鼠径部痛 Groin Pain

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報


Brukner et al. 2015. 図1より引用¹⁾

病態

  • 急加速や減速、方向転換などによって鼠径部に痛みを生じるスポーツ障害
    ✔鼠径部痛の50%以上は、内転筋、腸腰筋、腹筋群起因である²⁾
  • 分類
    ✔世界鼠径部痛学会のドーハ合意(2014)にて鼠径部痛は5つのカテゴリーに分類される¹⁾
    1. 内転筋由来:内転筋の圧痛+および収縮時痛+
    2. 腸腰筋由来:腸腰筋の圧痛+および収縮時痛+
      腸腰筋に伸長時痛がみられることもある
    3. 鼠径部由来:鼠径管に圧痛+および鼠径ヘルニア-
      腹筋群の収縮、もしくはバルサルバ法(耳抜きの事)、くしゃみ、咳にて痛みが増加する
    4. 恥骨由来 :恥骨結合やそのすぐ近位に圧痛+
      恥骨関連痛に特定された疼痛誘発テストはない
    5. 股関節由来:FADIRテストが陰性、FABERテストが陽性
      股関節インピンジメント、股関節唇損傷などが含まれる
  • その他由来のものとして以下が挙げられる¹⁾
    ・関連痛:腰椎、仙腸関節
    ・神経絞扼:閉鎖神経、腸骨鼠径神経 (L1)、陰部大腿神経、腸骨下腹神経
    ・骨端炎や骨折:ASIS、AIIS、恥骨

→原因が多岐にわたるため、鑑別診断が特に大切になる

臨床で代表的にみられる症状
・下腹部、鼠径部深部の痛み
・キック、腹筋運動、内転筋の抵抗で痛みが誘発されるが、運動を止めると痛みは消える
・恥骨結節への圧痛

 

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が報告されている

  • スポーツ障害の12-16%を占める³⁾
  • 好発年齢は20歳代中盤 ²⁾
  • 高校性アスリートでは有病率5-9% ²⁾
  • サッカー選手に最も多い ²⁾
    エリートサッカー選手では有病率10-18%、発生率1.1/1000h ²⁾
  • スポーツヘルニアや内転筋損傷、鼠径部損傷は男性に多い(96.6-99.2%) ²⁾
  • システマティックレビューによる鼠径部痛の原因ベスト5を以下に挙げる²⁾
    1. 股関節インピンジメント 32%
    2. スポーツヘルニア/恥骨結合炎 24% 
      ※ここではスポーツヘルニアは腹壁が突出していないものを指す
    3. 内転筋損傷 12%
    4. 鼠径部損傷 10%
    5. 関節唇損傷 5%

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が報告されている

  • 男性:女性よりリスク2.45倍¹⁾
  • 股関節痛の既往歴 (Level 1-2)¹⁾
  • 股関節内転の筋力低下 (Level 1-2)¹⁾³⁾
  • 股関節外転の可動域制限 ³⁾

予後の予測

  • 鼠径部痛の原因は多岐にわたるため、予後は原因によって変わる
    ・手術療法と保存療法でのスポーツ復帰率は変わらない¹⁰⁾

 

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
※鼠径部痛とは総称のため、その原因を特定していくことが大切となるため正確な評価が必要となる

問診

  • 現在の症状
    ・下腹部や鼠径部の奥、内転筋の近位に痛みがある
    ・アスリートの場合、数か月以上持続していることも多い
  • 発症のきっかけ
    ・一側に徐々に痛みが生じる
  • 悪化要因
    ・サッカーなど急加速や減速、方向転換を伴うスポーツ
  • 緩解要因
    ・安静によって緩和することが多い

視診・動作分析

現在の症状や機能レベルの把握に役立つ

  • 歩行:疼痛性歩行の有無

触診

損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である

  • 骨組織:恥骨結合およびその周辺
  • 筋組織:
    ・内転筋(長内転筋、短内転筋、大内転筋、恥骨筋、薄筋)
    ・腸腰筋(腸骨筋、大腰筋)
  • 軟部組織:鼠径管、鼠径靭帯
    →圧痛部位によって、内転筋由来、腸腰筋由来、恥骨由来、鼠径部由来かを鑑別する

主な評価項目

  • スペシャルテスト
    FADIRテスト:股関節唇損傷の有無を調べるテスト
     →鼠径部の圧痛テストとFADIRテストの二つでグロインペインの感度90%²⁾
    ※これらのテストは、股関節由来のルールアウトに有用。現時点ではルールインに有用な方法は明らかになっていない¹⁾

  • 可動性評価
    ・股関節ROM:屈曲・伸展、内転・外転、外旋・内旋
     ※股関節外旋の左右合計可動域が鼠径部痛と関係あり²⁾
  • 筋力評価
    ・股関節MMT:内転、外転

鑑別診断

  • 骨折:大腿骨頭、恥骨、寛骨臼
  • 腎疾患や腫瘍

 

介入プラン

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
鼠径部痛の介入の基本的な流れは原因が多岐にわたるため分類に基づいて解説していく
鼠径部痛は総称なので、いまだ介入プランに関するエビデンスは明らかになっていない

股関節痛全般に対して

  • 保存療法では運動療法が中心となる評価に基づいて介入していく
  • 徒手療法
    ・評価において異常な筋スパズムやタイトネスが見られる時は筋膜リリース、トリガーポイント、マッサージを用いて改善を目指す
  • 運動療法
    ✔股関節および腹筋群の筋力トレーニングは、症状の緩和、スポーツ復帰、再発予防に効果あり (Level 4) ⁴⁾
    ✔手術、医薬品、理学療法によるリハビリプログラムどの治療方法において優劣があるという科学的根拠はない¹⁰⁾

内転筋+恥骨由来に対して

✔内転筋由来と恥骨由来の鼠径部痛の臨床的違いはほぼ無いため同じアプローチを用いる¹⁰⁾

  • 運動療法
    ✔受動的な治療法よりも、積極的な運動療法の方がスポーツ復帰率が高い (中等度のエビデンス)¹⁾
    ✔アスリートにおける内転筋由来鼠径部痛の怪我以前のレベルでスポーツ復帰率は50₋75% ¹⁰⁾
    ✔内転筋由来の痛みと画像上でCAMタイプの骨形態異常を有している場合は長期での運動療法は予後良い¹⁰⁾
    ✔下記は体幹や内転筋をターゲットにしたエクササイズ例である

    Yousefzadeh et al. 図1より引用¹¹⁾
  • 徒手療法
    ✔長内転筋のリリーステクニックは競技復帰に有効である¹⁾

鼠径部由来に対して

✔腹腔鏡を用いた手術は、保存療法よりも疼痛を緩和し、スポーツ復帰率を高める²⁾

  • 運動療法
    ✔運動療法と注射による介入では1年で50%が完全に復帰したと報告されている¹⁰⁾
    ✔原則として内転筋、外転筋、腹筋の筋力強化が中心となる¹⁰⁾

その他

 

参考文献

  1. 【Statement】Weir, A., Brukner, P., Delahunt, E., Ekstrand, J., Griffin, D., Khan, K. M., … Hölmich, P. (2015). Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes. British Journal of Sports Medicine, 49(12), 768–774.
  2. 【Systematic Review】De SA, D., Hölmich, P., Phillips, M., Heaven, S., Simunovic, N., Philippon, M. J., & Ayeni, O. R. (2016). Athletic groin pain: a systematic review of surgical diagnoses, investigations and treatment. British Journal of Sports Medicine, 50(19), 1181–1186. 
  3. 【Systematic Review】Kloskowska, P., Morrissey, D., Small, C., Malliaras, P., & Barton, C. (2016). Movement Patterns and Muscular Function Before and After Onset of Sports-Related Groin Pain: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Medicine, 46(12),
  4. 【Systematic Review】Charlton, P. C., Drew, M. K., Mentiplay, B. F., Grimaldi, A., & Clark, R. A. (2017). Exercise Interventions for the Prevention and Treatment of Groin Pain and Injury in Athletes: A Critical and Systematic Review. Sports Medicine, 47(10), 2011–2026.
  5. 【Systematic Review】Ileana Ramazzina, Benedetta Bernazzoli, Virginia Braghieri, Cosimo Costantino .Groin pain in athletes and non-interventional rehabilitative treatment: a systematic review. J Sports Med Phys Fitness. 2019 Jun;59(6):1001-1010.
  6. 【Review】Hopkins, J. N., Brown, W., & Lee, C. A. (2017). Sports Hernia. JBJS Reviews, 5(9), e6.
  7. 【Review】Elattar, O., Choi, H.-R., Dills, V. D., & Busconi, B. (2016). Groin Injuries (Athletic Pubalgia) and Return to Play. Sports Health: A Multidisciplinary Approach, 8(4), 313–323.
  8. 【Review】John Kiel, Kimberly Kaiser. Adductor Strain. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPerls Publishing; 2020 Jan. 2020 JUn 24.
  9. 【Review】Stephen J NicholasTimothy F Tyler Adductor Muscle Strains in Sport. Sports Medicine. 2002;32(5):339-44.
  10. 【Review】Kristian ThorborgMichael P ReimanAdam WeirJoanne L KempAndreas SernerAndrea B MoslerPer HÖlmich. Clinical Examination, Diagnostic Imaging, and Testing of Athletes With Groin Pain: An Evidence-Based Approach to Effective Management. The Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy. 2018 Apr;48(4):239-249.
  11. 【Clinical Trial】Abbas YousefzadehAzadeh ShadmehrGholam Reza OlyaeiNasrin NaseriZahra Khazaeipour. The Effect of Therapeutic Exercise on Long-Standing Adductor-Related Groin Pain in Athletes: Modified Hölmich Protocol. Rehabilitation Research and Practice. 2018 Mar 12;2018:8146819.

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