本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
Figure 1 より引用¹⁰⁾
病態
- 足関節の内側にある足根管が何らかの原因で狭くなり、そこを通る後脛骨神経が圧迫されることで生じる神経障害
- 圧迫の原因は様々である
✔外傷的要因:踵骨の骨折や足関節捻挫 ⁸⁾
✔解剖学的要因:踵骨癒合、後足部回内、腫瘍、静脈瘤、屈筋支帯、長母趾屈筋腱による圧迫 ⁸⁾ - 特発性と外傷性に分けられる
✔20%は特発性80%は外傷性と報告されている ⁹⁾
※足根洞症候群と混同しないように気をつける
臨床で代表的に見られる症状
・足根管や内顆にかけて部位が特定できない痛み
・足裏や踵に走る放散痛や、脛骨神経支配域での感覚異常
・しびれや足関節・足部の筋力低下
・下肢神経テストや絞扼部位の触察で症状が誘発される
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔正確な有病率は不明だが一般人には稀な疾患である ⁵⁾
✔アスリートや身体活動量が高い個人に起こる傾向がある ²⁾
✔女性に多く発症する傾向がある ⁵⁾
✔リウマチ患者の13.3%にみられる ⁶⁾
リスク要因
現時点でエビデンスに基づいたリスク要因はない
✔文献では以下の内因性と外因性の病因が報告されているため、これらはリスク要因となる可能性がある
・外傷 ⁵⁾
・後足部の内反 ⁵⁾
・肥満 ²⁾
・糖尿病 ⁵⁾
・締め付けのきついシューズ ⁵⁾
・妊娠中や循環障害による下肢の浮腫 ²⁾⁵⁾
予後の予測
- 症状が6ヵ月以上続いたり、保存療法の効果がみられない場合には手術が治療選択肢に入る ⁸⁾
- 手術の成功率は44₋91%。外傷性ではなく特発性の方が予後は良好 ⁹⁾
- 神経の圧迫や腫瘤性病変が臨床的に確認できる場合は手術による治療の結果が良い傾向にある ⁹⁾
- 神経組織の回復過程は、下記の表を参照
評価
問診
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
- 現在の症状
・足根管から内顆にかけての部位が特定できない痛み
・足裏や踵に走る放散痛や感覚異常
・しびれや足関節・足部の筋力低下
・まれに持続的な痛みがある
・土踏まずに筋痙攣が生じる - 発症のきっかけ
・ゆっくり、気が付いたら生じる
・外傷の既往歴 - 悪化要因
・日が進むにつれて痛みが増し、夜間の痛みが一番痛い
・長時間の立位や歩行、ランニングなどの運動で悪化する - 緩解要因
・安静
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 立位
・アーチの高さ
・中足部の過回内 - スクワット
・過回内、脛骨内旋 - 歩行
・支持期での過回内、脛骨内旋
触診
損傷部位を特定するために圧痛を調べることが重要である
- 筋組織 :圧痛および筋スパズム、タイトネスを評価する
・後脛骨筋、長趾屈筋、足底筋群、母趾外転筋 - 軟部組織:圧痛部位を確認する
・屈筋支帯(この下を後脛骨神経が通過する)
※この部位を触診すると症状が誘発される - 神経組織:圧迫や牽引ストレスによって症状が誘発されるか確認する
・脛骨神経
・脛骨神経に牽引ストレスをかけるには足部を背屈、外反、MTP関節を伸展させて5₋10秒保つ
※ティネル微候が確認できる
主な評価項目
- スペシャルテスト
・足関節背屈外反テスト:感度81%、特異度99% - アーチの高さ
・舟状骨ドロップテスト - 可動性評価
・足関節ROM:背屈(膝屈曲位、伸展位)、底屈、外反・内反
・距骨下関節:回内・回外
・ショパール関節・リスフラン関節:回内・回外
- 筋力評価
・足部MMT:足底筋群
・足関節MMT:後脛骨筋
- 神経学テスト
・デルマトーム :L4-S2(特に足底部)
・マイオトーム:L4 (前脛骨筋)、L5 (長趾伸筋)、S1 (下腿三頭筋)
・腱反射:S1 (アキレス腱)
- 神経力学テスト
・SLRテスト:背屈外反により脛骨神経にストレスをかけられる⁷⁾
鑑別診断
- 腰椎スクリーニング
・下肢や腰周辺になにかしらの症状や、機能障害が見られる時に確認する - 足底筋膜炎
・踵骨付着部への圧痛の有無、ウィンドラステストで鑑別する - 深屈筋群のコンパートメント症候群
・骨折の既往歴の有無、足趾屈筋群への圧痛、MMTでの痛みの誘発を確認する - 糖尿病
・内科医への受診を勧めることもある
介入プラン
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
現時点で介入方法へのエビデンスレベルは低いのがほとんどであり、個々の臨床推論とも併せて進めていく
足根菅症候群の基本的な理学療法介入の流れは:疼痛緩和→再発予防となる
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
疼痛緩和
- 足底板
・足部の回内や偏平足が確認できる場合は足底板やインソールを検討する
✔34%で有効。偏平足がみられた患者のみで有効であった ⁹⁾
✔荷重時の扁平足や脛骨の内旋は脛骨神経の緊張を増加させる。特に手術後に症状が良くならなかったグループは扁平足を持っている傾向が見られる ⁷⁾ - テーピング
・足部の回内、偏平足が確認できる場合は脛骨神経の緊張が増加している可能性があるためローダイテーピングなどでアーチをサポートすることを検討する
✔症例報告やケースシリーズのみでその使用が報告されているため介入効果について詳しくは調べられていない ⁵⁾ - 神経モビライゼーション
・脛骨神経の緊張を緩和するために脛骨神経モビライゼーションを検討する
・スランプポジションから足部を背屈・外反ポジションを保持しながら膝関節を屈曲・伸展させる
・スランプポジションが難しい場合はSLRのポジションから始める
✔28人を対象としたランダム化比較試験で6週間後に有意なティネル徴候の低下、疼痛の緩和、可動域の向上が見られた ¹¹⁾ - 運動療法
・評価に基づいて伸張性が低下している筋群にはストレッチを検討する
・荷重時の偏平足は脛骨神経への緊張を増加するため、足部の内在筋トレーニング(例:ショートフットエクササイズなど)を検討する
✔28人を対象としたランダム化比較試験で6週間後に有意なティネル徴候の低下、疼痛の緩和、可動域の向上が見られた ¹¹⁾ - 冷却療法
・痛みの一時的な緩和に使用する
✔症例報告やケースシリーズのみでその使用が報告されているため介入効果について詳しくは調べられていない ⁵⁾ - 鍼治療
・疼痛緩和のために検討する
✔症例報告やケースシリーズのみでその使用が報告されているため介入効果について詳しくは調べられていない ⁵⁾ - 患者教育
・介入初期は、絞扼された神経をこれ以上圧迫しないよう、足への荷重を避けたり、日常生活においての活動制限が必要となる場合もある。患者の生活スタイルによって判断する。
・背臥位で足を挙上させると症状が和らぐことが多い
再発予防
- 再発予防について詳しく述べた文献は現時点で見当たらない。理論的には脛骨神経へのストレスを増加させないように神経モビライゼーションや足の内在筋トレーニングなどのセルフケアを中心に行う
臨床例
参考文献
- 【Review】Aquatic Physical Therapy: Running in Water Decreases Stress on the Body
- 【Review】M Ahmad et al, Tarsal Tunnel Syndrome: A Literature Review. Foot Ankle Surg; 2012 Sep;18(3):149-52.
- 【Review】M Kinoshita , R Okuda, J Morikawa, T Jotoku, M Abe (2001) The Dorsiflexion-Eversion test for Diagnosis of Tarsal Tunnel Syndrome. The Journal Of Bone and Joint Surgery. Dec;83(12):1835-9.
- 【Systematic Review】Paul AD et al., Anatomical Characteristics of the Flexor Digitorum Accessorius Longus Muscle and Their Relevance to Tarsal Tunnel Syndrome a Systematic Review. 2015 Jul;105(4):344-55.
- 【Review】Simon C McSweeney, Matthew Cichero Tarsal Tunnel syndrome – A Narrative Literature Review. Foot (Edinburgh, Scotland). 2015 Dec;25(4):244-50.
- 【Clinical Trial】McGuigan, L., Burke, D., & Fleming, A. Tarsal tunnel syndrome and peripheral neuropathy in rheumatoid disease. Annals of the Rheumatic Diseases, 1983: 42(2), 128 -131
- 【Clinical Trial】Daniels TR, Lau JT, Hearn TC. The effects of foot position and load on tibial nerve tension. Foot Ankle Int. Feb 1998;19(2):73-8
- 【Review】Llanos, L. F., Vilá, J., & Núñez-Samper, M. . Clinical symptoms and treatment of the foot and ankle nerve entrapment syndromes. Foot and Ankle Surgery, 1999; 5(4), 211–218.
- Posterior tarsal tunnel syndrome: diagnosis and treatment. Deutsches Arzteblatt International. 2008 Nov;105(45):776-81.
- “File:Structures within the tarsal tunnel – with text.svg” by Y. Yang, M. L. Du, Y. S. Fu, W. Liu, Q. Xu, X. Chen, Y. J. Hao, Z. Liu & M. J. Gao is licensed with CC BY 4.0. To view a copy of this license, visit https://creativecommons.org/licenses/by/4.0