大腿骨近位部骨折 Proximal Femoral Fracture

本稿はPHYSIO ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基本情報

 

病態

  • 主に転倒によって生じる大腿骨近位部の骨折
  • 代表的なものとして、大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折がある
  • 大腿骨近位部骨折は、65歳以上の高齢者の生涯にわたり障害を引き起こす代表的なものである
  • 65歳上の高齢者においては、骨強度および骨密度が低下しているため、小さな負荷によっても骨折を生じる
  • 分類
    ・関節包内骨折:頚部骨折、骨頭骨折
    ・関節包外骨折:転子部骨折、転子下骨折
  • 大腿骨転子部骨折は、、頚部骨折に比べ、加齢によってリスクが上がりやすい

臨床で代表的にみられる症状
・90%は転倒によって生じる
・荷重時痛がみられる

受傷機転

✔️立位からの転倒は、高齢女性の大腿骨近位部骨折に必要なエネルギーの10倍を生み出す。ただし実際に骨折を生じるのは1%のみ¹⁾
✔️側方への転倒が骨折リスクが高い¹⁾
✔️転倒時に下肢を屈曲・回旋させることで、骨折リスクを軽減させられる

 

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ

✔文献では示されている有病率は以下である
 ・65歳以上の大腿骨近位部骨折のうち、90%は転倒によって生じる¹⁾
 ・1年間の発生率は、1000人中女性8.1人、男性6.2人¹⁾
 ・発生率は1996年に比べ、2012年では減少している¹⁾
  ※骨粗鬆症治療の成果と考えられている
 ・約半数は転子部骨折、37%は頚部骨折、14%は転子下骨折¹⁾

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する

✔文献では示されているリスク要因は以下である ※[]内は95%信頼区間
 ・加齢
 ・女性
 ・閉経
 ・BMIが低い
 ・骨粗鬆症
 ・骨塩度(BMD)が低い
 ・大腿骨の形状異常
 ・大腿骨近位部骨折の既往歴
 ・喫煙
 ・ビタミンD欠乏症
 ・カルシウムの摂取不足
 ・ビタミンA過剰症
 ・オピオイドの摂取
 ・民族:北ヨーロッパでは発生率が大きく、アフリカやラテンアメリカでは発生率が低い

✔️転倒は、大腿骨近位部骨折の独立したリスク要因である¹⁾
 ・加齢
 ・50歳以降の骨折歴
 ・パーキンソン病
 ・糖尿病2型
 ・深部感覚の低下
 ・歩行速度の低下
 ・転倒恐怖感
 ・椅子からの立ち上がりが困難
 ・タンデム歩行が困難
 ・変形性関節症
 ・白人

予後の予測

予後は、重症度や患者個人の状況(合併症の有無や心理状態、競技歴など)によって異なる

✔️大腿骨骨折からの回復後も、術後数ヶ月間は、筋力低下、転倒恐怖感、移動やセルフケアの制限、活動制限のリスクがある¹⁾
✔️大腿骨近位部折後は、その後1年間の死亡リスクが上がる。受傷後3ヶ月の死亡リスクは8倍高い。1年後の死亡率は女性で21.9%、男性で32.5%¹⁾
✔️一般的に手術療法は、早期の機能回復に有効である
✔️保存療法は、障害を複雑化させ、骨折の治癒も悪い
✔️大腿骨頚部骨折には関節置換術が強く推奨されている
✔️不安定な大腿骨転子部骨折、転子下骨折に対しては、可動域向上および脚長低下を防ぐために、Sliding hip screw よりもcephalomedullary device(髄内釘)が推奨される

 

評価

問診

基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する

  • 現在の症状
    ・安静時に痛みがある
    ・歩行時など動作時に痛みがある

  • 発症のきっかけ
    ・側方への転倒
  • 悪化要因
    ・歩行時などの荷重時
  • 緩解要因
    ・安静
    ・杖などの補助具の使用

 

視診・動作分析

  • 立位
    ・健側への重心偏位が見られる

  • 歩行分析
    ・疼痛性跛行が見られる

触診

  • 骨組織圧痛、アライメント、副運動を評価する
    ・大腿骨頭(前後)
    ・腸骨稜、ASIS、PSISの位置関係

 

  • 筋組織:筋スパズムと圧痛を評価する
    ・大殿筋、中殿筋、深層外旋六筋、腸腰筋、大腿直筋
    ・腸脛靭帯 ※転倒時に受傷していることが多い

  • 筋組織:筋スパズムと圧痛を評価する
    ・大殿筋、中殿筋、深層外旋六筋、腸腰筋、大腿直筋
    ・腸脛靭帯 *転倒時に受傷していることが多い

 

主な評価項目

  • 疼痛の評価 (Grade A)¹⁾
    ・Verbal Rating Scale
     Visual analog scale または Numeric rating scale

  • 脚長差

  • 筋力評価
    ・大腿四頭筋の筋力評価 (Grade A)¹⁾
     ハンドヘルドダイナモメーターを用いるのが一般的
     筋力が少ない場合はMMTを実施する
     ✔️受傷後2週間で膝伸展筋力は50%以上低下する¹⁾
    ・股関節MMT:大殿筋、中殿筋 (Grade B)¹⁾
     ※術後急性期を終えてから実施する
  • 可動性評価
    ・股関節ROM
    ・膝関節ROM
    ・足関節ROM

  • ファンクショナルテスト
    ※下記の歩行テストは、人的介助なしで歩行可能な場合に実施する
    ・歩行テスト (Grade A)¹⁾
    ・TUGテスト (Grade A)¹⁾
    ・5回立ち座りテスト (Grade B)¹⁾
    ・6分間歩行テスト (Grade B)¹⁾

  • 質問紙 
    ・Cumulated Ambulation Score (Grade A)¹⁾
    ・機能的自立度評価表 Functional Independence Measure (Grade C)¹⁾
    ・New Mobility Score (Grade B)¹⁾
    ・Falls Efficacy Scale-Imternational (Grade B)¹⁾

  • 家屋環境の評価
    ・玄関や階段など、段差のあるところに手すりはあるか
    ・屋内につまづきやすそうな段差はないか
    ・退院後、家族やヘルパーの補助は受けられるのか

鑑別診断

  • 腰椎スクリーニング
    転倒時に腰椎圧迫骨折を併発している可能性あり
  • 膝関節スクリーニング
    転倒時に膝関節周辺も受傷している可能性あり
  • 下肢神経障害
    SLRテスト  痺れ、感覚異常などがある時に確認する

 

介入プラン

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

大腿骨近位部骨折に対する介入の流れを
術後早期(入院時)、術後早期後(入院時)、術後早期後(退院後)の流れに沿って、紹介する。


疼痛緩和→股関節周囲の筋力向上、バランス向上、荷重トレーニングとなる。本疾患ページではこの流れにそって解説する。包括的な介入を行う必要あり。

介入の基本方針

  • 体型的な運動療法 (Grade A)¹⁾
    評価結果に基づき、機能制限や活動制限の改善を目的とした運動プログラムを実施する。段階的な筋力トレーニング、バランストレーニング、荷重練習やALD練習を行うことを推奨する
    ✔️段階的筋力トレーニングを含んだ運動プログラムでは、移動能力改善に対して、中等度の効果が認められた²⁾
    ✔️認知機能に障害のある高齢者に対しても体型的な運動療法が推奨される(Grade B)¹
  • 職種間による連携
    転倒リスクを評価する (Grade A)¹⁾

術後(入院時)

  • 職種間による連携 (Grade A)¹⁾
    入院期間中は、医師や看護師、その他の専門家と連携して、せん妄を防ぐためにアプローチすることが重要である
    ✔️術後、理学療法による介入は、ホームプログラムの指導も含めて毎日行った方が良い頻度 (Grade B)¹⁾
     
  • 早期離床 (Grade A)¹⁾
  • 有酸素運動 (Grade A)¹⁾
  • 物理療法
    上記の方法で効果が十分な効果が見られない時に使用を検討する。ただし、基本的には物理療法は、運動療法との併用を推奨する。
    ✔️電気療法による疼痛マネジメント (Grade C)¹⁾
    ✔️電気療法による大腿四頭筋の筋力増強 (Grade C)¹⁾
  • 早期の理学療法および可動域練習が必要
  • 自制内であれば、荷重は術後できるかぎり早期に実施した方が良い
  • 退院前評価を実施する
    ・自宅へ退院する場合は、家屋環境の評価や退院後のプランを立てる
    ・施設へ退院する場合は、医療情報をきちんと伝える

退院後の介入

  • 運動療法 (Grade A)¹⁾
    筋力低下やバランス低下、機能制限があれば、外来やグループエクササイズプログラムなどで、フォローアップを行う
    ✔️入院時から退院後まで体型的な運動療法を行うことで、移動能力改善に中等度の効果が認められた²⁾
    ✔️骨折後8−16週後にも筋力低下やバランス低下、機能制限があれば理学療法を継続すべき¹⁾
    ✔️有酸素運動は上記介入と共に (Grade C)¹⁾
  • 患者教育
    大腿骨近位骨折後は、以前よりも身体能力や機能レベルが落ちることが多いことを伝える
    ✔️できるかぎり安全な身体活動を行うべき (Grade A)¹⁾

 

 

参考文献

  1. 【Guideline】 Christine M McDonoughMarcie Harris-HayesMorten Tange KristensenJan Arnholtz OvergaardThomas B HerringAnne M KennyKathleen Kline Mangione. Physical Therapy Management of Older Adults With Hip Fracture.  J Orthop Sport Phys Ther. 2021 Feb;51(2)
  2. 【Systematic Review】Diong J,Allen N,Sherrington C. Structured exercise improves mobility after hip fracture: a meta-analysis with meta-regression. Br J Sports Med. 2016;50:346-355.
  3. 【Systematic Review】Auais MA,Eilayyan O,Mayo NE. Extended exercise rehabilitation after hip fracture improves patients’ physical function: a systematic review and meta-analysis. Phys Ther. 2012;92:1437-1451.

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