本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 膝外側側副靭帯 (Lateral collateral ligament: LCL)の損傷
- LCLは主に内反力に対して、膝外側の安定性を保つ役割を持っている
✔特に膝屈曲0-30°位で最も緊張し内反外力に対する安定性に寄与している ¹⁾
✔膝の外旋や脛骨の後方移動の安定性を保つ役割も二次的に持っているため、過度の内反の力や膝をひねった時に損傷しやすい ²⁾
✔膝窩筋と膝窩腓骨靭帯と共に膝関節後外側角の安定性へ関与する²⁾ - LCL損傷は膝関節後外側角損傷に併発することがが多い
- 分類
✔重症度によって三段階に分けられる²⁾
- Grade 1: 靭帯への損傷は最小限
- Grade 2: 靭帯にある程度の損傷あり、よく腫れを伴う
- Grade 3: 靭帯の完全断裂。腫れを伴い関節包など他の組織にも損傷あり
臨床で代表的にみられる症状
・荷重時や方向転換時に、痛みや不安定感がある
・痛みや腫れのため体重をかけることが難しい
・内反ストレステストで陽性
・LCLの触診で痛みが誘発される
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献で示されている有病率は以下である
- 膝関節の靭帯損傷のうち、外側側副靭帯は全体の約4%を占める ¹⁾
- LCL単独損傷は約2%、その他は合併例 ²⁾
- UEFA(欧州サッカー連盟)加盟の51チームを3シーズン追跡した結果、公式に記録された怪我4364件の内
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
- ホッケー、サッカーやスキーのスポーツなどで怪我をしやすい
予後の予測
- 詳しい予後の予測は重症度や状況によって異なる
- 一般的に外側側副靭帯の単独損傷の場合、Grade 1とGrade 2は保存療法によって経過をみる事が多い
✔他の靭帯や軟部組織にも損傷がある場合、早期の手術の方が予後は良いとされている ²⁾
✔Grade 3損傷をしたアメリカンフットボール選手において、保存療法でも手術療法と同様にスポーツ復帰できた、という報告もある⁴⁾
✔膝外側側副靭帯は内側側副靭帯に比べて回復力が弱いため、手術によって治療されることも少なくない ²⁾
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・荷重時や方向転換時に痛みや不安定感がある
・痛みや腫れのため、体重をかけることが難しい
・膝の外側側副靭帯に腫れが見える - 発症のきっかけ
・膝内側への接触で内反の力がおき損傷が起きやすい
・膝の内側に繰り返した接触で微小な内反の力が何度も加わったりしても損傷することがある - 悪化要因
・膝の動き - 緩解要因
・安静
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 患部:急性期においては創傷や関節部の変形、骨の転位がないか確認する→転位や変形は脱臼や骨折が疑われる
- 歩行:代償動作がないか確認する。急性期では逃避性跛行
触診
損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である。特に膝周辺は様々な要因が痛みの原因となりえるので正確な触診が大切である
- 骨組織:大腿脛骨関節、腓骨頭(LCLが腓骨頭に付着しているから)
- 筋組織:大腿四頭筋、ハムストリングス、大腿筋膜張筋、中殿筋
- 軟部組織:外側側副靭帯
脚組みをする時に足首を膝の上に組む形にすることで外側側副靭帯を触診しやすくなる²⁾³⁾
主な評価項目
- スペシャルテスト
・内反ストレステスト:膝屈曲0°と30°において、痛み・不安定性が誘発されれば陽性。Grade分類に有用
- 形態計測
・膝関節の周径
・ストロークテスト:関節浸出液の有無の確認
- 可動性評価
・膝関節ROM
・股関節ROM
・足関節ROM
- 筋力評価
・膝関節MMT:大腿四頭筋
※筋力低下は膝関節の不安定性につながるかもしれない
・股関節MMT:大殿筋、中殿筋
- ファンクショナルテスト
・片脚立位テスト
・Yバランステスト
・ステップダウンテスト:股関節機能を評価 - ホップテスト:競技復帰基準に用いられる
・シングルホップテスト
・トリプルホップテスト
・6mホップテスト
・クロスオーバーホップテスト
鑑別診断
- 腰椎スクリーニング:通常、腰痛からの関連痛は局所的な痛みにならない
- 膝関節疾患
介入プラン
エビデンスに基づいた介入
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
外側側副靭帯への介入の基本的な流れは急性期→亜急性期→スポーツ復帰である
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
※外側側副靭帯損傷への介入について詳しく調べた高いレベルのエビデンスやリハビリプロトコルはなく文献で言及されている専門家の意見や症例報告に基づいて解説していく
急性期
- 急性期においてはスポーツ外傷の応急処置を参考に患部の保護を優先する
- 患者教育:
・内反や脛骨外旋を伴う動作は損傷した靭帯を引き延ばし二次的損傷へと繋がる可能性があるために気を付ける。例:脚を組む - 評価に基づいて異常な筋スパズムが確認できる場合はトリガーポイントなどを行い可動域の回復を目指す
- 浮腫への介入:
・膝関節の腫れにはキネシオテープやリンパドレナージュによる介入も検討する
✔キネシオテープは肌を持ち上げリンパ液の流れを促す効果があるとされている⁶⁾
✔術後における浮腫のシステマティックレビューにおいてキネシオテープの効果を裏付ける幾つものランダム化比較試験が存在するが現時点では確立したエビデンスはないため強く推奨はされていない⁶⁾
しかし、比較的に安価であることや患者へのリスクも低いため介入選択肢に入れる価値はあると考えられる - 痛みや腫れが最低限となり、膝関節の屈曲可動域が120°以上に達し、大腿四頭筋ラグ(膝伸展不全)なくSLRを行え、逃避性跛行が消失した場合に亜急性期へと進む
亜急性期
前期
- 亜急性期は運動療法が中心となる
- 可動域に制限がある場合は評価に応じてストレッチや徒手療法を用いて可動域の回復を目指す
- エクササイズバンドを使って大腿四頭筋の筋力向上をはかる。例:レッグエクステンション
- 原則としてこの時期にも膝に無理な内反の外力が加わるエクササイズ(サイドブリッジやヒップアブダクションなど)には注意をする。矢状面においてのエクササイズから始める
- 外側ハムストリングスをターゲットにしたエクササイズも始める。例:ブリッジエクササイズ
✔外側ハムストリングスは膝外側の安定性に関与している⁷⁾ - バランストレーニングもこの時期から徐々に始める。片脚立位などの静的バランストレーニングから始め、徐々にバランスディスクを使った動的バランストレーニングを導入していく
- MMT5/5、日常生活での痛みの消失、浮腫の消失、異常歩行が消失した場合に後期へと進む
後期
- 前期に引き続きバランストレーニングは継続し徐々に難易度を上げていく
- ラダーを使うアジリティトレーニングも取り入れていく。矢状面の動作から始め前額面の動作を加える
- ジョギングから始めランニングへと進行する
- どの段階においても患者が膝の不安定性を訴えた場合は再評価をし適切なレベルでのエクササイズを行う
- ホップテストやトリプルホップテストにてスコアの差が90%をスポーツ復帰の前に達することを目指す
スポーツ復帰
- エクササイズの負荷やスピードを上げていく
- スポーツ動作中やトレーニング中に不安定性がないか確認する
参考文献
- 【Guideline】Logerstedt, D. S., Snyder-Mackler, L., Ritter, R. C., Axe, M. J., & Godges, J. J. (2010). Knee Stability and Movement Coordination Impairments: Knee Ligament Sprain. The Journal of orthopaedic and sports physical therapy, 40(4), A1-A37.
- 【Review】Brian Grawe, Lateral Collateral Ligament Injury About the Knee: Anatomy, Evaluation, and Management. The Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons.2018 Mar 15;26(6):e120-e127.
- 【Review】Devitt, B. M., & Whelan, D. B. (2015). Physical Examination and Imaging of the Lateral Collateral Ligament and Posterolateral Corner of the Knee. Sports Medicine and Arthroscopy Review, 23(1), 10–16.
- 【Clinical Trial】Bushnell, B. D., Bitting, S. S., Crain, J. M., Boublik, M., & Schlegel, T. F. (2010). Treatment of Magnetic Resonance Imaging-Documented Isolated Grade III Lateral Collateral Ligament Injuries in National Football League Athletes. The American Journal of Sports Medicine, 38(1), 86–91.
- 【Systematic Review】