本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 膝関節にある半月板を損傷する疾患
✔半月板は三日月形の軟骨組織で内側と外側にそれぞれにあり、膝関節の衝撃吸収、力の伝達、軟骨の潤滑や栄養供給の役割も担っている³⁾
✔若者は主にスポーツなどでの外傷で損傷し、高齢者は加齢による退行変性により損傷する場合が多い¹⁾
✔損傷した半月板が関節腔や顆間隆起へ遊離傾向にあるとロッキングを引き起こす¹⁰⁾ - 受傷機転
✔膝に加重した状態で、ひねったり、膝が過伸展したり、衝撃を受けたりする場合に起こる ⁵⁾
✔軸力に回旋が加わると半月板にせん断力がかかり損傷へと繋がる⁷⁾
✔ジャンプ着地時や、急な方向転換、減速する際に受傷しやすい⁷⁾ - 分類
・分類は文献によって認識が多少違う場合があるが以下が基本となる
✔断裂の形によって縦断裂、バケツ柄状断裂、横断裂、水平断裂、フラップ状断裂などに分類される ⁵⁾¹⁰⁾ - 縦断裂
✔若年層で起こりやすく好発年齢は21₋30歳。外傷によって起こりやすく無症状の可能性もある。手術によって再建することが多い⁷⁾ - 横断裂
✔若年層で起こりやすく男性の好発年齢は11₋20歳、女性は51₋70歳。ほとんどは外傷のケースが多い。手術によって再建されることは少ない⁷⁾ - 水平断裂
✔どの年齢層でも起こりえるが高齢者で多い。好発年齢は男性31₋50歳、女性51₋60歳。切れ込みが拡大し遊離傾向がある弁状を切除することはあるが一般的に再建されない⁷⁾ - 変性断裂
✔半月板断裂で最も一般的な断裂(30%)。急性の怪我による発症ではないことが多い。好発年齢は男性41₋50歳、女性61₋70歳。関節内に変性を伴っていることが多い。自然治癒することは難しく一般的には再建されない⁷⁾ - バケツ柄状断裂
✔一般的に内側半月で起こりやすい。断裂部位が顆間隆起に引っ掛かるとロッキングを引き起こすため再建することが好まれる⁷⁾¹¹⁾ - 欧州スポーツ外傷・膝外科・関節鏡学会議(ESSKA)による公式声明では断裂の部位を以下の図のように分けている
図の左が外側半月、右が内側半月である。Anterio horn=前角部 Posterior horn=後角部 Pars Intermedia=中間部
✔損傷部位を血管分布により分けることもあるが、血管分布は年齢により変わることと手術中に確認できないことから血管分布によって分類することは避けることが推奨されている¹⁰⁾
✔Kopf et al. 2020. 図2より引用¹⁰⁾
臨床で代表的にみられる症状
・急に膝が動かなくなる(ロッキング)や膝の完全屈曲や完全伸展が難しい
・膝関節に引っかかり感がある
・膝の腫れと関節面を触診した際に痛みが誘発される
・テサリーテストで引っかかりや痛みが確認できる
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献で示されている有病率は以下である
・膝の痛みで医師を訪れる患者のうち、9%の方が半月板損傷を伴っている¹⁾
・22%から86%の症例において膝前十字靭帯損傷を合併している¹⁾
・外側半月板損傷は若い人に起こりやすく、内側半月板損傷は高齢の方に起こりやすい¹⁾
・内側半月が最も損傷しやすく比率は内側81%、外側19%である⁷⁾
・外側半月板損傷はACL損傷と合併しやすい(51₋72%)⁷⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献で示されているリスク要因は以下である
・男性:女性に比べリスク2.5‐4倍 ³⁾
・加齢(特に30歳以降は半月板の柔軟性が徐々に失われていく)¹⁾⁷⁾
・バスケットボール、サッカー(オッズ比3.58)、ラグビー(オッズ比2.84)、野球、スキーなどのスポーツで損傷しやすい¹⁾³
・膝前十字靭帯の再建手術が遅れると、将来半月板を損傷しやすい(オッズ比3.50)¹⁾
予後の予測
- 詳しい予後は、半月板の断裂の種類、損傷の程度と部位、患者の年齢、損傷している期間、および重症度によって異なる
✔保存療法と手術のどちらでも予後は良好であるが、しかし、膝の機能が完璧には回復していないと感じる患者が多い ¹⁾
✔特に高齢者は膝関節OAと合併していることも多く、半月板修復手術をしても痛みの原因が膝OAによるものであれば痛みは持続する ³⁾
✔無血管帯における半月板損傷は術後の予後が不良である ³⁾
✔若者で膝に不安定性がない場合は、手術後の機能的回復の成功確率は63₋91%である ³⁾
評価
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
問診
- 現在の症状
・急に膝が動かなくなる(ロッキング)や膝の完全屈曲や完全伸展が難しい
・膝関節に引っかかる感覚がある
・膝の腫れ
・内側と外側の関節面、または、膝関節の後ろ側に痛みがある - 発症のきっかけ
・スポーツをしている時に脚が地面について体重が加わった状態でひねる動作をした疑いがある
・膝の過伸展で怪我をする場合もある
・加齢による退行変性により、少しの外傷や動作で損傷することもある - 悪化要因
・動作や荷重
・膝の屈曲、伸展 - 緩解要因
・安静
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 腫れの有無
- 歩行:代償動作が起こっていないか確認する
- スクワット:過度な大腿骨内旋・内転、足部の過回内
触診
損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である。特に膝周辺は様々な要因が痛みの原因となりえるので正確な触診が大切である
- 圧痛テスト:膝関節裂隙
✔関節裂隙の圧痛:感度83%、特異度83%⁶⁾ - 骨組織:局部的圧痛があるか確認する
・膝関節面 - 筋組織:圧痛および筋スパズム、タイトネスを評価する
・ハムストリングス、大腿四頭筋、内転筋
評価すべき項目
- 形態計測
・膝関節の周径
・ストロークテスト:関節浸出液の有無を調べる
- 可動性評価
・膝関節ROM
※過伸展時に痛みや引っ掛かり感、他動屈曲時の最終域で痛みや引っ掛かり感がある
・股関節ROM
・足関節ROM
- 筋力評価
・膝関節MMT:大腿四頭筋、ハムストリングス
※ハムストリングスは脛骨の回旋コントロールに寄与する
・股関節MMT:大殿筋、中殿筋
- ファンクショナルテスト
・片脚立位テスト
・Yバランステスト
・ステップダウンテスト:股関節機能を評価 - ホップテスト:競技復帰基準に用いられる
・シングルホップテスト
・トリプルホップテスト
・6mホップテスト
・クロスオーバーホップテスト
画像所見
✔X線は半月板の損傷を発見することはできないが関節の変性との合併を確認できる⁷⁾
✔MRIによって調べられる⁷⁾
内側半月(感度93%、特異度88%)
外側半月(感度79%、特異度95%)
✔内視鏡検査がゴールドスタンダードとなる。手術への適応も内視鏡検査によって判断される⁷⁾
鑑別診断
- 腰椎スクリーニング:腰部由来の関連痛が局所に生じることはめったにない
- 膝関節疾患
介入プラン
術後のリハビリプロトコル
・術後のリハビリは各病院機関のプロトコルに従って臨床を進めていく
✔術後の固定期間、過重負荷、進行の速さなどのリハビリプロトコルは様々であり、最新のシステマティックレビューにおいても最も効果的なリハビリプロトコルは不明である。そのため、さらなる研究が必要とされている。これは損傷度合い、手術を担当する外科医の技術、損傷分類が患者によって違うため各リハビリプロトコルの優劣がつけられないとされている⁸⁾¹²⁾
✔術後リハビリのまとめ ¹⁾
・初期:自動可動域エクササイズを用いる(エルゴメーターなど)(Level B)
・段階的に徐々に荷重することを検討する、術後6₋8週間で全荷重を目指す(Level C)
・運動療法を用いて、大腿四頭筋、ハムストリングスの筋力・筋持久力の向上、バランス向上を目指す(Level B)
手術vs保存療法
・変性による半月板損傷は基本的に保存療法が優先的に行われる
✔変性による半月板損傷は関節鏡視下半月板部分切除術と偽手術を含む保存療法を比べた場合。中等度のエビデンスで3ヵ月以内で疼痛、膝機能と生活の質の向上は非常に小さく、2年以内での向上差は皆無に等しかった⁸⁾
✔数々のシステマティックレビューや欧州スポーツ外傷・膝外科・関節鏡学会議(ESSKA)による公式声明においても変性による半月板損傷では理学療法/保存療法が治療の第一選択肢であるべきとされている⁸⁾⁹⁾¹⁰⁾
変性による半月板損傷への理学療法
- 変性による半月板損傷では膝OAが同時に進行している場合もあるため、基本的には運動療法を中心に行っていく。荷重時に膝関節に余計な負担がかからない為に筋力強化、安定性の向上、アライメントの修正が必要となる
- 運動療法:可動域の向上エクササイズ、殿部、膝周辺の筋力トレーニングが身体機能改善のために推奨される
- 徒手療法:評価に基づいて異常な筋スパズムが確認できる場合はトリガーポイントなどの手技を用いて改善を目指す。メカニズムは不明だがアライメントを修正したり徒手療法後は筋出力が向上するためエクササイズを行う際に行うと効果的に鍛えることが期待できる
- 推奨されるエクササイズプログラム
✔以下のプログラムはイギリス、アメリカ、オーストラリアの理学療法士、外科医、専門家の意見を基に膝OAと半月板損傷患者に向けて作成された推奨プログラムである¹³⁾
・まだこのプログラムを使ったランダム化比較試験は行われていないが将来的にはこのプログラムを利用した研究が行われる可能性が高い
介入初期
・ストレッチ:大腿四頭筋30秒x2セット、ハムストリングス30秒2セット
・大殿筋トレーニング:ヒップエクステンション、またははブリッジ
・中殿筋トレーニング:クラムシェル、またはサイドレッグレイズ
・大腿四頭筋トレーニング:SLR、または座位においてのレッグエクステンション
・ハムストリングストレーニング:スタンディングレッグカール
・ファンクショナルトレーニング:壁を使うミニスクワット
介入中期
・ストレッチ:大腿四頭筋30秒x2セット、ハムストリングス30秒2セット
・大殿筋トレーニング:重りを使ったヒップエクステンション(約0.5kgから2.5㎏)
・中殿筋トレーニング:重りを使ったサイドレッグレイズ(約0.5kgから2.5㎏)
・大腿四頭筋トレーニング:重りを使ったSLR、または座位においてのレッグエクステンション(約0.5kgから2.5㎏)
・ハムストリングストレーニング:重りを使ったスタンディングレッグカール(約0.5kgから2.5㎏)
・ファンクショナルトレーニング:椅子を使ってスクワット
介入後期
・ストレッチ:大腿四頭筋30秒x2セット、ハムストリングス30秒2セット
・大殿筋トレーニング:重りを使ったヒップエクステンション(約2.5kgから5㎏)
・中殿筋トレーニング:重りを使ったサイドレッグレイズ(約2.5kgから5㎏)
・大腿四頭筋トレーニング:重りを使ったSLR、または座位においてのレッグエクステンション(約2.5kgから5㎏)
・ハムストリングストレーニング:重りを使ったスタンディングレッグカール(約2.5kgから5㎏)
・ファンクショナルトレーニング:片足に体重を移動させて行うスクワット(Staggered Leg Chair Squat)
※全ての筋力トレーニングは3セット8回から始め、3セット12回を目指す、1週間に4回行う。
※患者のレベルに応じてエクササイズ(例:ランジ、フルスクワット、デッドリフトなど)を追加することも検討する。エクササイズは患者にとって少し難しいくらいがより効率的な順応に繋がる
臨床例
参考文献
- 【Guideline】Logerstedt DS, Scalzitti DA, Bennell KL, Hinman RS, Silvers-Granelli H, Ebert J, Hambly K, Carey JL, Snyder-Mackler L, Axe MJ and McDonough CM. (2018). Knee Pain and Mobility Impairments: Meniscal and Articular Cartilage Lesions Revision 2018. J Orthop Sports Phys Ther. 2018 Feb;48(2):A1-A50.
- 【Clinical Trial】Bhattacharyya T, The Clinical Importance of Meniscal Tears Demonstrated by Magnetic Resonance Imaging in Osteoathritis of the Knee. The Journal of Bone and Joint Surgery (American) 85:4-9 (2003)【
- Review】Eleftherios A Makris, Pasha Hadidi, Kyriacos A Athanasiou The Knee Meniscus: Structure-Function, Pathophysiology, Current Repair Techniques, and Prospects for Regeneration. Biomaterials. 2011 Oct;32(30):7411-31.
- Physical Examination of the Knee: Meniscus, Cartilage, and Patellofemoral Conditions. Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons. 2017 May;25(5):365-374.
- Meniscal injury: I. Basic science and evaluation. Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons. May-Jun 2002;10(3):168-76.
- 2015 Jun;20(3):88-97 Special tests for assessing meniscal tears within the knee: a systematic review and meta-analysis. Evidence-based Medicine.