腸腰筋損傷 Hip Flexor Strain

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

病態

  • 腸腰筋を損傷するスポーツ障害
    多くはオーバーユースか外傷により発生する
    ✔腸腰筋症候群(Iliopsoas syndrome)とも呼ばれ、この場合、腸腰筋腱炎や腸腰筋インピンジメントなどの総称となる¹⁾
  • 大腰筋は腰椎を起始とし、股関節屈曲および外旋作用がある。腸骨筋は腸骨の内側を起始とし、二つとも大腿骨近位の小転子に停止する

  • 発生機序:股関節屈曲を何度もくり返す動作や股関節インピンジメントが起因となる
    鼠径部痛を引き起こす代表的な障害の一つでもある²⁾³⁾

臨床で代表的にみられる症状
・腸腰筋の圧痛および収縮時痛、またはストレッチ時の痛み
・股関節屈曲時の痛み
・鼠径部や殿部への痛み

 

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では以下の有病率が報告されている

  • ランナー、サッカー選手、高跳び選手やダンサーに多い
  • 股関節痛を持つアスリートのうち、21%にMRIで腸腰筋の病変がみられた¹⁾
  • 股関節の関節鏡手術後患者の4.3%に腸腰筋損傷がみられた¹⁾
  • 人工股関節置換術後患者の24%に、腸腰筋腱炎がみられた¹⁾

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献では以下のリスク要因が報告されている

  • 女性¹⁾
  • 変形性股関節症やリウマチ¹⁾

予後の予測

  • 予後は個人の症状や重症度によって異なる
  • 保存療法での予後は非常に良い
    ✔653人のダンサーを対象者にした研究では100%が保存療法で回復したと報告されている⁴⁾

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

問診

  • 現在の症状
    ・腰仙部に腰痛が見られることが多い
    ・鼠径部や股関節、殿部に痛みを訴える
    ・膝関節を90°曲げる時に、鼠径部に引っ掛かり感を感じる
    ・放散痛は膝関節あたりまでのことが多い
  • 発症のきっかけ
    ・特にきっかけはなく、徐々に痛みが発症した
  • 悪化要因
    ・座位から立つときに痛み
    ・まっすぐ立ち上がることが難しい
    ・運動時に痛みが悪化し、休憩すると改善する
  • 緩解要因
    ・安静

視診・動作分析

現在の症状や機能レベルの把握に役立つ

  • 姿勢:腰椎前弯
  • 歩行:疼痛による逃避性跛行(片足を引きずるような跛行がみられる)

触診

損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である

  • 骨組織:小転子
  • 筋組織:大腿四頭筋、腸腰筋(大腰筋、腸骨筋)
    ・腸腰筋に異常な筋スパズムやタイトネスが見られる

主な評価項目

  • スペシャルテスト
    トーマステスト変法:腸腰筋の短縮があるかどうか調べる

    Laible et al. 2013. 図2より引用
  • 可動性評価
    ・股関節ROM:屈曲・伸展、内旋・外旋
    ・膝関節ROM:伸展
  • 筋力評価
    ・股関節MMT:屈曲・伸展

画像診断

  • 通常は診断に画像所見は必要ではないが、他の疾患との鑑別において用いられる
    ✔保存療法で回復が見られなかった時は画像所見(MRI)にて他の疾患との鑑別や組織的異常(滑液包炎や腱の肥厚)を確認する¹⁾

鑑別診断

  • 腰椎スクリーニング
  • 仙腸関節スクリーニング
  • 鼠径部痛
    ・内転筋、恥骨結合部位への触診により鑑別する
  • 股関節唇損傷
  • 内転筋損傷
    ・内転筋触診、スクイーズテストなどを用い鑑別する
  • 腹筋群損傷
    ・腹筋の触診や腹筋を収縮した際に痛みが誘発されるか確認する
  • 弾発股(ばね股)
    ・引っ掛かり感を訴える
    ・股関節外転位での股関節屈曲に抵抗を加えると痛みが誘発される

 

介入プラン

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

腸腰筋損傷の介入の基本的な流れは疼痛緩和→再発予防である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく

✔保存療法が中心となるが、回復が見られなかった場合は手術(腸腰筋腱切離術)やコルチゾル注射などが治療選択肢に入る¹⁾

疼痛緩和

  • 運動療法
    ・介入初期はストレッチ、等尺性運動、徒手療法、安静を中心に痛みが治まるまで続ける。痛みが減少していくと同時にエクササイズの進行、筋力トレーニングを始める
    ✔脊柱・股関節に対するエクササイズ、ストレッチが典型的な方法である。股関節回旋に焦点を当てた運動プログラムにより疼痛緩和、活動量増加がみられた¹⁾
    ✔腹横筋をターゲットにした体幹トレーニングにて過度な反り腰を修正する⁴⁾
    ✔腸腰筋の筋力トレーニングを行う⁴⁾
  • 徒手療法
    ・異常な筋スパズムやタイトネスが確認される場合はトリガーポイントなどで疼痛緩和を目指す
  • 患者教育
    ・オーバーユースが原因と考えられる場合は安静、又は活動量を減らし腸腰筋腱にかかる負担を減らす

再発予防

  • 再発予防について詳しく調べた文献は見当たらなかった
  • 原則として腸腰筋への過度な負担を減らしていくためにトレーニングプログラムの見直し、ストレッチやエクササイズを続けて行っていく

参考文献

  1. 【Review】Alexander M. Dydyk; Amit Sapra. Psoas Syndrome. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPerls Publishing; 2020 Jan. 2020 JUn 29
  2. 【Statement】Weir, A., Brukner, P., Delahunt, E., Ekstrand, J., Griffin, D., Khan, K. M., … Hölmich, P. (2015). Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes. British Journal of Sports Medicine, 49(12), 768–774.
  3. 【Systematic Review】De SA, D., Hölmich, P., Phillips, M., Heaven, S., Simunovic, N., Philippon, M. J., & Ayeni, O. R. (2016). Athletic groin pain: a systematic review of surgical diagnoses, investigations and treatment. British Journal of Sports Medicine, 50(19), 1181–1186. 
  4. 【Clinical Trial】Catherine LaibleDavid SwansonGarret GarofoloDonald J Rose. Iliopsoas Syndrome in Dancers. Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2013 Aug 21;1(3):2325967113500638.

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