本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- 主に第3‐4足趾間に出現するしびれ、灼熱痛、疼痛、知覚障害などの多彩な神経症状を伴う障害
✔脛骨神経からなる足底趾神経(趾間神経)が中足趾関節付近で中足骨を連結する深奥中足靭帯に圧迫されて生じる神経障害 ¹²⁾
✔神経の線維化に伴い圧痛部位に仮性神経腫が形成される ¹³⁾
✔第3-4 中足骨間で最も多く生じる、残りは、第2-3中足骨間で生じる ¹⁰⁾ - 発生機序
正確な発生機序は明らかになっていないが文献では以下の説がある
✔立位時に、足は踵、第1中足骨頭、第5中足骨頭の3点で三脚のように支えられている。ハイヒールを履いたり、ふくらはぎがかたいことで尖足のような状態になると、足の前側への負担は増加する。また、歩行時は立脚中期、足趾離地期に前足部へ負担がかかることが考えられる。このような負担の増加が神経を過度に刺激する要因となりえる ¹⁾
✔第2-3、第3‐4足趾間には滑液包が存在する。この滑液包は深奥中足靭帯の直下を走行する神経血管束と密接しており炎症を起こすことによって神経の線維化や圧迫をひき起こす ¹²⁾
臨床で代表的にみられる症状
・中足骨頭の足底部にある鋭い痛み、灼熱痛を伴う
・中足骨頭の足趾間で圧痛が最も大きい
・つま先まで放散痛や皮膚感覚の低下がある
・前足部スクイーズテストの陽性
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献では示されている有病率は以下である
・7年間の調査で、30%の人にモートン病をがみられた⁸⁾
・症状がない人でも、MRIにて30-33%の人にモートン病がみられた⁵⁾
・発症の平均年齢は45-50歳²⁾
リスク要因
- 現時点で詳しいリスク要因は研究されていないため不明
✔一説には長時間ハイヒールを履いたりする生活習慣により前足部に過度な負荷がかかり、足底足趾神経に変性が起こったり、小さい傷が修復過程で肥厚することによって発症すると考えられており、ハイヒールを履く習慣はリスク要因になるかもしれない⁴⁾
✔️女性²⁾
✔ハイヒールを長時間履くことで前足部に過度な負荷がかかり、足底足趾神経の変性が生じたり、小さい傷が修復過程で肥厚することがリスク要因になりうると考えられている⁴⁾
予後の予測
- 重症度によるが、個人の状況や評価の結果に合わせて予後は予測するべきである
✔仮性神経腫の大きさが小さいほどコルチゾル注射による予後は良好となる ¹³⁾
✔️神経組織の回復過程は、下記の表を参照¹⁵⁾
評価
問診
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
- 現在の症状
・中足骨頭の足底部にある、灼熱痛を伴う鋭い痛み
・足裏に小石があるような感覚や、靴下がきちんと履けてないようば感じがする - 発症のきっかけ
・前足部の痛みが徐々に生じる。もしくは外傷後に生じる - 悪化要因
・歩いたり、ランニングやダンスなど、体重をかけると痛みが悪化する
・ハイヒールや幅の狭い靴を履くと痛みが悪化する
・裸足だと歩きづらい - 緩解要因
・靴を脱いだり、その部位をマッサージする必要を感じ、マッサージをすると痛みが緩和する
視診・動作分析
現在の症状や機能レベルの把握に役立つ
- 足裏のたこの有無を確認する
- 外反母趾は足趾間への圧を増加させる要因となる
- 歩行分析
・背屈制限によりヒールオフが早くみられる - スクワット
・足の背屈制限がみられる。背屈制限は前足部への負担増加につながる - 靴
・劣化にパターンがあるかを確認する
・靴先が尖っている靴を良く履くか確認する
触診
損傷部位を特定するために圧痛を調べることが重要である
- 骨組織:アライメントおよび副運動を評価する
・中足骨、足趾骨、中足足趾関節(副運動) - 筋組織:圧痛および筋スパズム、タイトネスを評価する
・腓腹筋、後脛骨筋、足底筋群、足底筋膜(踵骨付着部位) - 神経組織
・足底神経
評価項目
- スペシャルテスト
・ウェブスペース圧痛テスト:中足骨間に圧痛があれば陽性
(感度96%、特異度100%、陽性的中率100%、陰性的中率33%)¹⁶⁾
※MTP関節ではなく中足骨間を親指と人差し指でしっかり押すように気を付ける
・前足部スクイーズテスト:痛みが誘発されれば陽性(感度41₋88%、特異度0%)
・モルダーテスト:ポキッという音と同時に痛みが生じると陽性(感度61%、特異度62%) - 可動性評価
・足関節ROM:背屈(膝屈曲位、伸展位)・底屈
※特に腓腹筋の伸長性を確認する。
・距骨下関節:回内・回外
・ショパール関節・リスフラン関節:回内・回外
- 神経学テスト
・デルマトーム :L4-S2(特に足底部)
・マイオトーム:L4 (前脛骨筋)、L5 (長趾伸筋)、S1 (下腿三頭筋)
・腱反射:S1 (アキレス腱) - 神経力学テスト
・SLRテスト:足関節の背屈外反により脛骨神経にストレスをかけられる
画像診断
✔経験がある診療放射線技師による超音波検査の診断の感度は95%となる ¹³⁾
✔MRIが診断のゴールドスタンダードになる
※仮性神経腫の大きさは症状の重症度と常に関連はしていないが、5㎜以上の場合は発症しやすいと報告されている ¹³⁾
鑑別診断
- 腰椎スクリーニング
・足部のみでなく、腰や下肢になにかしらの症状や機能障害がみられる時に確認する - 中足骨の骨折/疲労骨折
・中足骨に局部的圧痛がある時
・痛みの発症が中足骨に過度なストレスがかかる活動と同時な場合に確認する - 他の中足趾節関節痛
・関節リウマチ、関節包炎、変形性関節症、関節亜脱臼、中足間の滑液包炎
介入プラン
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
モートン病の基本的な介入の流れは:疼痛緩和→再発予防となる
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
✔一般的に保存療法が第一治療選択肢となる、保存療法で効果が出なかった時は手術が治療選択肢となる¹³⁾
疼痛緩和
- コルチゾル注射
・保存療法で治療される時に一般的に幅広く使用されている。一定の効果は期待できるがどれくらいの期間において効果が持続されるかは疑問である。数々のランダム化比較試験でその有用性が示されている。
✔2-3回の注射で12ヵ月後でも十分な満足度が患者から得られた¹³⁾
✔疼痛の緩和が3ヵ月で得られたが6ヵ月以上は続かなかった¹³⁾
✔システマティックレビューでは12ヵ月後において痛みの改善率は50%であった。33%が手術を必要とされた ¹⁴⁾ - 装具療法
・足底趾神経への刺激や圧迫を軽減することを目的に使用を検討する
・足底板による効果は個人差があるため、評価によって適当と判断されない限り推奨されない
✔装具療法では中足骨パッドが使用されることが一般的である¹³⁾
✔回内・回外を改善する足底板は効果が期待できないため推奨されない¹¹⁾¹³⁾
✔中足骨パッドと靴指導のみでも、41%の患者さんにおいて介入後3ヵ月で回復がみられた¹¹⁾ - 物理療法
✔体外式ショックウェーブ(3Hzで1000回、エネルギーレベル0.12-0.24 mJ/mm)
介入1週間および4週間で、プラセボ群に比べて有意な痛みの低下がみられた ⁹⁾ - 冷却療法
・アイスパックなどで冷やすことも疼痛緩和の目的で検討する
✔強いエビデンスはないため他の介入方法を優先的に行う ¹³⁾ - 靴指導
・エビデンスはないがハイヒールを履かないことや、足先が狭くない靴を履くことで、足底趾神経への刺激や圧迫を軽減し、疼痛が誘発されづらいことは明らかである - 徒手療法
・エビデンスはないが腓腹筋やヒラメ筋の硬さは前足部への圧を増加させるため下腿三頭筋のトリガーポイントマッサージも疼痛を緩和する補助となりえるため評価に従って判断する - 運動療法
・エビデンスはないが下腿三頭筋、足底筋膜のストレッチや、外反母趾が見られる場合はショートフットエクササイズなども介入の補助となりえる。評価に従って判断する - 患者教育
・窮屈な靴や、ハイヒールを履くことをできるかぎり避けたり、靴紐を締めすぎないよう指導する
・可能な限り前足部へ負担がかかる活動などは控える
再発予防
- 予防戦略について調べた研究はないが、理論的に前足部への刺激や圧迫を軽減することを目指す
【参考文献】
- 【Instructional Review】Nikolaos G, Vasileios L, and Anthony S. (2019). Morton’s interdigital neuroma: instructional review. EFORT Open Rev. 2019 Jan; 4(1): 14–24.
- 【Review】William, R. and Adams, II. (2010). Morton’s Neuroma. Clin Podiatr Med Surg, 27 (2010) 535–545
- Jul-Aug 2015;54(4):549-53. Diagnostic Accuracy of Clinical Tests for Morton’s Neuroma Compared With Ultrasonography. The Journal of Foot and Ankle Surgery.
- 【Review】KKWu. Morton Neuroma and Metatarsalgia. Curr Opin Rheumatol 2000 Mar; 12(2): 131-42
- 【Clinical Trial】J Bencardino et al. Morton’s Neuroma: Is It Always Symptomatic?AJR Am J Roentgeno 2000 Sep;175(3):649-53.
- 【Clinical Trial】M Zanetti et al, Morton Neuroma and Fluid in the Intermetatarsal Bursae on MR Images of 70 Asymptomatic Vlunteers Radiology 1997 May;203(2):516-20.
- 【Clinical Trial】Lee, M.-J. et al., Morton Neuroma: Evaluated with Ultrasonography and MR Imaging. Korean Journal of Radiology.2007; 8(2), 148-155
- 【Clinical Trial】Nguyen US, et al. The occurrence of ipsilateral or contralateral foot disorders and hand dominance: the Framingham foot study. J Am Podiatr Med Assoc. 2013;103(1):16-23.
- 【Clinical Trial】Seok H, Kim SH, Lee SY, Park SW. Extracorporeal Shockwave Therapy in Patients with Morton’s Neuroma: A Randomized, Placebo-Controlled Trial. Journal of the American Podiatric Medical Association. 2016 Mar;106(2):93-9.
- 【Clinical Trial】Luca Padua, Daniele Coraci, Dario Gatto, Davide Glorioso, Fabio Lodispoto. Relationship Between Sensory Symptoms, Mulder’s Sign, and Dynamic Ultrasonographic Findings in Morton’s Neuroma. Foot Ankle Int 2020 Aug 28
- 【Review】 The diagnosis and management of Morton’s neuroma: a literature review. Foot & Ankle Specialist. 2013 Aug;6(4):307-17.
- 【Review】