生活習慣を見直すことを促す。例:タバコをやめる事や飲酒量を控える - 徒手療法:
・圧迫骨折への徒手療法の使用は限定的となる。椎体を安定させることが最優先の課題のため他の介入方法を優先する
・特に椎間関節モビライゼーションは症状を悪化させる可能性があるため避ける
・疼痛管理:脊柱起立筋群
再発予防
- 運動療法
・詳しいエクササイズプログラムは下記を参照
✔脊柱伸展筋の筋力トレーニングは、骨密度を向上させ、更なる脊椎圧迫骨折の予防に効果的である³⁾ - 患者教育
・引き続き骨の健康を高めるための情報提供をする。例:定期的な運動習慣、
・骨密度を向上させるためには運動が不可欠であることを患者に理解してもらう
運動療法
- 運動療法は体幹の安定性向上や股関節の筋力向上を中心に行っていく
✔システマティックレビューにより骨密度が有意に向上したと報告された骨粗鬆症に対する運動プログラムを以下に示す ⁶⁾
・レジスタンストレーニングを1回45-70分を週3回 |
・1 Repetition Maximum (1RM)の70-90%の強度にて、8-10回を2-3セット |
・最低でも1年以上続ける必要がある |
- 以下のエクササイズを組み合わせてプログラムを作る
・重りを使ったスクワット、レッグプレスマシン、ヒップエクステンションマシン、ハムストリングカールマシン、レッグエクステンションマシン |
・ウェイトベストを着用してのステップ昇降運動、ウェイトベストを着用してのパワークリーン |
・ミリタリープレス、ラットプルダウン、シーテッド・ローウイング |
・ベンチプレス、ウェイトベストを着用してのバックエクステンション |
保存療法vs手術療法
✔保存療法(Level C)および必要があれば骨粗鬆症の治療(Level C)を実施する。保存療法で十分な回復が得られない時に手術適応を考慮する(Level C)³⁾
参考文献
- 【Review】Alexandru, Daniela, and William So. “Evaluation and management of vertebral compression fractures.” Permanente Journal 16.4 (2012)
- 【Review】Goldstein, Christina L., et al. “Management of the elderly with vertebral compression fractures.” Neurosurgery 77 (2015): S33-S45.
- 【Review】McCARTHY JA, Davis A. Diagnosis and management of vertebral compression fractures. American family physician. 2016 Jul 1;94(1):44-50.
- 【Clinical Trial】Burns, J. E., Yao, J., & Summers, R. M. (2017). Vertebral Body Compression Fractures and Bone Density: Automated Detection and Classification on CT Images. Radiology, 284(3), 788–797.
- 【Clinical Trial】Langdon, J., Way, A., Heaton, S., Bernard, J., & Molloy, S. (2010). Vertebral compression fractures – new clinical signs to aid diagnosis. The Annals of The Royal College of Surgeons of England, 92(2), 163–166.
- The Effectiveness of Physical Exercise on Bone Density in Osteoporotic Patients. BioMed Research International. 2018 Dec 23;2018:4840531.
- 【Guldeline】骨粗鬆の予防と治療ガイドライン(2015年版)