本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
Lam et al.(2019)図2より引用⁶⁾
病態
- 成長期のスポーツ選手において、ダッシュやジャンプなどによって生じるスポーツ障害。脛骨粗面の骨端症または骨軟化症
- 病態生理
✔膝蓋腱が付着する脛骨粗面は11歳までは軟骨であり、女子で10−12歳、男子で12−14歳の間に骨化する。この骨成熟の期間中に、繰り返し脛骨粗面に牽引ストレスがかかることでオスグッド病は発症する¹⁾
臨床で代表的にみられる症状
・膝の前面痛
・脛骨粗面〜膝蓋腱の圧痛
・スクワット、ジャンプ、階段昇降によって脛骨粗面の痛みが悪化する
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
- バスケットボール、バレーボール、短距離走、体操、サッカーでよくみられる¹⁾
- アスリートの有病率は21%、非アスリートでは4.5% ³⁾
- 12−15歳の有病率 男子11.4%、女子8.3%
そのうち20−30%が両側性¹⁾ - 子どもにおける脛骨粗面骨折の有病率:1%⁵⁾
- 成長期の子どもにおいて10人に1人はかかると推測されている⁴⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
- 男子¹⁾
- 年齢 男子12−15歳、女子8−12歳¹⁾
- 急激な骨格の成長¹⁾
- ジャンプやダッシュを繰り返している¹⁾
予後の予測
- 一般的に安静にしていれば予後は良好であるとされているが、研究で疾患の治癒がしっかり定義されていないことや長期間において患者を追った研究が少ないため実際には完治していない患者も一定数いると考えられる。そのため、放置して自然治癒するのを待つだけではなく定期的に評価し、合併症の有無などを随時確認することが大切である
✔90%は自然治癒するとされる⁸⁾
✔予後は良好であり、時間経過とともに回復する。しかし、回復までに数ヶ月かかる¹⁾
✔骨端が癒合する12−18ヶ月間の間は再発リスクあり²⁾
✔患者の10%は、成人になってからも症状が継続する¹⁾²⁾
✔オスグッドと診断された患者43名の中、4年後において43人中60.5%が症状を訴えていた⁷⁾
評価
問診
- 現在の症状
・脛骨粗面のまわりに鈍痛あり - 発症のきっかけ
・徐々に始まる
・膝の外傷によっても生じることがある - 悪化要因
・ランニング
・ジャンプ動作
・膝立ちや正座 - 緩解要因
・安静
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 患部の腫れや、膝蓋腱の肥厚がみられる
しかし、関節水腫はみられない - 歩行分析
・疼痛性跛行
触診
発症部位を特定するために圧痛を調べることが重要である
- 骨組織
・脛骨粗面
※圧痛と肥厚がみられる - 筋組織:圧痛および異常な筋スパズム、タイトネスを評価する
・大腿四頭筋および膝蓋腱、ハムストリングス
主な評価項目
- 可動性評価
・膝関節ROM:屈曲、伸展
※通常、関節の可動域制限や不安定性はみられない
・トーマステスト変法:大腿四頭筋の硬さを確認
・ハムストリングス伸張性テスト:背臥位、股関節屈曲90°から膝関節を伸展させる
- 筋力評価
・膝関節MMT:大腿四頭筋、ハムストリングス
✔️急性期は膝関節伸展ラグがみられることもある²⁾
・股関節MMT:大殿筋、中殿筋 - ファンクショナルテスト
・ステップダウンテスト
鑑別診断
- 腰椎スクリーニング
- 股関節スクリーニング
- 足関節スクリーニング
- 膝蓋大腿関節障害
・クラークテスト ※放散性疼痛が主であり、歩きやサイクリングなど膝蓋腱への対する負荷が小さいもので痛みが発生する - 膝蓋下脂肪体の炎症
・Hoffaテスト(膝伸展位で脂肪体の圧痛が大きければ陽性)¹⁾
・膝蓋下極付近での放散性疼痛が主な特徴となり、体操選手に多い - 骨腫瘍や骨折
介入プラン
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
オスグッド病の基本的な介入の流れは:疼痛緩和→再発予防となる
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
✔保存療法のプロトコルなどは研究されておらず、今のところ十分なエビデンスは報告されていないため下記のエビデンスは専門家の意見がベースとなる
疼痛緩和
- 安静
・初期は安静が推奨される。特に腫れや痛みが強い場合はスポーツ活動の制限ではなく安静を優先する
✔安静は推奨されるが、安静により回復が早まった報告はない¹⁾²⁾ - 活動量の制限
・脛骨粗面に負担が少ない水泳やサイクリングマシンなどで体力を維持することを検討する。痛みの基準はVAS2-3/10とする
✔スポーツ活動を止めるよりも、痛みの程度を基準にして運動量を制限することが推奨される。負荷量を上げる際は1週間に10%以内の範囲にとどめる(Grade C)¹⁾ - ストレッチ
・大体四頭筋ストレッチは、膝蓋腱が脛骨粗面を牽引する力を軽減する効果が期待できるため、実施を検討する
・骨の成長に筋の成長が追い付かないことを避けるため、ストレッチにより筋の伸長を促すことが重要である
✔下腿三頭筋、ハムストリングス、大腿四頭筋のストレッチは回復を早めるかもしれない(Grade C)¹⁾²⁾⁸⁾ - 運動療法
・体幹トレーニングや殿筋トレーニングは膝関節安定性の向上、大腿四頭筋の過剰な筋活動や大腿四頭筋の優位性を妨げる効果が期待できるため実施検討する
✔体幹トレーニングや横臥位での殿筋トレーニングやクラムシェルが推奨される⁸⁾ - 徒手療法
・エビデンスはないが評価に基づいて膝関節周囲の異常な筋スパズムに対してトリガーポイントやマッサージによる介入は疼痛緩和の効果が期待されるため他の介入方法と併せて実施を検討する - テーピング
・エビデンスはなく、その効果はプラセボ効果による可能性が大きいが膝蓋腱へのテーピングは疼痛を緩和する可能性があるため他の介入方法と併せて実施を検討する - 物理療法
・エビデンスはないが冷却療法は一時的に疼痛を緩和できるため実施を検討する - 患者教育
・安静が難しい場合は基本的に患者の意向を尊重するが、将来的なリスクをしっかりと説明する
再発予防
- 再発予防について詳しく述べた文献は非常に少ない。しかし、理論的にオスグッドは過度な負荷から発症すると考えられているため骨の成長が落ち着くまでは定期的に経過を評価しトレーニング量の調整、合併症や他の軟部組織障害の評価、継続してストレッチや運動療法を行うことが再発予防に繋がると想定される
- 筋バランスを偏らせないために成長期の段階は特定のスポーツに特化しすぎない³⁾
参考文献
- 【Review】James M. Smith, Matthew Varacallo. Osgood Schlatter Disease (Tibial Tubercle Apophysitis)In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2020 Jan. 2020 Jul 29
- 【Review】Circi, E., Atalay, Y., & Beyzadeoglu, T. (2017). Treatment of Osgood–Schlatter disease: review of the literature. MUSCULOSKELETAL SURGERY, 101(3), 195–20
- 【Review】Suraj Achar , Jarrod Yamanaka. Apophysitis and Osteochondrosis: Common Causes of Pain in Growing Bones. Review Am Fam Physician. 2019 May 15;99(10):610-618.
- 【Systematic Review】Cairns, G., Owen, T., Kluzek, S., Thurley, N., Holden, S., Rathleff, M. S., & Dean, B. J. F. (2018). Therapeutic interventions in children and adolescents with patellar tendon related pain: a systematic review. BMJ Open Sport & Exercise Medicine, 4(1), e000383.
- 【Systematic Review】Pretell-Mazzini, J., Kelly, D. M., Sawyer, J. R., Esteban, E. M. A., Spence, D. D., Warner, W. C., & Beaty, J. H. (2016). Outcomes and Complications of Tibial Tubercle Fractures in Pediatric Patients. Journal of Pediatric Orthopaedics, 36(5), 440–446.