人体工学に基づくデスク環境設定 Ergonomics for Computer Workstation

  • はじめに

多くの患者が長時間のデスクワークによって頚部痛や腰痛が発生したと訴えている

実際に、長時間座位によって
・腰椎への圧迫ストレスを増加させる
・椎間板への栄養を不足させる
・腰椎の可動性を低下させる
・腰痛や頚部痛のリスクとなる
ことが報告されている¹⁾

その一方で、正しく座ったり、モニターの位置を適切にすることで、腰痛や頚部痛を予防できることも報告されている¹⁾。そのため、本コラムでは、イギリス、オーストラリア、カナダ、アメリカなど各国のガイドラインを包括的にまとめたガイドラインをもとに、人体工学に基づくデスク環境設定を紹介する¹⁾

 

理想的なデスク環境設定

ガイドラインで提示されている姿勢はまとめると下図のようになる

 

その中でもPHYSIO ONEで大切にしているポイントは以下の3点である

  1. 椅子の高さ
    太ももは水平、膝関節は90°で、両足はきちんと床に着く高さ
  2. 机の高さ
    姿勢はまっすぐ、肘の角度は90°で、肘を机に載せられる高さ
  3. モニターの位置
    40cm以上目から離れており、水平から15-25°見下ろせる位置
    頭部の傾きは、最大で前傾15°まで

我々の経験上、この3点をガイドラインに従って設定するだけで、デスクワーク時の姿勢は自然と改善される。職場の環境によってはすべて実現できるわけではないが、可能な範囲で理想の環境に近づけることが大切と考えている

以下に各項目について詳細を説明する

姿勢

① 垂直な座位姿勢
② 後ろにもたれた座位姿勢
③ 座面が前傾した座位姿勢
④ 立位
の4つがガイドラインによって推奨されている¹⁾²⁾

(文献2より引用)

いずれにおいても、頭部から体幹にかけてまっすぐなっていることがポイントである

モニターの位置

  • 目線の角度は水平から下に0-60° ¹⁾
    ・ばらつきがあるが15−25°と報告しているものが多い
    ・タッチスクリーンディスプレイでは30-35°が推奨される
  • 頭部の前傾角度は15°以内¹⁾
  • モニターと目の距離は40cm以上¹⁾

これらは目の疲労の軽減や、頚部筋の動き、筋活動の抑制に繋がる。見えづらい場合、モニターを近づけるのではなくフォントサイズを調整するといった工夫も大切である

いすの設定

  • 座面の高さは38−56cm、深さは33−48cm
  • 両足は床またはフットレストにきちんとつくこと
  • 太ももは床に対して水平であること
  • 膝の角度は90°か、もう少し広いこと

上記の基準を満たすように椅子の高さを調整する。以下は補足情報

  • 座面が高いと膝後面への圧迫負荷が高まり、座面が低いと殿部への負荷が高まる¹⁾
  • 座面の角度は水平から前傾10°
    ・座面の角度が前傾10°では水平に比べ椎間板内への圧迫を30%減少させる
    ・前傾が15°以上になると腰部の筋緊張を増加させる
  • 座面にクッション性があり、縁に丸みがあるものは下肢後面の圧迫を減らす
  • クッションを用いる場合、5cmほでの厚みで滑らないものが良い
  • 座面の横幅が広すぎると、背もたれやアームレストの効果がなくなる

背もたれの設定

  • 背もたれの高さは45−53cm、横幅は36−48cm
  • 背もたれの角度は垂直から後傾30°まで

以下は補足情報

  • 垂直から後傾20°の角度は、椎間板への圧力を減少させる
  • 後傾30°の角度は背筋の筋活動を低下させる
  • しかし後傾40°以上になると背筋の筋活動を増加させる

アームレストの設定

  • 好みによるため着脱式が推奨される

アームレストの効果としては以下の4点が報告されている

  • 首や肩、腕の負担を軽減できる
  • 肩や腕の疲労を軽減する
  • 脊椎への負担を軽減できる
  • 椅子への立ち座りを補助する

デスクの設定

  • 一般的には高さ68-72cm、調整可能なら高さ56-76cm
  • 横幅は76cm、深さは90cm
  • デスクは肘より少し低く、キーボード触っている際の肘の角度は90°

キーボードの位置

  • キーボードは肘よりも5cm高い位置
    ・手関節背屈が15°未満になり、正中神経にかかるストレスを軽減でき、手根管症候群の予防につながる
  • ホーム列(Enterキーのある列)と机の端との距離は10-26cm
    ・12cm以上であれば、手関節まわりの障害リスクが軽減される

その他

  • デスク下に足を伸ばせるスペースはあるべき
  • 腰部サポートはどういったものが良いかは明らかになっていない
  • ノートパソコンの場合は外付けのキーボードの使用や、こまめに姿勢を変える事を検討する

最後に

体の大きさによって、適切な環境設定は異なるので、基本的には高さなど調整可能なものが推奨される。また、現実的に理想的な姿勢で過ごせている人は少ないため、肘の角度、キーボードの位置、姿勢はあくまでも目安とし、対象者の習慣や職務行動なども考慮する必要がある

関連項目

 

参考文献

  1. 【Guideline】Woo EH, White P, Lai CW. Ergonomics standards and guidelines for computer workstation design and the impact on users’ health–a review. Ergonomics. 2016 Mar 3;59(3):464-75.
  2. 【Guideline】American National Standards Institute. 2007. American National Standard for Human Factors Engineering of Computer Workstations (ANSI/HFES 100-2007): Santa Monica, California: The Human Factors Society.
  3. 【Guideline】National Occupational Health and Safety Commission. 1996. Guidance Note for the Prevention of Occupational Overuse Syndrome in Keyboard Employment. Canberra: Australian Government Publishing Service Press.
  4. 【Systematic Review】Chen X, Coombes BK, Sjøgaard G, Jun D, O’Leary S, Johnston V. Workplace-based interventions for neck pain in office workers: systematic review and meta-analysis. Physical therapy. 2018 Jan 1;98(1):40-62.

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