鵞足炎 Pes Anserinus Bursitis

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

 

病態

  • 鵞足(半膜様筋、薄筋、縫工筋の腱が脛骨に付着している部位)に炎症が起こる障害
  • 発生機序
    ✔膝に繰り返して過度な外反や回旋の力が加わり、鵞足の部位を打撲することで膝の内側に痛みや腫れが生じる ⁴⁾
  • 分類
    ✔鵞足部位への障害や損傷には以下の種類がある⁶⁾
    ・オーバーユースの場合、または骨棘との摩擦により炎症が起きている場合、文献では鵞足炎(Pes Anserinus Bursitis)と呼ばれる
    ・膝関節屈曲/伸展時に半腱様筋と薄筋が脛骨顆が引っかかり膝後方内側に引っ掛かり感が出る場合はPes Anserinus Snapping Syndromeと呼ばれる。弾発膝と似ているが半月板は関連していない
    ・外傷性(鵞足の筋腱移行部損傷)。この部位の損傷は稀である。一番起こりやすい筋は縫工筋で、半腱様筋腱が損傷したり裂離する場合も稀だがアスリートレベルでは起こりうる。半腱様筋腱への損傷は予後が不良であり42%が保存療法による治療に失敗したとも報告されている。鵞足部位の腱完全断裂も稀であり膝関節脱臼に伴うことがある。MCL損傷時にも同時に損傷することがある
    ・医原性の原因:ACL再建の際に鵞足部位をグラフトに使用した場合に鵞足部位は自然修復されるがコラーゲンの質が低下していたり瘢痕組織に十分な強度がなく受傷しやすくなってしまう場合もある
    ・腫瘍性:腱鞘や滑液包周囲に好発する滑膜性腫瘍やガングリオンによって引きおこる場合もある

臨床で代表的にみられる症状
・関節面から2-3㎝下方向に位置する
・鵞足の部位に圧痛を誘発できる
・膝屈曲筋に負荷をかけながら収縮した時に痛みがある

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献で示されている有病率は以下である

  • はっきりとした有病率は現時点では明らかにされていない
  • 488人の膝内障と疑われた患者のうち2.5%が鵞足炎 ²⁾
  • 慢性の鵞足炎は関節リウマチや関節に退行変性疾患を抱えている高齢者患者に多い ⁵⁾

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献で示されているリスク要因は以下である

  • 女性の長距離ランナー ⁴⁾
  • 外反変形膝、または膝の内側部に不安定性あり ³⁾
  • 膝変形性関節症、糖尿病や肥満体型もリスク要因としてあげられているがはっきりとした関連は明らかにされていない ³⁾

予後の予測

  • 正確な予後は重症度や発症の原因によって異なる
  • 鵞足部位にかかる負担を軽減し、炎症が治まれば予後は良好である
  • 原因がはっきりとしていて軽症な場合は6-8週間で回復が見込める
    ✔通常のケースでは保存療法にて安静と経口鎮痛薬によって治療される⁶⁾
    ✔痛みが治まらない場合はコルチゾル注射や鵞足滑液包内の液体吸引が行われる⁶⁾

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

問診

  • 現在の症状
    ・明らかな原因が不明な痛みが内側の近位骨幹端にある
    ・関節面から2-3㎝下方向に位置する
    ・鵞足部位が腫れている
  • 発症のきっかけ
    ・内側の膝に衝撃を受けた覚えがある
    ・特にはっきりとしたきっかけはない
  • 悪化要因
    ・階段の昇り降り時に痛みがある 
    ・鵞足付着部に何らかの刺激があると痛みが誘発される(例:膝をぶつけたり、横向きで膝を閉じながら寝ている時)
  • 緩解要因
    ・安静
  • 既往歴
    ・膝変形性患者に良く見られる
    ・MCLを損傷したことがある

視診・動作分析

現在の症状や機能レベルの把握に役立つ

  • 過度な大腿骨内旋、内転
  • 足部の過回内
  • 外反変形膝で膝内側に不安定性がある場合もある

触診

損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である。特に膝周辺は様々な要因が痛みの原因となりえるので正確な触診が大切である

  • 鵞足付着部に圧痛がみられる
  • 筋組織:圧痛および筋スパズム、タイトネスを評価する
    ・大腿四頭筋、半腱様筋、薄筋、縫工筋

主な評価項目

  • 形態測定
    ・膝関節の周径:特に腫れが確認できる場合
  • 可動性評価
    ・膝関節ROM
    ・股関節ROM:特に股関節屈曲が低下している可能性がある
    ・足関節ROM
  • 筋力評価
    ・股関節MMT:大殿筋、中殿筋
    ・膝関節MMT:膝屈曲筋に負荷をかけながら収縮した時に痛みがある
    ・足関節MMT:後脛骨筋、腓骨筋、長母指屈筋(足の過回内に関与)

鑑別診断

患者が思ったように回復しない時や、評価で思った通りの結果が出なかった時に考慮するポイント

  • 小さな普段の生活習慣が痛みの緩和の速度を遅らせることは多い。例えば横向きで寝ることは鵞足付着部位を圧迫することにつながりやすいので、普段の生活習慣のなかで、どのような行動や姿勢が鵞足の部位に余計な負担をかけているか見つけ出す必要がある

 

介入プラン

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

鵞足炎の介入の基本的な流れは疼痛緩和→再発予防である
本疾患ページではこの流れに沿って解説していく

※鵞足炎の介入について詳しく調べたエビデンスはなく文献で言及されている専門家の意見が主であるレビュー文献に基づいて解説していく

疼痛緩和

  • 安静
    ・鵞足部位にかかる負担を取り除くことにより炎症の抑制が期待できるため痛みの誘発動作は介入初期では控えてもらう
  • 冷却療法
    ・炎症を抑制するために用いられる
  • 超音波治療
    ・炎症を抑制するために用いられる
  • テーピング
    ・キネシオテープは腫れと除痛に効果が期待できる
    ✔キネシオテープの貼り方は様々であるが研究で使われていた方法はテープが鵞足部位でクロスする方法であった
    ✔キネシオテープと非ステロイド性抗炎症薬を比べたランダム化比較試験ではキネシオテープ群で痛みと腫れのスコアが有意に減少した¹⁾
  • 運動療法
    ・ハムストリングスや内転筋の軽度のストレッチは除痛効果が期待できる
  • 患者教育
    ・鵞足部位を過度に刺激してしまう要因などが生活にある場合は解決策を提案する
     例:横向きで寝る人は膝の内側が刺激されてしまう場合があるためクッションを膝の間に挟んでもらう
    ・高齢者の場合は関節リウマチや膝OAと合併していることもあるため、運動習慣の見直しなどセルフケアの方法も指導する
  • 徒手療法
    ・エビデンスはないが半腱様筋、薄筋、縫工筋トリガーポイントは一時的な疼痛緩和効果が期待できる

再発予防

  • ランナーの場合は再発防止のために運動量の見直しや、膝への負荷を減少する走法を学ぶ必要もある

参考文献

  1. 【Clinical Trial】Kaynoosh HomayouniShima ForuziFereshte Kalhori Effects of Kinesiotaping Versus Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs and Physical Therapy for Treatment of Pes Anserinus Tendino-Bursitis: A Randomized Comparative Clinical Trial. The Physician and Sportsmedicine. 2016 Sep;44(3):252-6.
  2. 【Review】Rennie, W. J., & Saifuddin, A. (2005). Pes anserine bursitis: incidence in symptomatic knees and clinical presentation. Skeletal Radiology, 34(7), 395-398. doi:10.1007/s00256-005-0918-7
  3. 【Clinical Trial】José Alvarez-Nemegyei Risk Factors for Pes Anserinus tendinitis/bursitis Syndrome: A Case Control Study. Journal of Clinical Rheumatology. 2007 Apr;13(2):63-5. doi: 10.1097/01.rhu.0000262082.84624.37.
  4. 【Review】Matthew J HubbardBernard A HildebrandMonica M BattafaranoDaniel F Battafarano Common Soft Tissue Musculoskeletal Pain Disorders. Primary Care. 2018 Jun;45(2):289-303.
  5. 【Review】Monica D MarraMichel D CremaMargaret ChungFrank W RoemerDavid J HunterSouhil ZaimLuis DiazAli Guermazi MRI features of cystic lesions around the knee. Knee. 2008 Dec;15(6):423-38.
  6. 【Review】Brian R CurtisBrady K HuangMini N PathriaDonald L Resnick,Edward Smitaman.Pes Anserinus: Anatomy and Pathology of Native and Harvested Tendons. American Journal of Roentgenology. 2019 Nov;213(5):1107-1116.

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