本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 過度の負担により足底筋膜が変性し、足底筋膜や踵骨付着部に痛みが生じる疾患
- 無症状の人よりも、足底筋膜炎の患者は踵骨棘がみられる割合は多いが、踵骨棘と痛みの関係はいまだ不明
✔踵骨棘の割合は無症状の人で63%、足底筋膜炎患者で75% ⁹⁾ - 病態生理
・一般的な疾患だが正確な発症機序は明らかにされていない
✔足底筋膜への変性により発症するという説が広く受け入れられている ⁶⁾
✔足底筋膜のサンプルで組織学的検査を行ったところ炎症を示唆する細胞や化学伝達物質ではなく、コラーゲンの変性、繊維の乱れや石灰化などの様々な変性が主に見られた ¹⁰⁾
✔変性の要因は遺伝、外傷や加齢など様々な因子が関わっていると考えられている ⁶⁾
臨床で代表的に見られる症状
・踵骨の足底筋膜付着部位に圧痛がある
・長時間、足に荷重すると痛みが生じる
・起床後の一歩目に、ガラスを踏んだような鋭い痛みが生じる
・ウインドラステストの陽性
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
- 10%の人が生涯に足底筋膜炎を患う ¹⁾
- 非アスリートにもアスリートにも発症し、足部障害の15%を占める ¹⁾
- 好発年齢は、20-34歳および75歳以上 ¹⁾
- ランニング障害の8%を占め、足部で最も多い障害である ⁸⁾
- ランナーにおける発生率は年間4.5-10%、有病率は5.2-17.5% ⁸⁾
- 高校性、競技者、初心者ランナーいずれにも生じやすい ¹⁾
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献で示されているリスク要因は以下である※[]内の数値は95%信頼区間
・高いBMI(非アスリートの場合):BMI>27 オッズ比3.7[2.9–5.6]¹¹⁾
・加齢:加齢は足底筋膜の衝撃吸収能力や柔軟性の低下につながる ⁶⁾
・足関節の背屈制限 ¹⁾
・ハイアーチ、後足部外反 ¹⁾
・ランニング ¹⁾
・かたい路面でのランニング
・急激な走行距離の増加
・スパイクシューズの着用
・長時間、硬い床の上で立ったり、歩いたりする職業 ¹⁾⁶⁾
・下腿三頭筋の硬さ ⁵⁾⁶⁾
予後の予測
予後は、重症度や評価、患者個人の状況(合併症の有無や競技歴など)によって異なる
- 整形外科の外来で治療を受けた80-95%の患者は、12-18ヵ月以内に回復した¹⁾⁵⁾⁶⁾
- 90%は手術を受けなくても回復する ⁶⁾
評価
問診
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
- 現在の症状
・踵骨の腱付着部分に痛みがある
・起床後の一歩目に、ガラスの破片を踏んだような鋭い痛みが生じる - 発症のきっかけ
・明らかな原因はなく徐々に痛くなっていく
・最近、歩行距離や走行距離、立つ時間が普段より極端に増えた。または日常的に全く運動しない生活習慣がある - 悪化要因
・長時間座った後に立ち上がると鋭い痛みが生じる
・長時間足に荷重すると痛みが生じる - 緩解要因
・安静
・活動量の低下
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 腹臥位
・前足部の内反・外反 - 立位
・ハイアーチまたは扁平足 - 歩行分析
・立脚中期から後期にかけて、踵骨に対し舟状骨が回内する
・足関節の背屈制限により、中足部~前足部の回外が減少または消失。踵挙上が早くみられる - スクワット
・中足部の回内、大腿骨の内旋・内転が見られる - 降段動作
・大腿骨の内旋・内転が見られる
触診
発症部位を特定するために圧痛を調べることが重要である
- 骨組織:副運動の異常などを評価する
・内側距骨結節、距骨(前後)、踵骨(回内外)、立方骨(上下)、第一中足骨(上下)、遠位脛腓関節(前後、上下) - 筋組織:異常な筋スパズムを評価する
・腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋、母趾外転筋、短趾屈筋、小指外転筋 - 軟部組織
・足底筋膜(厚さの確認)慢性の場合、足底筋膜の肥厚がみられる場合がある
※踵骨の足底筋膜付着部位の圧痛を確認する - 神経組織
・脛骨神経
主な評価項目
- スペシャルテスト
・ウインドラステスト:荷重位が推奨される(感度33%、特異度99%) - 形態測定
・舟状骨ドロップテスト:10㎜以上の降下で陽性
- 可動性評価
・足関節ROM:背屈 (膝屈曲位・伸展位)、底屈
・距骨下関節:回内・回外
・ショパール関節・リスフラン関節:回内・回外
・足趾ROM:背屈 (膝屈曲位・伸展位)・底屈
※足趾の背屈制限があると、足底筋膜にかかる負担が増加する
- 筋力評価
・足関節:後脛骨筋、長腓骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋
・股関節:中殿筋、大殿筋
鑑別診断
- 腰椎スクリーニング
・腰部の関連痛が局部的に痛みを生じることは非常に少ない - 股関節スクリーニング
・アライメントを確認する - 膝関節スクリーニング
・同上 - 神経絞扼障害
・足根管症候群や足底神経障害、神経系の症状を訴えている時に疑う - 踵骨下脂肪体の萎縮
・踵骨の足底筋膜付着部位に圧痛がない、かつ触診で脂肪体の萎縮がある
介入プラン
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
足底筋膜炎の基本的な介入の流れは:疼痛緩和→足底筋膜の強度向上→再発予防となる
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
疼痛緩和
- 徒手療法
・評価に基づいて異常な筋緊張やスパズムを抑制するためにトリガーポイントやマッサージを行う
・評価に基づいて関節の硬さがみられる関節にモビライゼーションを行う。介入後には左右差や症状の増減など再評価を行う
✔下肢の関節モビライゼーションと下腿三頭筋の柔軟性を向上するために徒手療法は強く推奨されている(Grade A)¹⁾
✔第一母趾中足趾節関節、距腿関節、リスフラン関節、距腿下関節、膝関節、股関節モビライゼーションを行い正常な可動性の回復を目指すことが推奨される ¹⁾²⁾ - ストレッチ
・下腿三頭筋と足底筋膜のストレッチは柔軟性の向上と疼痛緩和の効果が期待できる
・下腿三頭筋は足底筋膜と繋がっているため両方ストレッチしていくことが大切
✔下腿三頭筋と足底筋膜のストレッチは疼痛緩和に強く推奨される(Grade A)¹⁾ - テーピング
・足部の回内が見られる場合や舟状骨ドロップテストが陽性の場合は検討する
・ロウダイテーピングやキネシオテーピングを用いる
✔回内制限テーピングは短期(3週間以内)において除痛効果が期待できる(Grade A)¹⁾ - 足底板
・足部の回内が見られる場合や舟状骨ドロップテストが陽性の場合は検討する。特に、テーピングで効果が見られる人は足底板で効果がみられやすい
・硬い足底板は足に馴染むまでに時間を要する。そのため初期は2₋3時間の着用から始め徐々に着用時間を伸ばしていくと適応しやすくなる
✔内側縦アーチを支持し、踵の衝撃を吸収できる足底版は短期(2週間)、長期(1年以上)で除痛や機能改善の効果が期待できる
✔オーダーメイドの足底版は市販の足底版に比べて2-3ヵ月以上で、痛みの強さ、機能の回復に有意な差は見られなかったため、市販の足底版でも十分な効果が期待できる(Grade A)¹⁾
✔研究で使用された一般的な足底板の例。Whittaker et al (2020)図1より引用¹²⁾ - 装具療法
・症状が長引いている時、または特に朝に症状が悪化する場合は寝ている間に装着することを検討する
・症状を完全に緩和する可能性は低いためあくまで症状の緩和が目的である。他の介入方法も並行して行うべきである
✔症状が6ヵ月以上続く患者に対して、1₋3ヵ月間で夜間に装着することが推奨されている (Grade A)¹⁾
✔装具の種類により効果に有意な差があるという報告はないため、どの種類でも効果が期待できる ¹⁾
✔研究で使用された夜間装具の例。Wheeler. (2017) 図1より引用 ¹³⁾ - 電気療法
・高いエビデンスはないためその効果は個人差がある。他の介入方法を優先しておこなう
✔ストレッチ、足底版、徒手療法に電気治療を加えても除痛や機能改善に有意差はみられなかった(Grade D)¹⁾ - 患者教育
・痛みが日々悪化している場合は足底筋膜にかかる負担の軽減が最優先課題となる。患者の状況にあわせて活動制限など日常生活でできる足底筋膜への負担軽減方法を指導
・起床後や長時間座った後は、足関節を動かしたり足底筋膜をストレッチする習慣をつけてもらう
足底筋膜の強度向上
- 筋力トレーニング
・ガイドラインによるエビデンスレベルは高くないが高負荷筋力トレーニングは足底筋膜におけるコラーゲン産生を促進すると考えられているため理論的に足底筋膜の質の回復、強度の向上につながる
・高負荷筋力トレーニングはカーフレイズを母趾MTP関節を最大背屈させた状態ですることにより、足底筋膜にかかる張力を最大限にする。文献ではTシャツが使われているが、タオルを巻いてやってもよい
・最初は1セット10回から始め、2日に1回を目安とする。1セット10回を楽にできるようになってきたら手に重りを持つ、またはバッグに重りをいれて背中に背負うなど負荷を増やして行く。両足から始め片足へと進行する。介入初期は平地て行い徐々に階段を使ってカーフレイズを行う。
・評価に基づいて股関節外旋筋や外転筋にもトレーニングを行う。
✔文献ではカーフレイズをする際に5秒かけて踵を挙上させ、3秒保ち、また5秒かけて下ろす方法が推奨されている。効果が期待できるのは3ヵ月後 ¹⁵⁾
✔文献で紹介されている高負荷筋力トレーニングの例
Caratun et al. 2018 図2、図4より引用 ¹⁵⁾
✔足底筋膜を形成するI型コラーゲンは高負荷な張力をかけるとコラーゲンの産生が促進する ¹⁵⁾
✔回内を制限するために後脛骨筋、長腓骨筋の遠心性収縮機能を向上させ、股関節外旋筋、中殿筋の筋機能回復を目指す(Grade F)¹⁾
✔最新のシステマティックレビューにおいても筋力トレーニングは回復の補助になるとされているが確証をもって推奨するにはエビデンスが足りていないとされている ¹⁴⁾
再発予防
- 再発予防について詳しく述べた文献が見当たらないため、個々の臨床観も含めてセルフケアを指導していく
- 理論的には変性の進行を抑制できれば予防できるため、上記の筋力トレーニングを引き続き行うことやストレッチをしてリスク要因となる背屈可動域の制限、下腿三頭筋が硬くなることを予防できる
- 患者教育においてはトレーニング量の指導、場合によっては体重管理や生活習慣を見直すことが必要になる。ここは患者のライフスタイルも考慮し患者と一緒に考える
臨床例
参考文献
- Foot (Edinb) 2018 Mar;34:11-16. Manual Therapy for Plantar Heel Pain.
- Plantar Fasciitis: A Review of Treatments. JAAPA. 2018 Jan;31(1):20-24.
- 【Systematic Review】Dean Huffer et al.,Strength Training for Plantar Fasciitis and the Intrinsic Foot Musculature: A systematic Review. Phys Ther Sport 2017 Mar;24:44-52.
- 【Review】Ang Tee Lim, et al, Management of plantar fasciitis in the outpatient setting. Singapore Med J. 2016 Apr; 57(4): 168–171.
- 【Review】Manuel Monteagudo, Pilar Martínez de Albornoz,Borja Gutierrez, José Tabuenca, and Ignacio Álvarez Plantar Fasciopathy A Current Concept Review. EFORT Open Review. 2018 Aug; 3(8): 485–493.
- Plantar fasciitis. Journal of Research in Medical Sciences. 2012 Aug;17(8):799-804.
- What are the main running-related musculoskeletal injuries? A Systematic Review. Sports Medicine.2012 Oct 1;42(10):891-905.
- 【Review】E Pepper Toomey Plantar heel pain. Foot and Ankle Clinics.2009 Jun;14(2):229-45.
- 【Review】Scott C Wearing, James E Smeathers, Stephen R Urry, Ewald M Hennig, Andrew P Hills. The pathomechanics of plantar fasciitis. Sports Med. 2006;36(7):585-611.
- K D B van Leeuwen, J Rogers, T Winzenberg, M van Middelkoop. Higher body mass index is associated with plantar fasciopathy/’plantar fasciitis’: systematic review and meta-analysis of various clinical and imaging risk factors. Br J Sports Med. 2016 Aug;50(16):972-81.
- Patrick C Wheeler. The addition of a tension night splint to a structured home rehabilitation programme in patients with chronic plantar fasciitis does not lead to significant additional benefits in either pain, function or flexibility: a single-blinded randomised controlled trial. BMJ Open Sport & Exercise Medicine. 2017 Jun 13;3(1):e000234.
- 【Review】