外反母趾 Hallux Valgus

本稿はPHYSIO⁻ONE独自に厳選した論文・エビデンス、さらに著者の臨床経験・卒後教育プログラムに基づき、疾患の基礎情報、理学療法評価と介入方法についてまとめたものである

基礎情報

病態

  • 第1中足趾関節(母趾の付け根)で母趾が外反変形している状態。第一中足骨頭の内側部位が隆起するバニオン(腱膜瘤)を伴う事もある
    ✔ガイドラインでは、外反母趾角が20°以上のものと定義されている ³⁾
  • 病態生理
    ✔外反母趾の変形の解剖学的要因には、扁平足・開帳足変形・足根中足関節の不安定性・関節弛緩などがあげられるが、これらが結果なのか、それとも原因なのかは完全な合意に至っていない ²⁾³⁾

  • グレード分類
    ✔外反母趾角(HV角)による重症度分類 ³⁾
    ・軽度:20-30°
    ・中等度:30-40°
    ・重度:40°以上

臨床で代表的に見られる症状
・母趾の角度が外反していて、外反角度が20°以上
・母趾の付け根に隆起がある(バニオン)
・第一中足趾節関節に腫れがみられる

 

有病率

問診時の鑑別診断に役立つ

✔️文献では示されている有病率は以下である
 ・日本の高齢者313名のうち、両足に外反母趾を有するものは15.7%、片足のみ10.2% ⁴⁾⁵⁾
 ・18歳以下の女性では15.0% ⁵⁾
 ・世界的なデータでの女性の有病率は男性の2.3倍 ⁶⁾

リスク要因

問診時の鑑別診断や評価時、介入プラン時には以下のリスク要因を考慮する

✔文献では示されているリスク要因は以下である
   ・女性:BMIが低い ¹⁾
 ・男性:BMIが高い ¹⁾
 ・ハイヒール・幅の狭いシューズ ¹⁾
 ・後足部回内、扁平足 ¹⁾
 ・関節弛緩性がある ³⁾
 ・加齢 ³⁾
 ・遺伝(63%で家族内発症があったと報告されている)³⁾

予後の予測

  • 予後は重傷と個人の状態(先天性か後天性など)によって異なる
  • 有痛性の場合は介入せずに症状が改善する可能性は極めて低い。そのため、母趾への負担が大きくなっている要因を評価で見つけ出し、評価結果に従って予後予測を立てる
  • 放置した時のリスクを知っておくと予後の予測がしやすい
    ✔思春期時からの外反母趾で、第一中足趾関節の適合性が低い(亜脱臼の状態)場合、約50%が悪化し、加齢によって前足部障害へ進展する可能性が高い ³⁾
    ✔軽度から中等度の歩行時の有痛性バニオンを主訴とする成人の外反母趾を、治療の介入なしに1年間経過みても自他覚所見が改善することはない ³⁾

 

評価

問診

  • 現在の症状
    ・母趾付け根の痛み
    ・母趾が外反している
  • 発症のきっかけ
    ・徐々に母趾の痛みがでてきた
  • 悪化要因
    ・ハイヒールや、つま先の幅が狭い靴を履く
    ・前足部への荷重
  • 緩解要因
    ・安静
    ・活動量の低下

視診・動作分析

  • 第一中足趾節関節に腫れがみられる
  • 母趾の付け根に大きいタコがある
  • 立位:
    ・扁平足や開帳足がみられる
    ・母趾/足趾が浮き指
    ・踵骨の回内
    ※これらの所見は足底前部の負担を増加する要因になりえる
  • 歩行分析:
    ・支持期にて、扁平足がみられる
    ・背屈制限により、離床時に踵挙上が早くみられる
    ※これらの所見は足底前部の負担を増加する要因になりえる

触診

  • 圧痛テスト:
    ・第一中足趾節関節
  • 骨組織:圧痛、アライメント、副運動の左右差を評価する
    ・第一中足趾節関節(副運動)
    ・底側靭帯(圧痛)
    ・距骨(前後)
    ・遠位脛腓関節(前後、上下)
    ※副運動の制限は第一中足趾関節に過剰な負荷をかける可能性がある
  • 筋組織:筋スパズムと圧痛を評価する
    ・後脛骨筋、母趾内転筋、母趾外転筋、長母趾屈筋、長趾屈筋、足底筋膜
    ※異常な筋スパズムは第一中足趾関節に過剰な負荷をかける可能性がある

主な評価項目

  • アーチ評価
    舟状骨ドロップテスト:舟状骨の落ち込みが1㎝以上あれば陽性

  • 可動性評価
    ・足関節ROM:背屈(膝屈曲位と伸展位)、底屈
    ・筋の伸長性テスト
     ※特に下腿三頭筋の伸長性を確認する
    ・母趾ROM:屈曲、伸展、外転
    ・距骨下関節:回内・回外
     ※距骨か関節の回内は第一中足趾関節の負担増加に繋がる
    ・ショパール関節・リスフラン関節:回内・回外

  • 筋力評価
    ・足関節MMT:後脛骨筋、長腓骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋
    ・足部MMT:足趾屈筋群、母趾外転筋
     ※足趾屈筋群、母指外転筋の筋力低下が徴候として見られることが多い

鑑別診断

  • 腰椎スクリーニング (腰椎-S1の関連痛):
    ・関連痛の場合、局部に集中して症状がでることは稀である
  • 股関節スクリーニング:
    ・股関節可動性や筋力は、扁平足と関連あり
  • 膝関節スクリーニング:
    ・膝外反は扁平足と関連あり
  • 中足骨骨折:
    ・外傷の経歴がある場合に確認する
  • ターフトゥ(第一中足趾節関節靭帯の損傷):
    ・局部的な腫れや、あざが見られる、外反角度は20°以下であるかもしれない
    ・スポーツ活動を頻繁にしている
  • 痛風:
    ・中高年の男性、お酒をよく飲むか確認する
    ・ある日突然、発作的におこる場合に疑う

 

介入プラン

基本的な介入の流れ

エビデンスおよび著者の臨床経験をもとに、PHYSIO⁻ONE独自に作成した介入プラン例を紹介する

基本的な流れとしては、症状の緩和→再発・進行予防となる
第一中足趾関節にかかる負担を軽減することが最優先課題になる

症状の緩和

  • 徒手療法
    軽度から中等度の外反母趾において評価で第一中足趾節関節に制限が見られる場合はモビライゼーションなどで関節可動性の正常化を目指す
    第一中足趾関節のモビライゼーションは、軽度から中程度の外反母趾において、痛みの軽減が可能である(Grade C) ³⁾
  • 運動療法
    軽度から中等度の外反母趾において保存療法を選択した場合は足部の内在筋(特に母趾外転筋)のトレーニングを中心に行っていく。足趾を広げるエクササイズを行うことが理想であるが、バニオンや外反母趾患者は変形のため母趾外転筋を上手く使えないことが多い。そのため患者ができるエクササイズから始める(例:ショートフットエクササイズやタオルギャザーなど)
    ✔母趾外転筋の筋力トレーニングを平均6ヵ月行うと、初診時と比べてHV角30°未満で13.4%、30°以上で2.7%の改善がみられた(Grade C) ³⁾
    ✔外反母趾じゃない患者と比べて母趾外転筋と母趾屈筋群の筋力低下が報告されている。さらに外反母趾患者の母趾外転筋活動が低下していことも報告されている(EMGで計測)。外反母趾の変形がこれらの筋肉を過度にストレッチさせて脆弱化すると考えられている。しかし、これらには相反するエビデンスもあるため軽度、そして進行が進んでいない患者を対象に筋力トレーニングを検討することが推奨されている ⁷⁾
  • 装具療法
    ・軽度から中等度の患者には装具療法を使用して痛みを緩和する。しかし、その効果は一時的なもののため保存療法で経過を観察する場合は痛みが緩和されていくうちに運動療法も導入する
    ✔軽度から中程度の外反母趾の50%以上で痛みの軽減が期待できるが、その効果は使用中止と共に軽減する (Grade C)³⁾
    ✔文献で紹介されている装具方法の例:左からトースプレッダー、外反スプリント、バニオンシールド(腱膜瘤パッド)

    Fig. 2. Orthosis for treatment of Hallux Valgus 図2.p3より引用 ⁸⁾
  • 靴指導 
    痛みを悪化させないために前足部への負荷を増す足先が狭い靴やハイヒールは極力控えるよう指導する
    質の高いエビデンスはないが、炎症部位への直接的な刺激を抑えられるので、疼痛が軽減されることは明らかである (Grade I)³⁾

再発・進行予防

  • 運動療法
    ・関節拘縮予防のためにセルフケアでの外転筋運動、そして関節モビライゼーションを定期的に行う
    ・現時点で運動療法や徒手療法が外反母趾の再発や進行の予防に繋がるというエビデンスはない。しかし、関節の拘縮は外反に繋がる可能性があるためセルフケアなどで拘縮を予防することは論理的である
  • 装具療法 
    ・長期での装具療法には注意が必要である。過度な矯正はかえって症状の悪化に繋がる可能性もある
    ✔変形矯正を目的とした場合は3₋7°の効果は期待できる。報告されている範囲では最低でも2年以上装着しているケースが多い。しかし、HV角の進行防止には効果がないと言われている (Grade C)³⁾

  • 補足
    研究では基本的に一つの介入方法のみで経過を観察することが多いため、現時点ではどの介入方法も完全な合意には至っていない。臨床では患者に対して一つの方法のみで介入を行うことは無いため、患者個人の評価の結果やセラピストの臨床推論も加え、総合的に考えて介入プランを構築することが推奨する

参考文献

  1. 【Clinical Trial】Nguyen US, Hillstrom HJ, Li W, et al. Factors associated with hallux valgus in a population-based study of older women and men: the MOBILIZE Boston Study. Osteoarthr Cartil. 2010;18(1):41-6.
  2. 【Review】Hecht PJ, and Lin TJ. Hallux valgus. Med Clin North Am. 2014 Mar;98(2):227-32.
  3. 【Guideline】日本整形外科学会診療ガイドライン委員会.第1 章 病因・病態・診断,外反母趾診療ガイドライン; 2014: 5-21
  4. 【Review】西村明展,中空繁登,須藤 啓広,加藤公.外反母趾の重症度・有病率と危険因子の検討 第7 回旧宮川村検診より.日本足の外科学会雑誌. 2012: 33(1). 29-32
  5. 【Clinical Trial】森下ら. 若年女性における外反母趾の有無と内側アーチおよび踵骨傾斜角との関係. リハビリテーション科学ジャーナル. 2019:14(1):39-46
  6. 【Systematic Review】NixS, SmithM, VicenzinoB. Prevalence of hallux valgus in the general population:a systematic review and metaanalysis. J Foot Ankle Res 2010, 27, 21-29.
  7. Systematic Review】Nasrin MoulodiFatemeh AzadiniaIsmail Ebrahimi-TakamjaniRasha AtlasiMaryam Jalali, Mohammad Kamali. The functional capacity and morphological characteristics of the intrinsic foot muscles in subjects with Hallux Valgus deformity: A systematic review. Foot (Edinb) 2020 Dec;45:101706.
  8. 【Review】Chul Hyun ParkMin Cheol Chang. Forefoot disorders and conservative treatment. Yeungnam Univ J Med.2019 May;36(2):92-98.

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