本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである
目次
基礎情報
病態
- くり返すランニングや跳躍動作により、脛骨周辺の筋腱に負担がかかり炎症を生じる疾患
- 「脛骨過労性骨膜炎」とも呼ばれる
- 病態生理
正確な病態生理はいまだ完全な合意に達していない
というのも、負担がかかる腱や筋によって症状も変わるためである
✔現在ある説は以下の通り
・後脛骨筋やヒラメ筋の腱炎 ³⁾⁹⁾
・過負荷による骨膜炎や腱付着部炎 ³⁾
・微小な骨のひび(疲労骨折の手前)⁹⁾
・疲労蓄積による筋と骨接合部位のコラーゲン繊維の損傷 ³⁾
臨床で代表的にみられる症状
・脛骨の内側が徐々にうずいて発症する
・脛骨内側の中間から遠位にかけてまでの圧痛(5㎝以上)
・急に走る距離や頻度、トレーニング量を増やした
・ウォーキングやランニング、ジャンプ動作で症状が悪化する
有病率
問診時の鑑別診断に役立つ
✔文献で示されている有病率は以下である
・ランナーにおける有病率は5-35%²⁾
・日本人高校生230人を対象とした3年間の前向き調査では⁶⁾
シンスプリントは102名(44.3%)
脛骨の疲労骨折は21名(9.1%)
リスク要因
問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する
✔文献で示されているリスク要因は以下である ※[]内の数値は95%信頼区間
・シンスプリントの既往歴:リスク比 3.74[1.17–11.91]²⁾
・足底板の使用歴:リスク比 2.31[1.56–3.43]²⁾
・舟状骨の落ち込み:リスク比 1.99[1.00–3.96]²⁾
・女性:リスク比 1.71[1.15–2.54]²⁾
・扁平足³⁾
・BMIが高い²⁾
・ランニング歴が浅い²⁾
・SLRがかたい(男性)⁶⁾
・過度の股関節外旋(男性)²⁾
・過度の股関節内旋(女性)⁶⁾
・ピッチ数164以下の選手はピッチ数174以上の選手に比べ、すねを痛めるオッズ比 6.67 [1.2-36.7] ¹¹⁾
予後の予測
予後は、重症度や患者個人の状況(合併症の有無や心理状態、競技歴など)によって異なる
- 重症度にもよるが、慢性化している場合は回復が遅い傾向にある(慢性化=3ヵ月以上)
✔シンスプリントを持つランナーが18分のランニングを痛み無しでできるまでの期間は、平均102-118日であった ⁵⁾¹⁰⁾ - 発症間もなく負担を取り除ける状況が作ることが可能であれば予後は良好である
- 女性の場合(特にアスリート)は月経周期・栄養バランスの影響を考慮する。摂食障害や月経不順・無月経の場合は栄養管理や月経管理がされているか確認する
✔摂食障害や生理不順は骨の強度低下につながる ¹⁴⁾
評価
問診
基礎情報をもとに鑑別診断や評価・介入プラン作成に必要な情報を聴取する
- 現在の症状
・脛骨の内側がうずく
・脛骨内側縁中間から遠位にかけての痛み
・急性期:活動時や特定の動作のみで痛みが発症する
・慢性期:安静時でも痛みが持続している - 発症のきっかけ
・急激に走る距離や、走る頻度、トレーニング量を増やした経歴がある
・普段しないような活動をした
・以前に同じような痛みを経験したことがある→リスク要因 - 悪化要因
・身体活動中または活動後に痛みが増す
→身体活動以外の悪化要因がある場合はシンスプリントではない可能性がある
・ウォーキング
・ランニングやジャンプ
・しゃがむ動作(スクワット)
・階段 - 緩解要因
・安静
視診・動作分析
- 立位
・過度な前方への重心移動がみられる
※過度な前方への重心移動は後脛骨筋やヒラメ筋などに過度なストレスをかける可能性がある
・足のアーチ、膝の外反または内反、脚の長さの対称性も確認する
※足アーチの低下、膝外反は後脛骨筋やヒラメ筋などに過度なストレスをかける可能性がある
※足の長さの正常範囲は左右差1㎝以内 - 歩行分析:
・踵挙上が早くみられる
※足関節背屈の可動域制限を示俊する - スクワット:
・足関節前面につまりがみられる
・動作時の膝外反の程度
※足関節背屈の可動域制限を示俊する - ランニング:
ピッチ数(1分間あたりの歩数)を確認する
✔️ピッチ数が多い方が怪我のリスクが低い¹¹⁾
※再発防止のためのリスクスクリーニングとしても使用可能(ピッチ数164以下が目安)
触診
- 圧痛テスト:
・脛骨内側中位から遠位にかけてまで(5㎝以上)の圧痛
※各筋肉において圧痛テストを行う。患者の主訴と似た痛みが誘発される場合はその部位に過剰な負荷がかかっている可能性がある - 骨組織:圧痛、アライメント、副運動を評価する
・脛骨(1点の局部的な圧痛は疲労骨折の可能性がある) - 筋組織:筋スパズムと圧痛を評価する
・後脛骨筋、 長母趾屈筋、 長趾屈筋、 腓腹筋、ヒラメ筋
✔特に後脛骨筋と長趾屈筋の筋硬度はシンスプリントとの関連あり ¹²⁾
主な評価項目
- アーチの評価
・舟状骨ドロップテスト:舟状骨の落ち込みが1㎝以上あれば陽性
※アーチが低いとアーチを支える後脛骨筋・長趾屈筋・長母趾屈筋を酷使する可能性がある - 可動性評価
・足関節ROM:背屈(膝屈曲位、伸展位)、底屈、内反・外反
・筋の伸張性テスト:腓腹筋、ヒラメ筋
・距骨下関節:回内・回外
・ショパール関節:回内・回外
・リスフラン関節:回内・回外
・股関節ROM:外旋・内旋(リスク要因と関連) - 筋力評価
・股関節MMT:中殿筋、大殿筋、腸腰筋
・足関節MMT:腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋、長趾屈筋
✔下腿三頭筋の筋力低下は筋疲労の原因となり、ランニングフォームの乱れや脛骨への負担増加につながる³⁾ - ファンクショナルテスト
・ステップダウンテスト:下肢のアライメントを確認する
鑑別診断
- 腰椎スクリーニング:
・脛骨内側に圧痛が誘発されない場合は、腰椎など他部位が関連している可能性あり - 膝関節スクリーニング:同上
- 高位足関節捻挫
・下腿スクイーズテスト
・外傷の既往歴あり - 下肢神経障害:
・SLRテスト 痺れ、感覚異常などがある時に確認する - 疲労骨折スクリーニング:
・局部に集中した痛みがあるが、前脛骨筋や後脛骨筋MMTで痛みが少ない場合に確認する - コンパートメント症候群:
・下肢の放散痛と感覚異常や筋力低下が同時に発症してる場合に確認する
・足部が冷たく感じる、灼熱痛、圧迫されるような痛みやふくらはぎに痙攣が引きおこる
介入プラン
エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する
現時点で介入方法へのエビデンスレベルは低いのがほとんどであり、個々の臨床推論とも併せて進めていく
シンスプリントの基本的な介入の流れは:疼痛緩和→脛骨周辺組織の強度向上→再発予防となる
本疾患ページではこの流れにそって解説していく
疼痛緩和
- 安静
発症直後や活動時に痛みが増す場合は安静させ脛骨周辺組織への負担を軽減することが最優先課題となる。安静の目安は重症度によって2-6週間だが、症状がコントロールできれば脛骨周辺組織の強度向上をするためにトレーニングを同時進行することも検討する
✔急性期の場合、脛骨周辺組織への負担を軽減させるために最も効果的である ³⁾
✔重症度に応じて2-6週間の期間で休むことが一般的である ³⁾
✔疼痛緩和のためにも冷却療法も用いられる(運動後に15-20分の冷却)⁹⁾
✔この期間中でも水泳やエアロバイクをする事は脛骨への負担を最小限に抑えながら持久力を向上させる事ができる ³⁾ - 超音波・徒手療法・電気治療
一般的な疼痛緩和をするための戦略は異常な筋スパズムが確認できる場合は徒手療法によるアプローチやアイシングによる冷却がある
✔急性期において、これらの介入方法が他の方法よりも効果的というデータは現時点ではない ³⁾⁷⁾ - 鍼・注射
鍼の効果には個人差があるため、優先的には行われないが他の介入と併せて検討される場合もある
✔鍼や注射(コルチゾンなど)は現時点で良質なエビデンスの数が少ない - テーピング
偏平足が見られる場合や後脛骨筋の筋出力が低下している場合はテーピングが検討する - 運動療法
股関節外転筋や屈筋のアイソメトリックトレーニング、アイソトニックトレーニングは評価に基づいて進める。疼痛緩和のために下腿三頭筋ストレッチを始める。
✔筋疲労軽減のため毎日ふくらはぎのストレッチや、背屈位から足関節底屈を行う遠心性カーフレイズ運動を行うことが推奨されている ⁸⁾ - 患者教育
介入初期は患者教育を通して現実的な予後、そして適切な介入プランを伝える。特にシンスプリントは症状が長引くケースが多いため、患者自身が長期的なリハビリの必要性と病態、身体活動と脛骨周辺組織への負荷の相関について理解していることが重要である。スポーツ復帰までに3ヶ月ほどかかることもあるため、1-2週間で治るような疾患ではないことを患者が納得するように説明する
✔痛み無しで中等度の強度で20分走るまでに90日かかる場合も少なくない³⁾
脛骨周辺組織の強度向上
- 脛骨周辺組織の強度向上のためには段階的な負荷の進行により順応させることが基本的な考えとなる
✔適切な負荷が骨再形成、腱障害どちらともに有効であるというエビデンスあり⁹⁾ - 運動療法
疼痛緩和期と同様。負荷を進行する際は痛みが消失している、または最小限(VAS<2/10)であることが理想である - 患者教育/トレーニング指導
活動量、トレーニング強度やトレーニング頻度などの最初の負荷は以前の50%以下、または痛みが消失か最小限(VAS<2/10)なレベルから始めることが基本となる
✔運動強度は1週間ごとに10%ずつ増やしていくことが一般的だが、30%までは再発のリスクを抑えながら安全に回復できると報告されている ⁹⁾
✔安静をせずとも、走行距離や強度、頻度を以前の50%まで減らせば回復は可能という報告もある ³⁾
再発予防
- 運動療法
舟状骨の落ち込みはリスク要因のひとつとなるため足の内在筋トレーニング(例:ショートフットエクササイズなど)を検討する
体幹トレーニングも再発予防のために検討される。例:デッドバグ、サイドプランク、パロフプレスなど
✔前脛骨筋、体幹や殿部の筋力トレーニングは、下肢の慢性障害の予防に効果的である。下肢のオーバーユース障害を持ったランナーにおいて、患側の股関節屈筋群および外転筋が、健側と比べて筋力低下がみられたという報告あり⁸⁾
✔体幹トレーニングがランニングの効率性を高めるという報告が散見されている¹³⁾ - 足底板
足底板の使用には相反するエビデンスがあるため、その効果はかなりの個人差があると考えらえる。研究で調べられている足底板のタイプが統一されていないこと、足底板が痛みの軽減につながるメカニズムも詳しく明らかにさていない所も効果に個人差がでる要因の一つと考えられる。臨床では経験や患者の反応によって判断していくこととなる
✔過度の回内が見られる時は足底板による効果が期待できる ³⁾
✔市販のものでも十分な効果が期待できる ³⁾ - ランニングシューズ指導
個人にあったシューズを選択することが大切。履き心地、靴の衝撃吸収力が十分であるかを確認する。衝撃吸収力を増すインソールも検討する
✔衝撃吸収をするインソールはシンスプリントの障害発生率が下がると報告されている ³⁾
✔一般的なランニングシューズは約400-800キロ走ると衝撃吸収力が40%も落ちるため、新しいランニングシューズに定期的に買い替えることが望ましい ³⁾ - 患者教育
個々に応じた包括的な再発予防プログラムの重要性を伝える
✔衝撃吸収する足底板、アキレス腱のストレッチ、シューズ指導、トレーニング量の調整を個々で行った場合に再発が有意に減るという報告は今のところない ¹⁾
参考文献
- 【Review】Debbie J Craig. Medial Tibial Stress Syndrome: Evidence-Based Prevention. J Athl Train 2008;43(3):316-8.
- 【Systematic Review】Phil N, Jeremy W, Gordon W, and Roger A. Risk factors associated with medial tibial stress syndrome in runners: a systematic review and meta-analysis. Open Access J Sports Med. 2013; 4: 229–241.
- Medial Tibial Stress Syndrome: Conservative Treatment. Current Reviews in Musculoskeletal Medicine 2, 27–133
- 【Review】Stuart J Warden et al. Management and Prevention of Bone Stress Injuries in Long-Distance Runners. J Orthop Sport Phys Ther. 2014;44(10):749–765.
- 【Review】Zachary K et al. Risk Factors for Medial Tibial Stress Syndrome in Active Individuals: An Evidence-Based Review. J Athl Train 2016,51(12):1049-1052..
- 【Clinical Trial】Yagi S et al. Incidence and Risk Factors for Medial Tibial Stress Syndrome and Tibial Stress Fracture in High School Runners. 2013 Mar;21(3):556-63.
- 【Review】B R Beck Tibial stress injuries. An aetiological review for the purposes of guiding management. Sports Medicine.1998 Oct;26(4):265-79.
- Hip muscle weakness and overuse injuries in recreational runners. Clinical Journal of Sports Medicine. 2005 Jan;15(1):14-21.
- 【Review】Marinus Winters The diagnosis and management of medial tibial stress syndrome : An evidence update. Der Unfallchirurg. 2020 Jan;123(Suppl 1):15-19
- The treatment of medial tibial stress syndrome in athletes; a randomized clinical trial. Sports Med Arthrosc Rehabil Ther Technol. 2012 Mar 30;4:12.
- 【Clinical Trial】Luedke, L.E., Heiderscheit, B.C., Williams, D.S.B., Rauh, M.J., 2016. Influence of step rate on shin injury and anterior knee pain in high school runners. Med. Sci. Sports Exerc. 48 (7), 1244–125