高位足関節捻挫 High Ankle Sprain

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

病態

  • 足関節をひねり、脛腓靭帯結合部位を損傷する傷害
    ✔受傷部位は、前遠位脛腓靭帯、後遠位脛腓靭帯、横脛腓靭帯、骨間膜などがある ⁵⁾
    ✔脛腓靭帯結合部位のみが受傷する症例は極めて少なく、三角靭帯前部の損傷や腓骨骨折などと合併する場合が多い ²⁾⁵⁾
    ✔脛腓靭帯結合部位の離開は骨折と合併していることが多い ¹⁾

  • 受傷機転
    ✔ハイスピードでの接触、不整地、急な方向転換によって、足関節が過度に背屈した状態で外旋の力が働くと受傷する ²⁾
    ✔受傷機転の例:Dubin et al. (2013) 図10より引用 ¹⁾

臨床で代表的にみられる症状
✔腫れは足関節外側捻挫よりも少ないことが多い ²⁾
・受傷後数日は結合靭帯の部位にあざや皮膚の変色が見られる場合がある
✔前脛腓靭帯、後脛腓靭帯に圧痛あり ⁴⁾⁶⁾
スクイーズテスト下腿外旋テストで痛みが誘発される ⁴⁾⁶⁾

分類 

✔以下の分類に分けられる ⁹⁾

  • Grade 1
    ・軽度の症状、遠位脛腓関節に不安定性がない、画像所見で異常なし、足関節外側靭帯が完全断裂していない
  • Grade 2
    ・部分的な脛腓靭帯結合部位の離開、画像所見で異常なし、下腿外旋テスト、下腿スクイーズテストの陽性
    ・遠位脛腓関節の安定性については完全な合意に至っていない
  • Grade 3
    ・脛腓靭帯結合部位の完全なる損傷(前遠位脛腓靭帯、後遠位脛腓靭帯、横脛腓靭帯、骨間膜、三角靭帯全てに損傷がある)、全てのスペシャルテストで陽性、画像所見で脛腓靭帯結合部位の離開が確認できる

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ

  • 足関節捻挫のうち高位足関節捻挫は12%未満 ¹⁾
  • アメリカンフットボール、ラグビー、サッカー、バスケットボール、スキー、アイスホッケーなどに多い ¹⁾⁴⁾
  • アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツでは、足関節捻挫のうち高位足関節捻挫は25%であった ¹⁾

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する

  • コンタクトスポーツ(特にアメリカンフットボール、アイスホッケー)⁴⁾
  • その他、足関節外側捻挫と同様 ⁶⁾

予後の予測

  • 足関節外側捻挫に比べ、高位足関節捻挫はスポーツ復帰までに時間を要する。回復期間もそれだけ長くなる
    ✔部分的な脛腓靭帯結合部位損傷の場合、回復までの平均期間は55日でGrade 3の足関節捻挫よりも回復期間が2倍であった ⁸⁾
    ✔アメリカのプロアイスホッケーチームを対象にした医療記録の報告によると高位足関節捻挫はスポーツ復帰まで平均45日を要した(足関節外側捻挫の場合の平均は1.4日) ⁷⁾
    ✔多くのケースで回復期間は足関節捻挫の3倍かかるとされている ⁹⁾
  • 文献や専門家の意見による手術の適応基準は以下である 
    ✔骨折や脱臼を伴う結合部位の損傷 ⁹⁾ 
    ✔Grade 3の損傷。Grade 3を保存療法で治療した群と比べて手術療法群ではスポーツ復帰が平均3週間早かった ¹⁾⁹⁾
  • 靭帯の再構築は痛みが治まった後も続くため、痛みの有無で回復の期間を予測しないことが大切

 

評価

問診

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

  • 現在の症状
    ・足部の痛み(前距腓靭帯よりも上の部位)
    ・荷重時痛がある
    ・腫れは足関節外側捻挫よりも少ないことが多い
    ・受傷数日後には患部にあざや皮膚の変色が見られる場合がある
  • 発症のきっかけ
    ・最近または過去に足関節をひねり、腫れや足関節周辺や脛腓靭帯結合部位に痛みがある
    ・受傷時の轢音の有無
  • 悪化要因
    ・荷重
  • 緩解要因
    ・安静

視診・動作分析

現在の症状や機能レベルの把握に役立つ

  • 歩行分析
    ・足関節の背屈不十分
    ・歩行時に踵挙上が早期に見られる
    ・疼痛性歩行:体重をかけないようつま先で歩く
  • スクワット:脛骨の前傾角度が減少し、足関節前面にしわが見られない

触診

発症部位を特定するために圧痛を調べることが重要である

  • 軟部組織
    ・前脛腓靭帯、後脛腓靭帯、三角靭帯
    ※圧痛の有無を確認する
  • 骨組織:副運動の異常などを評価する
    ・距骨(前後)、踵骨(回内外)、遠位脛腓関節(前後、上下)、立方骨(上下)
  • 筋組織:異常な筋スパズムを評価する
    ・前脛骨筋、長母趾伸筋、長趾伸筋、腓骨筋

主な評価項目

  • 可動性評価
    ・足関節ROM:背屈 (膝屈曲位、伸展位)、底屈、内反・外反
    ※急性期には無理に動かさないように要注意
  • 筋力評価
    ・股関節MMT:中殿筋、大殿筋
    ・足関節MMT:腓骨筋、前脛骨筋

鑑別診断

介入例

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

高位足関節捻挫の基本的な介入の流れは急性期→亜急性期→回復期→スポーツ復帰に分けられる
✔Grade 1と2の場合は保存療法が推奨されている ¹⁾
✔Grade 3や保存療法で回復しなかったGrade 2は手術による治療が選択されるされることが多い ⁴⁾
本疾患ページではこの流れにそって解説していく

注:エビデンスに基づいた介入プロトコルは見当たらなかった。そのため下記のエビデンスは症例報告や専門家の意見、米国の整形外科ガイドラインを作成しているJournal of Orthopaedic Sports & Physical Therapy の文献を参考にしている

急性期:受傷後約24₋72時間

  • 受傷直後は適切な応急処置を行う:RICEプロトコルを参照
  • 患部の保護
    受傷部位の保護は装具やサポーターを使用する。テーピングも検討する(脛骨と腓骨を結合させるテーピングやスターアップなど)
    ・原則として過度な足関節の外反と背屈は損傷部位への負担を増加するため避ける
    ・歩行が困難な場合は松葉杖を使用する
    ✔脛腓靭帯結合離開がCTやMRIで6㎜未満の場合は1₋4日間非荷重で装具固定する。6㎜以上の場合は手術療法が選択される¹⁾
    ✔松葉杖を使って歩行する(靭帯の損傷がひどい場合、数日~2週間ほど松葉杖などを使用する)¹⁾
    ✔装具はテーピングに比べ安定性に長けている ¹⁰⁾
    ✔背屈を制限するために踵を挙上するヒールリフトが検討される場合もある ¹⁾
    ✔テーピングは前額面での動きや外旋を制動するものが推奨される ¹⁾¹⁰⁾
    ✔テーピングの例

    Williams & Allen(2010)図2より引用 ¹⁰⁾
  • 急性炎症への処置
    ・腫れを抑制するためには非荷重での下腿三頭筋収縮や圧迫を施す
    ✔下腿三頭筋の筋収縮の目安は1時間に20₋30回 ⁹⁾
  • 運動療法
    可能な限り足趾の屈曲伸展運動や足関節の可動域運動を始める

亜急性期:約3-14日

  • 亜急性期は歩行補助器具を使用せずに歩行が可能になってからの期間を指す
  • 徒手療法
    ・エビデンスはないが評価に基づいて異常な筋スパズムが確認できる場合はリラクセーションやトリガーポイントを用いる
    ・可動域が低下しないように、痛みが悪化しない限りは距腿関節や距骨下関節のモビライゼーションを行う
    ✔徒手療法においては器具(Graston handheld tool)を用いてMCL靭帯を横断的にマッサージすると回復が早まる報告が散見されている ¹⁾
    ✔距腿関節と距骨下関節モビライゼーションは可動域低下の予防に有用である ¹⁾
  • 運動療法
    ・筋力低下を予防するため運動療法はできるだけ早期から始める。最初は等尺性運動から始め、徐々にエクササイズバンドを使った求心性運動に進行する。しかし、背屈や外反方向には注意する
    ・松葉杖の使用を制限し、痛みが消失すると共に部分荷重にてのトレーニングを始める。例:座位カーフレイズなど
    ・両足立位を保持できるようになればバランストレーニングもリハビリに取り入れる
    ✔足関節周辺の筋力低下を防ぐため前脛骨筋、下腿三頭筋、腓骨筋にエクササイズバンドを用いた筋力トレーニングを行う ¹⁾²⁾
    ✔痛み無しで両足立位で荷重できれば両足立位カーフレイズへと進行する ¹⁾
    ✔踵用インソールは痛みによって引き続き着用することを検討する ¹⁾
    ✔両足でのバランストレーニングもこの時期から検討する。例:両足立位で閉眼する→クッションの上で立位保持 ¹⁾⁴⁾
    ✔この時期から徐々に松葉杖の使用を減らす ¹⁾

回復期:約15₋28日

  • 回復期は痛み無しで歩行できてからの期間を指す。歩行時の痛みがなくスペシャルテストにおいて痛みが誘発されないことを基準とする 
  • 徒手療法
    ・引き続き足関節可動域や関節副運動に左右差がある場合は関節モビライゼーションなど徒手療法で正常化を目指す
  • 運動療法
    ・トレッドミルを使用した歩行練習を始め徐々に歩くスピードを速めるなど進行していく
    ・筋力トレーニングやバランストレーニングの負荷と難易度を進行していく
    ✔片足でのバランストレーニングを始める。例:閉眼での片足立位保持→バランスボートの使用 ¹⁾
    ✔筋力トレーニングは最終的に片足ヒールレイズが出来ることを目指す ¹⁾
    ✔踵用インソールの使用頻度を徐々に減らしていく¹⁾
    ✔バランストレーニングの例

    Williams & Allen(2010)図3より引用 ¹⁰⁾

スポーツ復帰:約28日以降

  • 片足ヒールレイズが痛み無しで出来るようになってからスポーツ復帰する期間を指す
  • 運動療法
    ・ジョギングから始めランニング→全力疾走と進行していく
    ・ホップやジャンプ動作も加えていく。動作の動きの質、足関節に不安定性が見られるか評価する
    ・バランストレーニングも高難度のものをとりいれていく(例:ボスボールの上で立位を保つなど)
    ・加速、減速、方向転換を含むアジリティトレーニングを始める(例:ラダートレーニングなど)
    ・スポーツ特異的トレーニングを始める
    ✔スポーツの特異的トレーニングを始めるには10回片足ホップが痛み無しで出来ることが目安となる ¹⁾
  • 患者教育
    スポーツ復帰後に痛みがなくても不安定性が見られる場合もあるため、続けてリハビリを行う事、定期的に経過を評価することの重要性を伝える
    ・不安感や不安定性が見られる場合はアンクルサポートの装着やテーピングを患者の状況に応じて検討する

臨床例

参考文献

  1. 【Review】Joshua C DubinDoug ComeauRebecca I McClellandRachel A DubinErnest Ferrel. Lateral and Syndesmotic Ankle Sprain Injuries: A Narrative Literature Review. Journal of Chiropractic Medicine. 2011. Sep;10(3):204-19.
  2. 【Guideline】Cheng-Feng LinMichael L Gross, and Paul Weinhold. Ankle Syndesmosis Injuries: Anatomy, Biomechanics, Mechanism of Injury, and Clinical Guidelines for Diagnosis and Intervention. Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy. 2006. Jun;36(6):372-84.
  3. 【Systematic Review】Amy D Sman1Claire E HillerKathryn M Refshauge. Diagnostic Accuracy of Clinical Tests for Diagnosis of Ankle Syndesmosis Injury: A Systematic Review. Br J Sports Med. 2013 Jul;47(10):620-8.
  4. 【Review】Kenneth J Hunt et al. High Ankle Sprains and Syndesmotic Injuries in Athletes. J Am Acad Orthop Surg. 2015 Nov;23(11):661-73.
  5. 【Review】Norkus, S. A., & Floyd, R. T. The Anatomy and Mechanisms of Syndesmotic Ankle Sprains. Journal of Athletic Training, 2001, 36(1), 68-73.
  6. 【Guideline】Martin RL, Davenport TE, Paulseth S, Wukich DK, Godges JJ. Ankle stability and movement coordination impairments: ankle ligament sprains.J Orthop Sports Phys Ther.2013;43(9):A1-40.
  7. 【Clinical Trial】Rick W WrightRaymond J BarileDavid A SurprenantMatthew J Matava Ankle syndesmosis sprains in national hockey league players. American Journal of Sports Medicine. 2004 Dec;32(8):1941-5.
  8. 【Clinical Trial】W J HopkinsonP St PierreJ B RyanJ H Wheeler Syndesmosis sprains of the ankle. Foot Ankle. 1990 Jun;10(6):325-30.
  9. 【Review】Kenneth J Hunt. Syndesmosis injuries. Current Reviews in Musculoskeletal Medicine. 2013 Dec;6(4):304-12.
  10. 【Review】Glenn N WilliamsEric J Allen. Rehabilitation of syndesmotic (high) ankle sprains. Sports Health.2010 Nov;2(6):460-70.

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