本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 内側側副靭帯 (Medial collateral ligament: MCL)の損傷
- 膝靭帯の中で最も損傷しやすい靭帯である
✔接触や非接触による過度の外反力によって損傷することが多い ²⁾
臨床で代表的にみられる症状
・荷重時や方向転換時に痛みや不安定性を感じる、または困難
・外反ストレステストで陽性
・MCL触診時の痛み
分類
重症度によって3段階に分けられる ²⁾
- Grade 1: 最小限の損傷。触診時に痛みが出るが、不安定性はみられない。外反時の弛緩はない。外反時の関節間が0-5㎜
- Grade 2: 中等度の損傷。痛みは強い。膝関節外反時に不安定性が確認できるが、外反のエンドフィールはしっかりしている。膝屈曲30°で外反時の弛緩がある。外反時の関節間が5-10㎜
- Grade 3: 靭帯の完全断裂。強い痛みと機能的障害がみられる。膝関節外反時の不安定性が見られ、膝屈曲30°時の膝関節外反のエンドフィールに反発が感じられない。回旋不安定性が確認できる時もある。外反時の関節間が10㎜以上
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献で示されている有病率は以下である
- アスリートの怪我の7.9%はMCL損傷である ¹⁾
- アスリートの発生率;年間1,000人中7.3人 ³⁾
上記のうち、grade 1は73%、grade 2は23%、grade 3は4%だった³⁾ - Grade 3 損傷者の78%は十字靭帯損傷を伴う。そのうち95%は、膝前十字靭帯損傷であった ⁴⁾
- サッカー、アメリカンフットボール、スキーは最もMCLを受傷しやすい ³⁾
- UEFA(欧州サッカー連盟)加盟の51チームを3シーズン追跡した結果、公式に記録された怪我4364件の内3%はMCL損傷であった。MCLの損傷は接触による損傷が75%でタックルされた時に最も起こりやすかった(29%)⁷⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献で示されているリスク要因は以下である
- 膝外反を伴うスポーツ ¹⁾
- 人工芝でのプレイは怪我のリスクを上げるかもしれない ¹⁾
予後の予測
- 重症度によって正確な予後は異なる
✔Grade 1または2の内側側副靭帯単独の損傷は基本的に保存療法によって治療される。スポーツ復帰までの目安はGrade 1で11日、Grade 2で20日である。しかし、受傷以前のプレイに戻るためには患者の状態や状況を考慮しリハビリ期間を決める ³⁾
✔喫煙や膝の外反は回復を遅らせる可能性がある。喫煙は毛細血管の収縮につながり、そして外反は膝の内側への負担の増加を助長するためだと考えられる ³⁾
✔骨挫傷を伴う場合があるがMRIの画像上で自然治癒が確認されるまでには2₋4ヵ月かかることが報告されている⁸⁾
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・膝内側に局所的な痛みや腫れを訴える
・荷重時や方向転換時に痛みや不安定性を感じる - 発症のきっかけ
・接触時やスポーツ動作中に外反の力が加わる動きがあった(例:膝軽度屈曲、外旋位での膝外側への直接接触による外反力)
・スポーツで膝の内側をぶつけたり、転倒している
・方向転換時の非接触的な外反力。スキーで起こりやすい - 悪化要因
・荷重時や方向転換時に痛みや不安定性を感じる
・体重をかけることが難しい - 緩解要因
・安静
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 患部:急性期においては創傷や関節部の変形、骨の転位がないか確認する→転位や変形は脱臼や骨折が疑われる
- 歩行:代償動作の有無。急性期では逃避性跛行
触診
損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である。特に膝周辺は様々な要因が痛みの原因となりえるので正確な触診が大切である
- 圧痛テスト:MCL(損傷部位を特定するために全ての繊維を触知する。遠位の繊維損傷は回復が遅い傾向にある⁸⁾
- MCL単独損傷の場合は局所的な圧痛を訴えることが多い
- 筋組織:大腿四頭筋、内転筋の異常な筋スパズム
主な評価項目
- スペシャルテスト
・腫れは受傷直後は少なく時間が経つにつれだんだんと腫れていくケースが多いため理想としては受傷直後にスペシャルテストを行えると他の組織との鑑別が容易になる。一度腫れ上がってしまうと膝をうまく動かすことが出来なくなるため鑑別が難しくなる
・外反ストレステスト(感度86-96%、特異度不明)
・30°屈曲のみで外反時の弛緩がある場合は表面のMCL損傷であり、屈曲0°でも外反時の弛緩がある場合は膝後内側の関節包の損傷が疑われる⁸⁾
- 形態計測
・膝関節の周径
・ストロークテスト:関節浸出液の有無の確認
- 可動性評価
・股関節ROM
・膝関節ROM:屈曲・伸展
・足関節ROM
- 筋力評価
・膝関節MMT:大腿四頭筋、ハムストリングス
※筋力低下は膝関節の不安定性につがる
・股関節MMT:中殿筋、大殿筋
※膝関節外反を防ぐ
- ファンクショナルテスト
・片脚立位テスト
・Yバランステスト
・ステップダウンテスト:股関節機能を評価 - ホップテスト:競技復帰基準に用いられる
・シングルホップテスト
・トリプルホップテスト
・6mホップテスト
・クロスオーバーホップテスト
鑑別診断
- 腰椎スクリーニング:腰椎からの関連痛は局所的に起こる場合は非常に少ない
- 膝関節疾患
- 足関節スクリーニング:足回内が原因の怪我は内側側副靭帯損傷と共に起こる場合もある
介入プラン
エビデンスに基づいた介入
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
MCLは血液供給が豊富なことや解剖学的観点から回復力が比較的強い組織なため、保存療法が選択されることが多い⁵⁾
内側側副靭帯への介入の基本的な流れは急性期→亜急性期→スポーツ復帰である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
急性期
- 急性期においてはスポーツ外傷の応急処置を参考に患部の保護を優先する
- 早期でのモビライゼーション:
・患者の状態に合わせ出来るだけ早期の可動域回復を目指す
✔拘縮を避けるために、できるだけ早い段階から可動域の回復を促す²⁾
✔エアロバイクによるROM運動はMCLの回復を促進するとされている⁸⁾ - 浮腫への介入:
・膝関節の腫れにはキネシオテープやリンパドレナージュによる介入も検討する
✔キネシオテープは肌を持ち上げリンパ液の流れを促す効果があるとされている⁹⁾
✔術後における浮腫のシステマティックレビューにおいてキネシオテープの効果を裏付ける幾つものランダム化比較試験が存在するが現時点では確立したエビデンスはないため強く推奨はされていない⁹⁾
しかし、比較的に安価であることや患者へのリスクも低いため介入選択肢に入れる価値はあると考えられる - 運動療法:
・大腿四頭筋、内転筋群、ハムストリングスへの筋力トレーニングを中心に行っていく
・特に介入初期においては内転筋群を収縮しながらの足を持ち上げる練習やSLRを行う
✔等尺性運動は介入初期から積極的に介入プランに取り組む。可動域の増加、荷重ステータスの進行と共にエクササイズの強度を上げていく¹⁾²⁾ - ハイドロセラピー:プール施設へのアクセスがある場合などは検討する
✔水が体重を支えてくれるため初期の歩行訓練や筋力トレーニングを行う際に検討する⁸⁾ - 装具療法:
・基本的にGrade 1では装具の着用はしないが、患者が不安定性を懸念している時などは検討する。装具療法の使用は最低限にし早期からの荷重や運動を優先する
・Grade 2や3は装具にて通常固定される、30-90°の角度で固定し徐々に角度を増やしながら3-6週間装着される
✔外反、内反のストレスを軽減するためHinged knee braceを3₋6週間装着することも検討されるが、UEFA(欧州サッカー連盟)の記録によるとGrade 2で装具を装着した選手は試合復帰が遅れた(装具装着41.5日vs装具なし31.5日)という報告もある¹⁾²⁾⁷⁾ - 患者教育:
・MCLへの2次的損傷を避けるために痛みが悪化する動作を避け、膝に外反力が加わる動作に気を付ける(例:歩行時に足を引きずる事や、過度な股関節外旋) - 急性期では浮腫の消失、膝関節の可動域回復、大腿四頭筋の筋力保持を優先する
- 一つの目安としては痛みや腫れが最低限となり、膝関節の屈曲可動域が120°以上達し、大腿四頭筋ラグ(膝伸展不全)なくSLRを行え、逃避性跛行が消失した場合に亜急性期へと進む
亜急性期
- 徒手療法:
・評価に基づいて異常な筋スパズムが確認できる場合はトリガーポイントなどを行い可動域の回復や疼痛緩和を目指す
✔動物を対象にした研究で器具を用いて横断マッサージをしたところ回復が早まったと報告されているが。人間を対象にして同じ結果になるかは不明である ⁶⁾ - 運動療法:
・急性期に引き続き膝の安定性に関与する大腿四頭筋、ハムストリングスの筋力強化を中心に進行する
・足のアライメントでプロネーションが見られる時は股関節外転、外旋筋へのトレーニングも検討する
・痛みが消失すると共に矢状面での動きを伴うトレーニングから始め、徐々に前額面や水平面での動きも加えていく。例:ジョギング→サイドステップ→ランニング→サイドホップ→方向転換
✔スポーツ復帰へ進行するには大腿四頭筋とハムストリングスの筋力が健側の90%以上であることを推奨する⁸⁾
スポーツ復帰
- エクササイズの負荷やスピードを徐々に上げていく
- トレーニング中やスポーツ動作時に不安定性を訴えていないか確認する
手術の適応基準
✔文献では以下を手術が適応されるべきかの判断をする要素としている(エビデンスレベル3)⁸⁾
- 受傷後の期間:3週間未満を急性、6週間以上を慢性とする
- 保存療法で回復しなかった場合
- アライメント:Grade 3で外反膝である場合は不安定性の懸念から手術の恩恵を受ける可能性が高い
- レントゲン上で骨の剥離がある場合
- 損傷した靭帯が関節包内に侵襲している場合やStener様病変が見られる時(断裂の反動で切れた断端が鵞足部位に付着する筋腱より表面にはみ出し断端が正常な位置に戻れなくなった状態)
参考文献
- 【Guideline】Logerstedt, D. S., Snyder-Mackler, L., Ritter, R. C., Axe, M. J., & Godges, J. J. (2010). Knee Stability and Movement Coordination Impairments: Knee Ligament Sprain. The Journal of orthopaedic and sports physical therapy, 40(4), A1-A37.
- 【Review】Pableo, EG. and Simone, P. (2018). Treatment of the medial collateral ligament injuries. Ann Joint 2018;6:78
- The epidemiology of medial collateral ligament sprains in young athletes. American Journal of Sports Medicine. 2014 May;42(5):1103-9.
- Treatment of combined complete tears of the anterior cruciate and medial collateral ligaments. Arthroscopy. 2012 Jan;28(1):110-22.
- Surgical treatment of medial knee ligament injuries: current indications and techniques. EFORT Open Reviews. 2017 Mar 13;1(2):27-33.
- Instrument-assisted cross fiber massage increases tissue perfusion and alters microvascular morphology in the vicinity of healing knee ligaments. BMC complimentary and alternative medicine. 2013 Sep 28;13:240.
- Isolated medial collateral ligament tears: An update on management. EFORT Open Reviews. 2018 Jul 2;3(7):398-407.
- 【Systematic Review】