本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 坐骨神経が梨状筋によって圧迫、または刺激されることで殿部や下肢に痛みを引き起こす障害
✔しかし現時点での疾患の定義は、「坐骨神経痛の総称」として使われたり疾患の診断があいまいなため完全な合意には達していない ¹⁾ - 病態生理
✔通常、坐骨神経は分岐せずに梨状筋の下を通る。しかし、坐骨神経が梨状筋を突き抜ける場合や、分岐した坐骨神経が梨状筋の上と下を通っていく場合も死体解剖で確認されている。こうした解剖学的多様性が梨状筋症候群を引き起こしやすくするのではないかという説がある ¹⁾²⁾ - 発生機序
✔坐骨神経が梨状筋で圧迫される原因は様々であり、梨状筋への外傷による血腫、過度な筋肥大、オーバーユース障害、梨状筋の伸張性低下がある ²⁾
臨床で代表的にみられる症状
・運転など長時間座ると、殿部の症状が悪化する
・大坐骨切痕周辺の圧痛
・梨状筋のストレッチをすると症状が誘発される
・梨状筋を触知すると症状が誘発される
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔️腰痛や坐骨神経痛を持つ人のうち約6%の人が、梨状筋症候群を持つと予測されている ¹⁾
※定義が明確でないために診断不足、または過剰診断されている可能性もあり正確な有病率は不明 ⁴⁾
リスク要因
✔現時点でのはっきりとしたリスク要因は不明である ³⁾
予後の予測
- 正確な予後は個人の状態、状況によって異なる
- 軽症のものであれば最短で6週間程度で回復が期待できる
✔理学療法(6週間)と薬物療法(非ステロイド抗炎薬と筋弛緩薬)を同時に行ったところ250人の対象患者51.2%で症状が回復したという報告がある ⁴⁾⁵⁾ - 神経組織の回復過程は、下記の表を参照
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・臀部から大腿後部に向けて痛みを訴える
・痺れやチクチク感を坐骨神経の走行に沿って訴える - 発症のきっかけ
・尻もちなど最近転倒した経歴がある
・梨状筋を過度にストレッチした可能性がある - 悪化要因
・運転など、長時間座ると痛みが悪化する
・足を組むと痛みが悪化する場合がある - 緩解要因
・安静
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 梨状筋症候群の特異的な視診や動作分析はないので、患者の症状、状態に合わせて行う
触診
損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である
- 骨組織:大坐骨切痕
- 筋組織:梨状筋、大殿筋、中殿筋
※梨状筋を押圧すると症状が誘発される - 神経組織:坐骨神経
主な評価項目
- スペシャルテスト
・梨状筋テスト:痛みの誘発で陽性(感度78、特異度80%)
- 可動性
・股関節ROM:屈曲、伸展、内転、外転
※外転時に症状が誘発される
- 神経学テスト
・デルマトーム :L1-S2
・マイオトーム:股関節屈筋(L2)、大腿四頭筋(L3)、前脛骨筋(L4)、長趾伸筋(L5)、下腿三頭筋(S1)
・腱反射:膝蓋腱反射(L3)、アキレス腱反射(S1)
- 神経力学テスト
・SLRテスト:陽性の場合もある
鑑別診断
- 腰椎スクリーニング:腰椎神経根の圧迫、脊柱管狭窄症でも下肢への症状はでる
- 仙腸関節障害:誘発テストで確認
- 股関節スクリーニング:大転子疼痛症候群など
- ハムストリングス損傷:以前にハムストリングスを損傷したことがある場合にチェック
介入プラン
エビデンスに基づいた介入方法
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
✔現時点ではどの介入方法が最も効果的であるかを比較した研究が見当たらないため、評価の結果に基づいて介入プランを考える ²⁾
梨状筋症候群への介入の基本的な流れは疼痛緩和→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
✔介入の主な目的は梨状筋による神経の圧迫を緩和することである ²⁾
疼痛緩和
- 運動療法
・評価に基づいて最適なエクササイズを選択する
・筋力評価で筋力低下や著明な左右差が見られる場合は筋力トレーニングを行う。特に外転・外旋筋や股関節伸展筋の筋力低下が見られることが良くあるため介入初期はクラムシェルやブリッジなどで筋活動の向上を目指し、徐々に重りやスクワットなど難易度を進行していく
・梨状筋テストや神経力学テストで陽性となった場合は梨状筋ストレッチや坐骨神経モビライゼーションを行う
✔症例報告にとどまるが筋力トレーニングやバランストレーニングを含んだ運動療法は症状の改善に繋がった、そしてこの効果は治療後1年後でも持続したと報告されている⁷⁾ - 徒手療法
・評価において異常な筋スパズムやタイトネスが見られる時はマッサージやトリガーポイントで一時的な症状の改善を目指す
・疼痛管理:梨状筋、大殿筋、中殿筋トリガーポイントへのアプローチ - 患者教育
・介入初期は痛みが悪化する動作を避ける
・足を組むことや長時間の着席は控える - ドライニードリング(鍼治療)
・他の介入方法で改善が見られない場合などに検討する
✔症例報告にとどまるが超音波検査下での鍼治療が症状の改善に繋がったという報告が最近の研究で散見されている⁶⁾
再発予防
- 現時点で効果的な予防方法を調べた研究がないため、引き続き運動療法や患者自身ができるセルフケアを継続してもらう
臨床例
参考文献
- 2018 Feb;28(2):155-164. Four Symptoms Define the Piriformis Syndrome: An Updated Systematic Review of Its Clinical Features. European Journal of Orthopaedic surgery and Traumatology
- 2019 Aug;11 Suppl 1:S54-S63. Piriformis Syndrome: A Narrative Review of the Anatomy, Diagnosis, and Treatment. PM R. Piriformis Syndrome: A Narrative Review of the Anatomy, Diagnosis, and Treatment.
- 【Review】-O’Neill, L. A., McClain, R. L., Coleman, M. K., & Thomas, P. P. (2008). Diagnosis and Management of Piriformis Syndrome: An Osteopathic Approach. JAOA: Journal of the American Osteopathic Association, 108(11), 657 -664.
- 【Review】Shane P Cass Piriformis Syndrome: A Cause of Nondiscogenic Sciatica. Current Sports Medicine Reports. 2015 Jan;14(1):41-4.