膝蓋腱炎 Patella Tendinitis

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

 

病態

  • 膝蓋腱に小さい損傷を繰り返すことで引き起こされる障害
    長期間でスポーツからの離脱を要することが多い

  • 病態生理
    ✔諸説ある中で最も一般的な説は腱への過負荷である。過負荷により膝蓋腱に小さな損傷が起こる、これが繰り返されることにより、腱を構築している繊維の変性へと繋がっていき強度が低下していく。そのため、慢性の膝蓋腱炎では炎症ではなく変性が主となっている³⁾

臨床で代表的にみられる症状
・無理にジャンプをすると痛みが誘発される
・休んでいる時は痛みが減少する
・膝蓋腱が太い
・膝前面、特に膝蓋腱の部位に痛みがある

 

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ

  • ジャンプを伴うスポーツ(バスケットボールやバレーボールなど)に多い¹⁾²⁾
  • 15-30歳のアスリート、男性に多い ¹⁾
  • バスケットボール選手の有病率:32%
  • バレーボール選手の有病率:23-45%

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する

✔文献で示されているリスク要因は以下である
・体重が重い ³⁾
・BMIが高い ³⁾
・足のアーチが低い ³⁾
・大腿四頭筋の筋力低下 ³⁾
・大腿四頭筋の柔軟性低下 ³⁾
・ハムストリングスの柔軟性低下 ³⁾

予後の予測

  • 重症度や状況によって正確な予後は変わる
  • 非常に軽症なものでは8週間程度で回復が見込める
    ✔膝蓋腱炎は長期化しやすく、膝蓋腱炎を患ったアスリートの3分の1は、6ヵ月以上スポーツからの離脱を余儀なくされ、53%はスポーツから引退したという報告もある ¹⁾

 

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

問診

  • 現在の症状
    ・膝前面、特に膝蓋腱の部位に痛みがある
  • 発症のきっかけ
    ・ここ最近でランニング、ジャンプ、キックなどの運動量が過度に増加した
    ・ジャンプを伴うスポーツをしていることが多い
  • 悪化要因
    ・無理にジャンプをすると痛みが誘発される
    ・階段を昇るときに痛みが誘発される
    ・大腿四頭筋への負荷が増えるほど痛くなる
  • 緩解要因
    ・休んでいる時は痛みが減少する

視診・動作分析

現在の症状や機能レベルの把握に役立つ

  • 膝蓋腱に肥厚が見られる
  • スクワット
    ・膝がつま先よりも前に出やすい(大腿四頭筋優位の使い方)
    ・大腿骨内旋、内転、足部の過回内がみられる
    ・深くしゃがむほど痛みが増す
    ・下り斜面でスクワットをすると膝蓋腱への負荷がさらに増す
  • 片脚ジャンプ着地
    ・下肢のアラインメントに左右差がないか確認する
    ✔バレーボールではスパイクジャンプ着地時の膝屈曲角度が通常より大きい ⁶⁾

触診・圧痛

損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である。特に膝周辺は様々な要因が痛みの原因となりえるので正確な触診が大切である

  • 骨組織:アライメントおよび副運動を評価する
    ・膝蓋骨(位置と可動性)、脛骨大腿関節(脛骨の前後)
  • 筋組織:圧痛および筋スパズム、タイトネスを評価する
    ・大腿四頭筋、ハムストリングス、腓腹筋
    ※膝蓋腱(特に下部)の圧痛を確認する

主な評価項目

  • 形態計測
    舟状骨ドロップテスト

  • 可動性評価
    ・膝関節ROM:屈曲、伸展
    ・足関節ROM:背屈(膝屈曲位、伸展位)、底屈
    トーマステスト変法:大腿四頭筋の硬さを確認
    ハムストリングス伸長テスト:背臥位、股関節屈曲90°から膝関節を伸展させる

  • 筋力評価
    ・膝関節MMT:大腿四頭筋(負荷をかけながら膝伸展を行うと痛みが誘発される)、ハムストリングス
    ・股関節MMT:大殿筋、中殿筋
    ・足関節MMT:腓腹筋

 

鑑別診断

  • 腰椎スクリーニング
  • 股関節スクリーニング
  • 足関節スクリーニング 
  • 膝蓋大腿関節障害クラークテスト ※放散性疼痛が主であり、歩きやサイクリングなど膝蓋腱への対する負荷が小さいもので痛みが発生する
  • 膝蓋下脂肪体の炎症:
    ✔Hoffaテスト(膝伸展位で脂肪体の圧痛が大きければ陽性)¹⁾。膝蓋下極付近での放散性疼痛が主な特徴となり、体操選手に多い

患者が思った通りに回復しないときや評価で思った通りの結果にならなかった時に確認するポイント

・滅多にないが膝蓋骨の滑膜ひだも痛みの原因になりえるその場合は歩くことが主な悪化要因となる。MRIが診断に非常に役に立つ
・膝蓋腱は血流が少ない部分が多いので炎症は起こりにくい、そのため、関節に水が溜まっているなどの症状が見られた場合は関節内の組織の関与を考える

 

介入プラン

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

膝蓋腱炎の基本的な介入は運動療法が中心となり疼痛緩和→再発予防となる
本疾患ページではこの流れにそって解説していく

疼痛緩和

  • 運動療法
    ・膝蓋腱炎の分野では一番研究が盛んにおこなわれている
    ・安静時痛がなければ介入初期から始めていき腱の強度を向上するために行う
    ・等尺性運動から始め徐々に負荷が強い遠心性収縮トレーニングへと進行する
    ✔ランダム化比較試験のみを対象にしたシステマティックレビューでは短期の疼痛緩和と機能改善が報告されている⁷⁾
    ✔介入初期は等尺性運動が等張性収縮運動よりも痛みの緩和に優れていた。疼痛緩和効果は等尺性運動後45分続いた。等尺性運動は1RMの70₋80%の強度で45秒を5セット行った⁷⁾
    ✔️傾斜台を用いた片脚スクワットエクササイズなど様々なトレーニングプログラムが作られてきたが、どのプログラムが最も効果があるのかは現時点では明らかにされていない⁵⁾

    ✔️遠心性収縮トレーニングで膝の機能、痛みが大きく改善する確率は50-70%と報告されている²⁾
    ✔️痛みや膝機能への結果は変わらないものの、高負荷スロートレーニングは、傾斜台を用いた遠心性収縮トレーニングよりも患者の満足度が高いと報告されている(高負荷スロートレーニング群の70%が満足と答えた一方、遠心性収縮トレーニング群は22%のみ満足と答えた)⁷⁾
    ✔スポーツ理学療法と整形外科医学誌(JOSPT)によるレビューでは4つのステージに分けてリハビリを進行していくことが推奨されている⁸⁾
    1.等尺性運動:大腿四頭筋への等尺性運動を行う(ニーエクステンションマシンを使用)
    2.等張性収縮運動:ニーエクステンションマシン、レッグプレス、バーベルランジなど
    3.腱への弾性エネルギーエクササイズ:ジャンプ動作、加速と減速を含むランニングドリル、急激な方向転換を伴うランニングドリル
    4.スポーツ復帰トレーニング:各スポーツに特化した動作やトレーニングを行う。例:バレーボールであったらスパイク練習
    ※各エクササイズは3₋4セットを15RMから始め6RMへと進行する。等尺性運動は毎日行い、等調整収縮運動は2日に1回行う。次のステージへと進行する際への基準はないが、患者の状態や痛みの程度を確認しながら進行していく

  • テーピング
    ・膝蓋腱にかかる負担を減らす効果が期待できるために検討する。特にスポーツ活動中には有用である可能性が高い
    ・使用する際はテーピングによって肌が荒れることがあったか確認する
    ✔文献の報告では効果にばらつきがあり、完全な合意に至っていない²⁾
    ✔ランダム化比較試験のみを対象にしたシステマティックレビューではスポーツ活動中とスポーツ活動直後の疼痛軽減効果が報告されている⁷⁾
  • 安静
    ・痛みが強い場合は膝蓋腱へかかる負担を減らすことが最優先課題となる
    ・基本的には完全な安静ではなくストレッチや等尺性運動などを行いながら痛みの軽減を目指す
    ✔完全な安静は筋肉や腱の萎縮につながるため、無理な運動をしない程度で休むことが推奨される²⁾
  • 冷却療法
    ・特に運動後に除痛を目的とし使用を検討する。運動前の使用は推奨しない
    ✔スポーツ前の冷却療法は運動機能の低下、また、鎮痛作用から無理な運動を助長し怪我の再発につながることがあるので使用は控えた方がよい²⁾
  • 徒手療法
    ・膝蓋腱へ直接器具を用いてアプローチする方法や大腿四頭筋の筋膜リリース、トリガーポイントなど方法は様々である。どちらも痛みの閾値を上げる作用が期待される
    ✔動物を対象にした研究では横断マッサージが回復を助長する線維芽細胞の活動が活発化すると報告されているが、人間を対象にして同じ結果になるかは不明である。そのため、患者の評価によって決断する²⁾
  • 患者教育
    ・介入初期は痛みが悪化する動作はできるだけ避けてもらう
    ・ジャンプを伴うスポーツをしている人に起こりやすい怪我のため、試合や選手キャリアに伴う患者の意向をしっかりと聞き出し、現実的な予後予測や介入の選択肢に伴うメリットとリスクを教え納得いく決断ができるようサポートする
    ✔場合によっては膝にかかる負担を減らすために減量や体重管理の指導も検討する³⁾

再発予防

  • 再発予防は引き続き腱の強度を維持するために運動療法を続ける
    ✔大腿四頭筋やハムストリングスの柔軟性向上、足底版の使用も効果的かもしれない ³⁾
  • 詳しく調べたエビデンスはないが理論的に怪我を起こさせない環境を作ることをサポートする。例:栄養管理、体重管理、睡眠の質、疲労回復、トレーニング量の調整など

 

参考文献

  1. 【Review】Malliaras P, Cook J, Purdam C, and Rio E. Patellar Tendinopathy: Clinical Diagnosis, Load Management, and Advice for Challenging Case Presentations. J Orthop Sports Phys Ther. 2015 Nov;45(11):887-98.
  2. 【Review】Schwartz A, Watson JN, and Hutchinson MR. (2015).Patellar Tendinopathy. Sports Health. 2015 Sep-Oct;7(5):415-20.
  3. 【SR】van der Worp H, van Ark M, Roerink S, Pepping GJ, van den Akker-Scheek I, and Zwerver J. Risk factors for patellar tendinopathy: a systematic review of the literature. Br J Sports Med. 2011 Apr;45(5):446-52. 
  4. 【Review】Dan, M., Parr, W., Broe, D., Cross, M., & Walsh, W. R. (2018). Biomechanics of the knee extensor mechanism and its relationship to patella tendinopathy: A review. Journal of Orthopaedic Research®.
  5. 【SR】Saithna, A. (2012). Eccentric Exercise Protocols for Patella Tendinopathy: Should we Really be Withdrawing Athletes from Sport? A Systematic Review. The Open Orthopaedics Journal, 6(1), 553–557.
  6. 【Clinical Trial】Richards, D. P., Ajemian, S. V., Wiley, J. P., & Zernicke, R. F. (1996). Knee Joint Dynamics Predict Patellar Tendinitis in Elite Volleyball Players. The American Journal of Sports Medicine, 24(5), 676 -683.
  7. 【SR】Trevor Vander Doelen,Wilma Jelley. Non-surgical treatment of patellar tendinopathy: A systematic review of randomized controlled trials. Journal of Science and Medicine in Sports.2020 Feb;23(2):118-124.
  8. 【Review】Peter MalliarasJill CookCraig Purdam,Ebonie Rio. Patellar Tendinopathy: Clinical Diagnosis, Load Management, and Advice for Challenging Case Presentations. Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy. 2015 Nov;45(11):887-98.

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