変形性膝関節症 Knee Osteoarthritis

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

 

病態

  • 膝関節の軟骨がすり減り、関節が変形する疾患
    通称、膝OA (Osteoarthritis)と呼ばれる
    ✔国内のガイドラインによると高齢者が要支援になる原因は関節疾患が1位で、運動器の障害が患者の生活の質(Quality of Life:QOL)を著しく低下させていると報告されている⁹⁾

  • 病態生理
    ✔変形は様々な原因が関与している¹⁾²⁾⁹⁾
    ・加齢による劣化
    ・外傷により軟骨基質の弾力性を失われること
    ・先天的に軟骨基質に欠陥があること
    ・遺伝的因子
    ・肥満
    ・力学的負荷の蓄積

  • 痛みの発生機序
    ✔軟骨の消失が主な病態とされているが、関節軟骨には神経がないため、軟骨の消失自体は炎症や痛みを誘発しない⁸⁾
    ✔病態が進むにつれて関節周りの組織(関節包、骨膜、靭帯、軟骨下骨、筋肉)にも退行変化が表れ、荷重・衝撃負荷に対する緩衝機能が失われた結果、痛みや炎症が生じると考えられている⁸⁾
    ✔慢性的になると痛みの発生機序はさらに複雑になり、痛みを感じやすくなる感作や、生物・心理・社会的要因の全てが痛みの慢性化や増加に関与していると考えられている¹⁾²⁾

臨床で代表的にみられる症状
・体重が常にかかっている状態が続くと痛みが発生する
・朝の膝の硬さが顕著だが、動かしているうちに軽くなっていく
・可動域の低下(膝屈曲の方が伸展よりも制限されやすい)
・大腿脛骨関節の副運動において可動性の低下が確認できる
・大腿脛骨関節の変形が触診で確認できる

 

分類

✔国際的にKellgren-Lawrence (K-L)分類によって分けられる ⁹⁾¹²⁾

  • Grade 1: 変形性膝関節症が疑われる状態 関節の隙間に狭小化が疑われ、わずかな骨棘や軟骨下に硬骨化が見られる場合がある
  • Grade 2: 関節の隙間にわずかな狭小化が見られる。骨棘の形成が確認できる
  • Grade 3: 関節の隙間が狭小化している状態。骨棘の形成、硬骨化がはっきりと確認できる。骨の変形が見え始める
  • Grade 4: 関節の隙間の狭小化がかなり進行した状態。大きな骨棘が形成されて、骨の変形が確認できる

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ

  • 60歳以上の男性の10%、女性の18%³⁾
  • 国内40歳以上を対象とした報告では⁹⁾
    X線により診断される患者数2530万人(男性860万人、女性1670万人)
    そのうち有症状者は800万人

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する

✔文献で示されているリスク要因は以下である
 ・加齢³⁾
 ・女性³⁾
 ・肥満、高いBMI³⁾⁹⁾
 ・重労働(重いものを持ち上げる、スクワット、膝立ちなど)を伴う職種 ⁷⁾⁹⁾
 ・既往歴(ACLや半月板の損傷または再建術)⁹⁾
 ・大腿四頭筋の筋力低下⁹⁾
 ・膝内反変形⁹⁾

予後の予測

  • 詳しい予後は重症度や状況によって異なるが、長期間での経過観察が必要。完全な治癒は難しいため出来る範囲での生活の質の改善、患者の意向などを考慮する
    ✔すり減った軟骨が元の状態に戻るといった組織的回復は難しい。そのため、できるだけの生活の質の改善、機能的回復を目指していく⁸⁾
    ✔膝OAを発症してから数年経過した後でも、30%の人が膝痛が軽減したという報告もある¹⁾
    ✔無職者、高血圧、心血管疾患、高いBMIは痛みが悪化する予測因子となる¹⁾

 

評価

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

問診

  • 現在の症状
    ・体重が膝にかかっている状態が続くと痛みが生じる
    ・膝周辺の放散性の疼痛
  • 発症のきっかけ
    ・明らかなきっかけはなく、だんだんと膝の痛みや硬さがでてきた
  • 悪化要因
    ・活動後に膝がズキズキと痛む
    ・朝の膝のこわばり
     30分ほど動かしているうちに軽くなる
    ・ひとつの姿勢を長期間保った後に膝がこわばる
    ・気温の低下に敏感な場合もある
  • 緩解要因
    ・安静
  • 既往歴
    ・過去に膝に外傷を受けたことがある
    ・ACL損傷や半月板損傷など
    ・年齢:45歳以上である

視診・動作分析

現在の症状や機能レベルの把握に役立つ

  • 膝の腫れや骨の拡大がみられる
  • 立位
    ・O脚やX脚がみられる
    ・O脚では膝内側に、X脚では膝外側に負担がかかりやすい
  • 歩行分析
    ・跛行がみられる
    ・接地時のダブルニーアクションがない
  • スクワット
    ・膝がつま先より前にでる(大腿四頭筋優位の使い方)

触診

損傷部位を特定するために圧痛を調べることは重要である。

  • 骨組織:アライメントおよび副運動を評価する
    ・大腿脛骨関節(脛骨の前後の動き)
    ※膝関節裂隙や側副靭帯の圧痛を確認する
    ※轢音が触知できる
  • 筋組織:圧痛および筋スパズム、タイトネスを評価する
    ・大腿四頭筋、ハムストリング、腓腹筋
    ・ハムストリングスと腓腹筋に収縮がみられる(特に痛みのせいで活動的でない場合)
  • 軟部組織:圧痛、滑走性および肥厚を評価する
    ・腸脛靭帯(O脚の場合は硬さが、X脚の場合は短縮がみられる)

主な評価項目

  • 形態計測
    ・膝関節の周径:特に腫れがある場合
    ストロークテスト:関節浸出液の有無を調べる
  • 可動性評価
    ・膝関節ROM:屈曲・伸展
     ※可動域制限がみられる(特に屈曲)
     ※最終可動域で痛みがみられる
  • 筋力評価
    ・股関節MMT:大殿筋、中殿筋(大殿筋と中殿筋の筋力低下がある)
    ・膝関節MMT:屈曲、伸展(大腿四頭筋の筋力低下がある)

鑑別診断

評価をする時に他に考慮するポイント

✔膝OA患者は、2型糖尿病、循環器系疾患やうつなども持っていることが多いため、それらの影響も考慮する¹⁾

 

介入プラン

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
原則として理学療法による介入は身体機能的改善、そして、生活の質を改善することが主な目的となる。そのため、問診で患者のゴールやニーズを聞き出すことが重要である

  • 運動療法
    ・運動療法は現時点で最も推奨レベルが高く積極的に取り入れていくべきである。特に膝関節の安定性を高める大腿四頭筋の筋力トレーニングを行う。患者の活動レベルによるが最初はエクササイズバンドを使ったシンプルなエクササイズから徐々にスクワットやランジなどのコンパウンドエクササイズへと進行する
    ・評価において転倒リスクが高いとされる場合は、バランストレーニングや太極拳が推奨される
    ・運動療法による改善は運動を続けなければ維持ができないため、患者に長期においてのリハビリの重要性を説明する
    ・現時点では特定の運動プログラムが他よりも優れているという報告はない。患者の評価、意向、好みにあわせて柔軟にエクササイズプログラムを作る
    ・ストレッチも関節拘縮予防の効果が期待できるため他の運動療法と共に行う
    ✔膝関節周辺の筋力向上は膝関節の安定性を高め、症状の改善が期待できる⁵⁾
    ✔バランストレーニング、太極拳やヨガ、有酸素運動も強く推奨されている⁵⁾⁶⁾
    ✔立位での運動が強く推奨される¹⁴⁾
    ✔質の高いエビデンスで運動療法は膝OA患者の疼痛レベルを下げ、生活の質を少し改善した(Level 1A)⁵⁾
    ✔様々な運動プログラム期間、エクササイズの種類(コンセントリック運動やエキセントリック運動)、運動強度、負荷の種類(ウェイト、レジスタンスバンド、マシンエクササイズ)が研究されているが、どのようなエクササイズプログラムであろうとコントロール群に比べて疼痛緩和、機能改善、生活の質向上に繋がっている¹⁵⁾
  • 患者教育
    膝関節OA患者は普段から身体を動かさない生活スタイルを持っていることが多いため改善するためには生活習慣を見直さなければならない
    ・病態の説明、リスク要因、運動習慣のメリット、また運動習慣をつけなかった時のデメリットを説明し、患者が自己認識して自己理解する手助けをする
    ✔BMI25以上の患者には体重管理が強く推奨される。5%の体重減少を目標とする⁴⁾¹⁴⁾ 
    ※理学療法士がダイエット指導をすることは少ないため、適切な機関に紹介することも検討する
    ✔走ることやジャンプを避け、自転車や水泳が最も適切な運動方法である。また、体重管理のために食生活を見直す手助けや適切な医療従事者に紹介することも推奨される(Level 1B)
  • 徒手療法
    ・徒手療法は痛みの閾値の低下やリラクセーションによる可動域向上や疼痛緩和を目的に行う
    ・研究でも徒手療法の方法は統一されていないため評価に基づいて異常な筋スパズムや柔軟性が触知できない軟部組織をターゲットにしていく。介入後に効果を再評価することが重要となる
    ✔徒手療法はいくつかの報告で疼痛、可動域、活動パフォーマンス、移動能力で有意な改善を示した。徒手療法はスウェーデンマッサージや筋膜モビライゼーションが含まれていた(Level 2)⁹⁾
    ✔システマティックレビューによると徒手療法は疼痛、可動域、身体的機能の向上に効果が期待できるかもしれないとして、現時点で質の高いランダム化比較試験によるエビデンスは不十分とした(平均Pedro Scaleスコア 6.6)¹⁰⁾
  • 装具療法
    ・装具はアライメントを修正する効果により膝関節への負担を減らすことが期待されるが、その効果は個人差が大きいため患者の反応などを見て選択する
    ✔質の高いエビデンスではないが装具は膝関節への負担を減らすため、疼痛緩和と機能改善の効果が望める。特に、徒手により膝関節アライメントが直せる場合に装具は効果的な可能性が高い⁴⁾⁵⁾
    ✔文献で言及されている装具は以下である

    Segal (2012). 図1より引用¹⁶⁾
  • その他の保存療法
    ✔以下の介入を行うことも選択肢ではあるが、効果を認められない場合は止めることが推奨される¹⁴⁾
    ・水中運動療法(特に痛みが酷く地上での運動療法が行えないとしたときに有用な選択肢となる)
    ・温熱療法:ホットパッドなど
    ・認知行動療法:心理的症状に対して実施する
    ・電気療法:TENS
    ・薬物療法:NSAIDsの投与(Level 1A)(エビデンスレベルは高いが理学療法の領域ではないため詳しくは元の文献を参照)⁵⁾

臨床例

参考文献

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  3. 【Review】Nelson AE (2017). Osteoarthritis year in review 2017: clinical. Osteoarthritis Cartilage. 2018 Mar;26(3):319-32
  4. 【Review】Skou ST, and Roos EM (2019). Physical therapy for patients with knee and hip osteoarthritis: supervised, active treatment is current best practice. Clin Exp Rheumatol. 2019 Sep-Oct;37 Suppl 120(5):112-117
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